上 下
18 / 47
辺境伯様の元へ

出迎える

しおりを挟む
 
 執事長の不自然な行動を目撃して数日。

 執事長にあの場面を私が目撃したことを悟られないよう、それまでと同じように行動を続けました。
 そのため、あの場にはあの日以来、近付いてはいません。まあ、もしあれが後ろめたい事であれば頻繁に行動を起こさないとは思いますけど、変に気にしていると気付かれてしまう可能性があります。

 それと、いつものように屋敷の中を確認に回っていたところ、どうやらあの場所は屋敷の中から見えない位置にあることに気付きました。
 やはり、あの位置で人と会っていたという事を誰にも気づかれたくなかったという事なのかもしれません。偶然の可能性も否定できませんが。

 さて、本日はアグルス様が屋敷に帰って来る日です。
 しばらくしたらまた王都の方へ出向かなければならないようですが、それを最後に滞っていた仕事が完了すると先に送られてきた手紙に書かれていましたので、ようやく落ち着いた生活に戻れそうなので安心ですね。執事長の事を除けば、ですけれど。

 そろそろアグルス様が戻られる時間が近づいてきましたので、私も出迎えのために身なりを整えなければなりませんね。



 アグルス様の乗った馬車が屋敷に到着しました。
 馬車から降りて、屋敷の中に入って来るまでにそれほど時間が掛かる訳でもないにも拘わらず、アグルス様の出迎えに出て来ているメイドの数が少ない。
 本来でしたら、その場から離れられない仕事をしているメイド以外は出迎えに来るはずなのですが、アグルス様を出迎えにホールに出て来たメイドはランを合わせても3人しかいません。

 私がこのお屋敷に来た際は、出迎えに10人ほど出迎えのメイドが居ましたので少ないですね。もしかしたらアグルス様の意向なのかもしれませんが、執事長による嫌がらせの気がします。
 そもそも率先して出迎えをすべき執事長も来ていませんし、ここに来ている2人のメイドは執事長の行動に賛同していない数少ないメイドですから。


「「おかえりなさいませ。旦那様」」
「……ああ」

 お屋敷に帰ってきたアグルス様は出迎えに来ていたメイドを見て、一拍置いた後に返事をされました。やはり、出迎えが少ないのは意向ではないようです。

「おかえりなさいませ。アグルス様」
「ああ、ただいまトーア」

 アグルス様は優しく微笑み、私を抱きしめて来ました。

「え……あの」

 いきなり抱きしめられたため戸惑いから声を上げるも、アグルス様から言葉は返ってきません。
 背中に回された腕はそれほど強い力が入っている訳ではないようなので、振りほどこうと思えば出来そうですが、それほど嫌ではないのでしませんけど。

 知っていましたが、アグルス様は背が高いですね。
 お父さまよりも背が高かったはずですので180センチ後半はあるでしょうか。私は150の前半しかないので結構な身長差がありますね。
 その所為でアグルス様がやや身を屈められているのが申し訳なくなってしまいます。

 化粧がアグルス様の着ている衣服につかないよう気を付けながら、アグルス様の顔を伺います。するとそれに気づいたようでアグルス様はまた私に微笑みかけてきました。

 実のところ、このように近距離で男性から微笑みかけられた経験は、今まで一切ありません。
 オージェと婚約はしていましたが、政略的な物でしたし、今のような状況になった事は1度もないのです。

 だからでしょうか。こう嬉しそうな表情でまっすぐ見つめられると恥ずかしいと言いますか、嬉しさなどの色々な思いから顔が熱くなってしまいます。

 私の表情を見てか、アグルス様は満足そうな笑みを浮かべた後、少しだけ背中に回した腕に力を入れ、ゆっくり腕を解いて行きました。

「アグルス様」
「なんだ?」
「今のは……いえ、あとで時間を頂けませんでしょうか」

 何故いきなり抱きしめて来たのかが気になりますが、それよりも執事長の事を話さなければなりませんので、先にお伺いを立てておかなければなりません。

「ふむ、わかった」

 私の表情が少し変わったことに気付いたのか、アグルス様は少し表情を引き締めそう返事をしてきました。
しおりを挟む

新作の恋愛ものです
宜しければ読んでください
☆完結☆
婚約者が真実の愛を見つけたらしく婚約破棄された。
……まさか、その相手って妹……え? だれ?

現在更新している作品になります
ジャンル:ファンタジーのVRMMO物になります。

UWWO
 引きこもりヴァンパイアは暗躍する?


あなたにおすすめの小説

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

幼なじみが誕生日に貰ったと自慢するプレゼントは、婚約者のいる子息からのもので、私だけでなく多くの令嬢が見覚えあるものでした

珠宮さくら
恋愛
アニル国で生まれ育ったテベンティラ・ミシュラは婚約者がいなかったが、まだいないことに焦ってはいなかった。 そんな時に誕生日プレゼントだとブレスレットを貰ったことを嬉しそうに語る幼なじみに驚いてしまったのは、付けているブレスレットに見覚えがあったからだったが、幼なじみにその辺のことを誤解されていくとは思いもしなかった。 それに幼なじみの本性をテベンティラは知らなさすぎたようだ。

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるラナーシャは、妹同伴で挨拶をしに来た婚約者に驚くことになった。 事前に知らされていなかったことであるため、面食らうことになったのである。 しかもその妹は、態度が悪かった。明らかにラナーシャに対して、敵意を抱いていたのだ。 だがそれでも、ラナーシャは彼女を受け入れた。父親がもたらしてくれた婚約を破談してはならないと、彼女は思っていたのだ。 しかしそんな彼女の思いは二人に裏切られることになる。婚約者は、妹が嫌がっているからという理由で、婚約破棄を言い渡してきたのだ。 呆気に取られていたラナーシャだったが、二人の意思は固かった。 婚約は敢え無く破談となってしまったのだ。 その事実に、ラナーシャの両親は憤っていた。 故に相手の伯爵家に抗議した所、既に処分がなされているという返答が返ってきた。 ラナーシャの元婚約者と妹は、伯爵家を追い出されていたのである。 程なくして、ラナーシャの元に件の二人がやって来た。 典型的な貴族であった二人は、家を追い出されてどうしていいかわからず、あろうことかラナーシャのことを頼ってきたのだ。 ラナーシャにそんな二人を助ける義理はなかった。 彼女は二人を追い返して、事なきを得たのだった。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

幼馴染が好きなら幼馴染だけ愛せば?

新野乃花(大舟)
恋愛
フーレン伯爵はエレナとの婚約関係を結んでいながら、仕事だと言って屋敷をあけ、その度に自身の幼馴染であるレベッカとの関係を深めていた。その関係は次第に熱いものとなっていき、ついにフーレン伯爵はエレナに婚約破棄を告げてしまう。しかしその言葉こそ、伯爵が奈落の底に転落していく最初の第一歩となるのであった。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

処理中です...