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ちょっと先の話

少し先の一場面 とあるパーティーのダンジョン攻略・・・

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 比較的初期エリアに分類される第2エリア。そこにはプレイヤーたちの間で有名なダンジョンが存在している。

 そのダンジョンは第2エリアにも関わらず、現在攻略最前線に出てくるモンスターよりも強い敵が出て来るのだ。故に第2エリアの適正レベルでは攻略などできる訳もない。ダンジョンの第1層からすでに5以上先のエリアで出てくるレベルのモンスターが当たり前のように出現する。

 このダンジョンを目的とした上位層のプレイヤーによって第1層の攻略はされている。
 しかしだ。第2層以降のクリア報告は殆どないのだ。あったとしてもそれは最前線で活躍しているプレイヤーのものが大半で、しかもそれはほんの一握りの本当に強いと言えるプレイヤーたちだけなのだ。
 そして、その報告も最近は減っており、ダンジョンの中に出現するモンスターのレベルが上がっているとの報告もある。

 そんなダンジョンに挑む奇特なプレイヤーたちが、またダンジョンに入ってきた。男4人、女2人の極めて一般的なパーティー構成。おそらく前衛後衛もバランスの取れた堅実な構成だろう。

「ここは前に来た時とそれほど雰囲気は変わっていないな」
「さすがに1層が劇的に変わっていたら掲示板なりに報告は来ているだろ」
「確かにそうだが」
「敵の強さも変わっていないようで安心です」
「いや、ここの敵がこれ以上強くなったらさすがにこのダンジョンに挑むようなプレイヤーは居なくなるだろうよ」
「運営もさすがにバランス調整はしているってことだろう。まあ、あくまでもこの層だけだが」

 実を言うと、このダンジョンは割と人気のダンジョンなのだ。クリアできないと言っても、第1層ならクリアできるプレイヤーは比較的多いし、出て来る敵が強いということは勝てればリターンが大きいということでもある。現に最前線で活躍しているようなプレイヤーはこのダンジョンで得たアイテムの恩恵を受けているのが大半だ。

 そもそもこのダンジョンがクリアできていない理由は、各層に配置されているゲートキーパーと呼ばれるプレイヤーを次の層に行かせるのを拒む小ボス的な存在が強すぎることが原因なのだ。

 さて、ここでこのゲームにおけるダンジョンについて説明する。
 このゲームでのダンジョンの役割は、主に混雑の回避とプレイヤーの強化が目的である。各エリアの広さは別に問題はないのだが、レベル上げや素材集めのための効率的な狩りを目的とした場合、確実にプレイヤー間での軋轢が発生する。それを避けるために設置されたのがダンジョンである。

 ただし、このダンジョンは別の使い方もあるのだ。かく言うこのダンジョンもその使い方をした結果の産物であり、そのためダンジョンの難易度が上がっているのだ。

「順調じゃねぇかな」
「ああ、これまでにないくらいに順調だ」
「いや、第4層のボスに勝てたのは完全に運だよね!? それって順調とは言えなくない?」
「いやいや。今まで第3層のボスすら越えられなかったのに第4層のボスまで倒せたのは運が良かったとしても順調と言ってもおかしくは無いだろう?」
「うーん…そうかなぁ」

 運も実力の内、ではあるが確かにそれでは順調とは言い難い。しかし、このダンジョンの第5層に到達したプレイヤーはこの者たちが初めてであり、ここまでモブモンスターどころかゲートキーパーに倒されていないことを考えれば順調といえるだろう。

「マップの広さ的にそろそろゲートキーパーが出てきそうな感じだが」
「うーん。第4層の広さから推察すればそうだね。ただ、ダンジョンは5層ごとに強いゲートキーパーが出る設定っぽいからどうかなぁ」

 プレイヤーたちはダンジョンのさらに奥に進んで行く。そして、行く手を阻むように出現し続けるモブモンスターを対処しながら30分程進んだところで、ようやく開けた場所に出ることが出来た。

 
 プレイヤーたちはその開けた場所に入り、周囲を見渡した。見る限りこの場所には隠れられるような物はなく、罠らしき物も見当たらなかった。

「お? ここがこの階層の終点みたいだな」
「とりあえず警戒して」
「ああ」
「何かいるな」

 先頭で警戒していたこのパーティーのリーダーが少し先にある影に気付いた。それは見た目的にはプレイヤーたちと同じようなシルエットをしている。

「よく来た。私はこの階層を守護しているゲートキーパーである、なのです」
「え?」

 自らをゲートキーパーだと説明した存在に気付いた女性プレイヤーが驚き呆けているような声を上げた。

「どう言うことだ?」
「わからん」
「何でゲートキーパーが話しかけて来るんだ? 今までは普通のモンスターだっただろう?」
「もしかして、あれがダンジョンマスター? 普通のスライムに見えるのだけど」

