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インスタントダンジョンとアンゴーラ
霊泉
しおりを挟む目の前に滑り込んで来たプレイヤーを見て、イケシルバーはあからさまに呆れたような表情をしてため息を吐いた。
「霊泉よ。遅れてきたことに対する謝罪は良いのじゃが、飛び込んでくるのはどうなんじゃ?」
「あ、ごめんなさい。全力で走っていたので止まれなくなってしまって」
「次からは気を付けるんじゃぞ」
「はい」
イケシルバーの反応や霊泉と呼ばれたプレイヤーの対応を見ると、おそらくこの人はいつもこうなのだろうな、というのがよく分かった。
まあ、これで予定していたメンバーが集まったわけだから、ようやく深めな情報交換ができるんだよね。
「さて、話の続きを、と言いたいところじゃが、ミヨさんは霊泉と会うのは初めてじゃったよな」
「そうだね」
「だったら、先に紹介だけは済ませておいた方が良いじゃろうな」
まあ、知らないよりはある程度知っている方が話は進めやすいのは間違いない。ただ、今その人は飲み物を買いに行っているんだけど。何と言うか、マイペースな人である。
飲み物を買ってきて一服着いたところでようやく自己紹介に移った。
「霊泉です。テイマーやってます。それと一応、ウロボロスのテイマー関連の情報のまとめ役もやっています!」
「ああ、うん、そう」
ああ、マイペースかつぐいぐいくるタイプかぁ。あまりこういう人って得意じゃないんだよねぇ。と言うか、この人がまとめ役なの? 大丈夫なのかな。ちょっと不安なんだけど。
ぐいぐい来て嫌だなぁ、といった感じの視線をイケシルバーに向けると、イケシルバーはため息をつきながら身を乗り出していた霊泉を窘めて落ち着かせている。
「まあ、これでも上手くやっておるのじゃよ。それに、テイマーやサモナーはクラン内でも人数が少なくての。本当ならテイマーは一番検証する項目が多い故、もう少しプレイヤーが多いと良いのじゃがのぅ」
ああ、ウロボロス内でも職の偏りがあるんだったね。新緑のダンジョンを検証している時にも愚痴ってたっけ。それに聞くところによるとクランのメンバー数、今あるクランの中でも五指に入るらしいけど、やっぱり人気によって影響は出ちゃうんだろうね。
それと、イケシルバーのなにか求めて来ているような視線は無視した。前から何度か誘われてはいるけど、私は好きなようにゲームをプレイしたいからクランに所属するつもりはない。パーティーも本当に必要なとき以外は組む気もないしね。
霊泉の自己紹介も終わったので、本題に戻る。
一通り、テイマー関連で新しく手に入れた情報を霊泉に話したところ、思いの他真面目に話を聞いていたので驚いた。
「なるほど、サファイアスライムにアルラウネですか。現在、レアスライムの進化系とヒト型モンスターはミヨさんがテイムしている子たちしか確認できていないのです。出来ればこの後、その子たちをじっくり観察しても良いですか?」
「うーん……まあ、長時間でなければ」
情報交換が終わった後にフィールドに出て第4エリアを探索するつもりだから、長引くのは困るんだけど。今の霊泉の態度からしてそこまで問題は起きないと思う。最初の状態に戻ったらわからないけども。
「ありがとうございます。では、テイマー関係の話しも終わりましたし、さっそく……」
自分の関係する話が終わったからって速攻で行くのね。いや、この人はテイマー関係の話を聞くために来たのだから、ここからの話しに殆ど参加する必要はないんだけど。なんだかなぁ。
まあ、イケシルバーが呼んだのだから、これでも検証するという事に関しては優秀という事なんだろうけど。
腑に落ちないけど、私から止める理由もない。そのまま席から立ち上がった霊泉を見送ろうとしたんだけど、ふとさっきから気になっていたことを聞いてみることにした。
「そう言えば霊泉さんってテイマーなんだよね?」
「あ、はい。そうですが?」
「なら、どうしてフルプレートの鎧を装備しているんです?」
霊泉はテイマーにも関わらず、フルプレートの鎧を装備しているのだ。今はヘルムを装備していないけれど、話しをするために外しているのだろう。
そもそも、テイマーの装備は基本、前衛の職業ではないのでフルプレートの鎧を装備することはほとんどない無い。というか、装備できないようになっている。一応見た目だけの装備でこういった装飾品も存在しているので、装備としてではなくファッションとしてつけているプレイヤーはいるにはいるけど、何か不自然な感じがして気になった。
「え? あーこれはですね。装飾品じゃ無いんです」
「ん? どういうこと?」
「実はこれ、と言うかこの子はテイムモンスターなんです」
「……はい?」
この鎧がテイムモンスター? どう見ても普通の鎧なんだけど、いや、アンデット系ならあり得る? どうして装備出来ているのかはわからないけれど、アンデット系であるなら他のゲームでもあるしないとは言えない。FSOにアンデットが存在しているっていうのは知らなかったけど。
「まあ、見た目だけならわからないですよね。他のメンバーにも同じような反応をしてくる人が多いですから」
「だろうね」
