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本編 転生したら婚約破棄され負け確定!? 死にたくないので王国を乗っ取らせていただきます!

2・皇子に会うため前線基地へー4: 食事の誘いと2度目の話し合い

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「そう…ですか。なるほど、それは好都合だな。しかし、そこまで王政の統率が取れていないとは、想定以上に時間が無いようですね」

 納得してもらえたようで安心ね。でも何が好都合なのかしら? うーんまあ、それは別にいいかしらね。さて、何か考え込んでいるようだし、皇子の疑問もこれくらいみたいだから宿に戻りましょう。

「あ、すまない。待ってくれ」

 ……また? できれば早く休みたいのだけど、今度は何かしら。

「ああ、何度も呼び止めてしまい申し訳ない。デュレンとミリアさんは食事の方はどうするおつもりで? もし宜しければ、一緒にどうでしょうか。まあ、基地の中なのでそれほど良いものが出せる訳でもないのですが」

 食事の誘いかぁ。本当なら断りたいところだけど、皇子からの誘いだし断り辛いな。まあ、宿より良いものは出してくれそうだけど、宿の方はもうお金払っているのだけどどうするべきか。

「あの、宿の方にもう料金を支払ってしまっていて」
「それでしたら私がこの件について宿の方へ言ってまいります」
「え、あ、そ…そう。なら良い…のかしら?」

 うぐぅ、私が断ろうとしたところでデュレンに逃げ道を塞がれてしまった。いや、明らかに断ろうとしているのになんでそんなことをしてくれるのかしら?

「ああ、それは良かった。では私に付いて来てくれ。デュレンはここに案内役を置いておくから、用が済んだらここに来てくれればいい」
「了解しました」

 くそぅ。これは分が悪い。と言うかデュレンは私よりもオルセア皇子の方の優先度が高い気がするのだけど、どういうことなのかしら。まあ、お父様の部下であって私の従者とかではないのだから、私の意見は優先度が低いのかもしれないけど、それでも皇子よりも優先度が低いってやっぱり皇子と元から関係性があったってことなのかもしれないわね。

 そうしてオルセア皇子に付いて今までいた兵舎とは異なる建物の中に入って行った。そこには既に食事が人数分用意してあった。そう、私の分まで用意してあったのよ。
 それは、最初から私を食事に誘うつもりだったという事であり、逃げることも出来なかったのだと私はその光景を見て理解した。


 夕食は普通においしかった。確かに公爵家で食べた料理に比べれば味も見た目も落ちる。だけど、国境付近にある基地の中でと考えれば十分な質だった。それに、屋敷に専属料理人として仕えているならまだしも、基地の中に居る料理人は兼業のはずだ。まあ、皇子が居るから腕がいい人が料理しているだろうけど。

「おいしかったわ。想像していたよりもずっと」
「そう。それはよかったよ」

 皇子はとても安堵した表情でそう漏らした。まあ、自分から誘った点前料理を出して不味いと思われたら嫌だろうしね。
 と言うか、結局デュレンはここには来なかった。確かに料理は用意してあったからそのうち来るだろうと思っていたら、使用人だから一緒に食べることは出来ないとか言って別室に料理が運ばれていった。いや貴方、皇子と親しそうに話していたよね? 明らかに使用人とかの範囲は超えていたと思うのだけど!?

 もう過ぎたこととは言え、その所為で皇子と2人きりで食事をする羽目になった。まあ、食事中に話をするのはマナーに反するのであまり会話は無かったのが救いかしらね。その代わり食事中頻繁に私を見て笑顔を見せつけられたのだけど。結局あれは何だったのかしらね?

「でも、さすがに普段からこのような感じの物が出て来る訳ではないのでしょう?」
「ははは、やはりわかってしまいますか。確かに毎回このような物でしたら、予算が直ぐに尽きてしまいます。これはあくまで要人などの重要人物が来た時だけですよ」
「ふふ、そうですよね」

 重要人物ねぇ? デュレンのことかしら、それとも私? まあ、ここまでの反応的にはデュレンのことだと思うけど。どうなのかしら。

「ミリアさん。貴方も十分に重要人物ですよ。むしろデュレンより重要度は高いのですからね?」
「え…そ、そうかしら?」

 もしかして表情に出ていたのかしら。考えていたことを言い当てられてしまったわ。

「…そうだと良いのですけど」

 ミリアの記憶を辿った感じで今までの扱いを鑑みると、公爵家の者とは言え所詮は家を継ぐことは無い小娘だからってかなり軽く扱われていたみたいなのよね。まあ、王国に居る貴族の多くが腐っていたとは言え、ずっと雑に扱われていれば期待もしなくなる訳よね。私はこの体になってあまり時間も経っていないから何とも言えないけど、ミリアにとってどんなに努力してもいつも同じような反応しか返ってこないって言うのは、かなり精神的に堪えていたみたいだし。思わせぶりな態度とかにはあまり良い感情が出てこないわね。

「本当のことですよ」
「あ、いや…でも」
「僕を信じてください。…って今日会ったばかりの僕の言葉はあまり響かないでしょうね。なので、何れ今言ったことが本当だったと信じてくれるまで僕は努力し続けますね」