 プレイヤーたちが驚いているのも無理はない。ダンジョンのゲートキーパーは確かに強いが、それでも人類種ではないエネミーであり要するにモンスターなのだ。それがいきなり話しかけて来たとなれば驚くのも無理はない。

「え? 私はダンジョンマスターではないのです。マスターは一番奥の第30層に居るのです。あ!」
「第30層?」

 自らをゲートキーパーと名乗った存在の発言にプレイヤー全員が驚きの表情をした。

「30層ってどういうことだよ」
「確か最前線のダンジョンでも20層が最深部だったよな?」
「攻略したと言っていた奴が嘘を言っていなければそうだな」

 最前線、とは言うがこのゲームがサービスを開始してまだ3月も経っていない。しかし、それでもこのダンジョンがあるエリアよりも5つ以上先のエリアである。そこにあるダンジョンよりも深い場所があると聞けばそれは確かに驚きではある。

「あ、あの、今のは聞かなかったことにぃっ!? あ、あああっいえ違うのです! これはあの間違いと言うか、ちょっっと口を滑らせただけで! 嫌なのです! お仕置きは嫌なのです!」

 突然、何もない空間に向かって叫び出したゲートキーパーに驚きながらもプレイヤーたちは首を傾げる。

「どうしたんだ?」
「普通のスライムに見えるんだが、かなり表情が豊かだな」
「全体的に水色だけど確かに可愛い」
「とりあえず鑑定してみようか」

 何が見えているのか、空虚に向かって訴え続けているゲートキーパーに対してプレイヤーの一人が鑑定を使う。そして、鑑定から出た情報を読み上げる。

「種族は…ライム所々文字化けしているわね。名前がシ何とかで、レベルが…54!?」
「ああ!? 鑑定しては駄目なのです!」

 鑑定で読み取れた情報にプレイヤーが戸惑う。それもそのはず、現在プレイヤーの中での最高レベルはまだ45を超えていないからだ。レベル54ともなれば、最前線ならまだしも第2エリアにあるダンジョンに出て来て良いレベルではない。

「ええ!? お仕置きは確定なのです!? 嫌です! え? はいなのです。っ! わかったのです! さっさと倒すのです!」

 ゲートキーパーを名乗った何ライムとかのシ何とかが、いきなり戦闘態勢に入った。それを見てプレイヤーたちは急いで武器を構えた。

「来るぞ!」
「バフ掛けます!」
「頼む」

 突然の事にも動揺することなく戦いの場を整えていくのは、さすが最前線に居るプレイヤーである。だがしかし、それが出来たとしてもどうにもならない者も存在するものである。

「こなくそー!」
「防御!」

 体の一部を筒状の武器のような形状に変えたゲートキーパーが攻撃に入った。直ぐにプレイヤーたちは躱せないと判断して攻撃に備える。

「受ける!」
「ガードアップ!」

 タンク役のプレイヤーが他のプレイヤーを守るために大楯を構えて前に出る。それを見た他のプレイヤーが一時的にVITを上昇させるバフを掛けた。そして、ゲートキーパーの攻撃がタンクプレイヤーの盾に当たる。

 そして、その攻撃はそのまま盾を破壊しタンクプレイヤーと、その後ろでバフを掛けたプレイヤーもろとも消し飛ばした。

「え? 嘘だろ?」

 残っていたプレイヤーは在り得ない威力の攻撃で仲間の内、2人が一瞬で消えたことに驚き呆ける。しかし、この場に既にそんな隙を見せていいほどの優しい空間ではない。

「こなくそー! さっさと消えろ! なの! デス!」
「ごべぇっ!?」

 いつの間に武器を持ち替えていたのか、ゲートキーパーが振るった大槌の攻撃により、さらにプレイヤーが消える。

「うわぁあああ!!」
「てやーーー!!!」

 迫りくる大槌に逃げようとするプレイヤーだったが、数秒も持たないうちにこの場から消えることになった。
 そして残りのプレイヤーも同じようにゲートキーパーの前から姿を消された。

「直ぐに戻るのです!」

 そうして、このダンジョンの初めてのゲートキーパー戦は幕を閉じたのであった。
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