いや、もう、これ完全に普通の鎧にしか見えないんだよね。私も聞かなかったら知らないままイケシルバーたちと別れていただろうし。
「それで装備を解除すれば理解してもらえると思うので、一回脱ぎますね。レヴェナ、装着解除」
霊泉がそう言うと、装備していた鎧が光り一瞬で霊泉の体から離れた。そして霊泉の横に中身のないフルプレートの鎧が地面から少しだけ浮いた状態で佇んでいる。そして誰も触っていない状態で勝手に腕を組みだしたので、自律して動いていることもわかる。
「ああ、本当に普通の鎧じゃなくてモンスターなんだ、って、え?」
霊泉が装備していた鎧が本当にモンスターであることが理解できたので霊泉の方を見たのだけど、その中から現れたアバターに少しだけ驚いた。
「霊泉さんって女性アバターだったの?」
「え? あ、はい。そうですけど」
「声がくぐもって聞こえてたから男性アバターだと思ってた」
「あー、たまにそういうことも言われますね。別に隠しているわけではないんですが」
声が結構ハスキーというか少し低めな感じに聞こえていたから男だと思っていたんだけど、まさかの女性。しかも、鎧をつけていたからわからなかったけど、すごいスタイルだ。何がとは言わないけどすごく大きい。
霊泉は私の質問に答え終え、モンスターである鎧を装着し直すとすぐにシュラたちの元へ向かった。それを見ていたイケシルバーは小さくため息を吐いた。
「すまぬの。あ奴は優秀ではあるのだが、どうしてもマイペースというか、好きなこと以外はあまり目に入らぬようでのぅ」
「うんまぁ、まあいいよ。私に直接被害があるわけでもないし、シュラたちの方も見ているだけっぽいし、それにあの鎧の事も知れたから」
シュラたちを観察しに行った霊泉だけど、観察しに行く際に少し勢いがあったため、もしかしたら許可なくシュラたちに触れるかもしれないとちょっと思っていた。ただ、霊泉は自ら言ったように観察するだけで直接シュラたちに触れるようなことは無かった。
「それならよいのだがの。では、話の続きをしても……」
「そうだね。そっちも別に暇という訳ではないだろうし、さっさと話しを終わらせちゃおうか」
「ふほほ。そう言ってくれるのは助かるぞい」
そうして、私たちは情報交換の話を再開した。
「それで、テイムモンスター以外の情報もあると聞いたのじゃが、どのような物なのかの」
「もしかしたら私以外から情報を得ているかもしれないけど、インスタントダンジョン関連だね」
「ほう? 確かにウロボロスの方にもいくらかそれについての情報は来ているぞい。ただ、正確な情報かそうかの検証はまだじゃな。そもそも、インスタントダンジョンが出現したのも昨日が初めてじゃったし、アナウンスがあったのもイベント中だったからのぅ」
「あー、確かに私がインスタントダンジョンを見つけたのはイベント中だったから、そのアナウンス自体私のかもね」
確か、時間的にも個人戦の決勝トーナメント中だったはず。それに昨日はウロボロスのメンバーの大半はイベントに参加していただろうから、検証が進んでいないのも当たり前かな。
「ふほほ、イベント中とは、まさかミヨさんはそれほど早くインスタントダンジョンを見つけていたとはのう。出来る限り情報を集めてから検証をする予定、とはいってもインスタントダンジョンを見つけるのが先じゃな。どうも、インスタントダンジョンの発生数はそれほど多くは無いようじゃから、少々検証には時間が掛かりそうなんじゃよ。それにインスタントダンジョンはクリアしてしまうと無くなってしまうようじゃしのう」
確かに、クリアすると無くなってしまうのは検証するのには向いてないよね。というか、クリアして乗っ取らないとそのダンジョンは消滅しちゃうのか。
「そうなんだ? まあ、ならその先のプレイヤーメイドダンジョンについての情報はある? たぶんこの情報を持っているプレイヤーはそんなに居ないと思うけど」
「プレイヤーメイドダンジョン? ……じゃと?」
ありゃ、このイケシルバーの反応からしても、まだウロボロスが得ていない情報なんだ。
まあ、おそらく実装されてから1日しか経っていないだろうし、この情報を持っているプレイヤーは自分の利益が確実になるまで普通は情報開示しないだろうから、仕方ないんだろうけど。
「そう、プレイヤーメイドダンジョン。まあ、長いからPMダンジョンだね」
「ぬぅ。……プレイヤーメイド、という事は、プレイヤーがダンジョンを操作できる、という事かの? しかし、ミヨさんはテイムモンスターとインスタントダンジョンの情報しかないと……」
イケシルバーの反応からPMダンジョンの情報がインスタントダンジョン関連だと気付いていないみたいだね。まあ、同じダンジョンといっても、クリアすれば消えてしまうインスタントダンジョンが、プレイヤーが所有できるようになるとは簡単には思い付かないか。
「いや、嘘は言ってないよ? PMダンジョンはインスタントダンジョン関連の情報だからね」
「ぬ? どういう……まさか、インスタントダンジョンがプレイヤーメイドダンジョンになるという事か!?」
「まあ、そう言うことだね」
寝耳に水、とまでは言わないけれど、イケシルバーはかなり驚いた表情をして私を見てきた。
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