 え? これって何かオルセア皇子に目を付けられたという事なのかしら? と言うかこの皇子もちょっとおかしい方だったのかしら。



 オルセア皇子に目を付けられたような発言の後は、さらに呼び止められることは無く宿屋に戻って就寝した。さすがに2度も食事をキャンセルするのは良くないし、誘われることもなかったので朝食は宿屋で取った。
 そして、予定通り基地のエリアに行こうと思ったところで、今日話し合う時間を決めていない、と言うか一切決めていなかったことを思い出した。

「ねぇ、デュレン。今日の話し合いって何時からなのかしら。貴方は知っている?」
「いえ、そういえば私も聞いていませんね」
「どうしましょう?」

 このまま、基地の中に入ってしまって良いのだろうか。さすがに案内なして基地の中に入るのは拙いのは理解できる。この場合、基地の出入り口に居る兵士に聞くなり、連絡を取って貰った方が良いのかしら。とそう思っていると、基地の入り口がある方向から兵士らしき人が走ってくるのが見えた。

「あ、レフォンザム様! もしかして前線基地の入口へ向かっている途中でしょうか?」
「ええ、そうですね。どうかしましたか?」
「あ、いえ。私はレフォンザム様を案内するようにと言われておりまして。それで、急いで向かっていたのですが、良かったすれ違いにならなくて」

 なるほど。元から用意が出来次第、案内役を送るつもりだったから詳しい時間を指定していなかったのね。まあ、それならそうと言っておいてくれたらよかったのに。言い忘れかしらね?

「それは良かったわ。私もいつ頃行ってよいのか聞いていなかったから、とりあえず向かっていたのよ」
「そうですか。ならこの先は私が先導されていただきます」
「よろしくお願いしますね」

 そうして私たちの所にやって来た兵士の後をついて、昨日の話し合いに使った兵舎に到着した。そこには既にオルセア皇子が昨日と同じ位置に座って私たちを待っていた。何か昨日と違って兵舎の中の香りが違うのだけど、もしかして事前にお香でも焚いていたのかしら。

「やあ、ミリアさんとデュレン。すまないね。昨日に今回の時間について話していないのを朝になってから気付いてね。伝令の兵士を送ったのだけど大丈夫だったかい?」
「ええ、問題はありませんでしたよ。それに時間については私も聞かなかったのが悪いですから」

 私がそう言ってオルセア皇子に笑顔を向けると、皇子は嬉しそうに笑顔を返してきた。
 うーん。さすがに見惚れそうな笑顔ね。

 昨日はいきなりの訪問だったし話自体が短かったから、座ることなく話していたけど今日は予定に入っていたおかげかしっかりと椅子が用意されているようだ。まあ、もちろん私のだけなんだけどね。デュレンは一応私の従者としてここに居る訳だし、あったところで座らないだろうけど。

「それで、ベルテンス王国への侵略に関しての話し合いなのですが、正直今話し合えることはあまり多くはありません。我が皇国の軍を動かすには私の父親である皇の判断による指示が必要ですし、ここの前線位置に居る兵はどちらかと言えば偵察や情報収集を主に担当している者が大半です」

 それはそうだろうね。皇が国の頂点として真っ当に機能している中でいくら皇族だからと言っても、たかが皇子1人の判断で軍を動かせてしまうのは色々と問題が起きるだろうから。

「現状ベルテンス王国の内情に関してこちらはあまり把握出来ていません。ですが、その辺りの情報はレフォンザム公爵から父上に宛てられた密書に書かれていると記されていたので、それである程度は把握できるでしょう」

 あれ? それじゃあ話し合う事ってほぼ無いのではないのかしら? そもそも侵略の協力をするってことだけど、それってベルテンス王国の情報を渡したり、内部協力者を募ったりって感じのはずだから、本当に何を話し合えばいいのかしら?

「それを踏まえた上で話し合えることは、侵略に関しての細かい部分、どの程度の被害を想定するか、敵対分子の扱いなど。それと侵略を終えた直後はどのように収めるのか。そして侵略が終わった後のベルテンス王国をどうするのかですね」

 あー、それもそうか。終わった後のことはあまり考えていなかったわね。とりあえずミリアを虐めていた奴らに復讐する事しか考えていなかった。
 まあ、少なくともグラハルト商国の関係者は凡そ排除は確実かしら。乗っ取りに成功したとしても残っていたらただの不穏分子にしかならないしね。

「そうですね。その辺りのことはしっかりと話し合う必要がありますね」
「では、先に侵略をする際に関することを話し合っていきましょう」

 そうしてオルセア皇子とベンテンス王国への侵略計画について本格的に話し合いが始まった。まあ、あくまで私たちがまとめた計画は草案のような感じに扱われることになると思うけどね。

 そもそもミリアもオルセア皇子も成人してそれほど経っていないし、国を動かすわけだから最終的には上の立場の者、まあこの場合はアルファリム皇国の皇が判断することになるはずだ。
 そういえばオルセア皇子の歳っていくつなのかしら? おそらくミリアと同じくらいだと思うのだけど。

 
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