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本編 転生したら婚約破棄され負け確定!? 死にたくないので王国を乗っ取らせていただきます!
2・皇子に会うため前線基地へー3: 皇子と侵略の話し合い
しおりを挟む「何故、何処でそのことを知って?」
さすがに先ほどとは違い直ぐに皇子は反応した。まあ、本来なら現段階で外に漏れるような情報ではないから驚くのは無理ないと思うけど、もう少し感情を表に出ないようにしないと皇族としてやっていけないのではないかしら。その辺もまだ経験値不足ってことなのかもしれないけどね。
「知っているのかわからないのだが、この基地は最近あまり良い噂が無いベルテンス王国との国境を警備する名目で一月ほど前に作られた場所です。表向きは国境警備、しかし本来の目的は貴方が言ったように、ベルテンス王国へ侵略するための前線基地として作られました」
うーん。私が侵略するためにここがあるって言ってから部屋の空気が重い。いや、機密情報が漏れていたってことと、侵略する側の公爵令嬢がそれを知っていたってことで警戒心が最大になっているからだろうけど、この空気は結構きつい。
「しかし、何処から情報が漏れたのか。もっとしっかりと管理しなければいけませんね」
うん、まあ。その必要は無いのだけどね? ゲームの内容から知っていただけで、情報が漏れたとかではないのだけど、言ったところで信じてもらえないだろうけど。
「まあ、それは今更かな。それでどのような要件があるのか聞きたいのだけど」
「ええ、それは…」
「ああ、すいません。こちら公爵様から皇子への文でございます」
私が要件を言おうとしたのを遮って、御者もといディレンが皇子へ密書的な物を渡した。って、私そんな物があるなんて一切聞いていないのだけど、もしかして公爵からあまり信用されていないのかしら。
今更だけど、最初に相談した時の姿勢って、元のミリアのあまり出しゃばらない性格から考えたらあり得ないことなのよね。もしかして私がミリアではないことがバレているのかもしれない。いや、その後に何度か会っている時に反応が変わらなかったから、何かしら吹っ切れてその反動でそうなったとでも思っているのかも知れないわ。…そうであって欲しいわね。
「なるほど。近年の理解しがたい王国の動きはグラハルト商国が原因という事か。確かにあの国は色々と黒い噂があるからな。しかしなるほど我が国の噂もこれが原因かもしれないとは」
「おそらくはそうでしょう。あの国は印象操作や情報操作が上手ですから」
「そうようだな」
この皇子は現在のアルファリム皇国の印象に思うところがあるようね。でも、皇国がその辺りを気にしている何て思っていなかったのだけれど、もしかしてオルセア皇子はその辺りを気にする少数派なのかしら。それなら話が通し易くていいのだけれど、まあ話を進めて行けばわかる事よね。
「それで、本題に入りますね。おそらく先ほど渡したお父様の文にも書かれていたかと思いますが、私たちにベルテンス王国への侵略を助力、いえ手伝わせていただきたいのです」
「こちらとしてはその申し出はとてもありがたい。しかし、そうすることによって貴方たちが得るであろう利点は何でしょうか」
「それは、そうですね。確かにその部分を話す必要がありますか」
あれ? その辺の話はさっき渡した文に書かれていなかったのかしら? 凄く重要な部分だと思うのだけど、そこは私が説明しなさいと言うことなの? 私、説明するのはあまり得意じゃないのだけど。
「私たちが得る利点ですが、大まかに言えば王国の民を守ることが出来る。と言う一点に尽きます」
「国民を守る? 侵略の手伝いをするのに?」
まあ、そうよね。自国に対して侵略してくる他国を手助けするなんて、国民にとっては生活を脅かすことを助長しているのと同じだから疑問に思う事に無理はない。
「お父様が渡した文にどこまで書かれていたかを私は把握していませんのでどこから話せばいいのか悩みますが、大まかに言いますと現在ベルテンス王国はグラハルト商国から侵略を受けています」
「ああ、それはこれにも書かれていたね」
オルセア皇子はそう言って先ほど渡した文を小さく掲げた。あれ、まだ持っていたのか。机に置くなり、他の人に渡せばいいと思うのだけれど。あ、でも密書扱いだから下手に他の人に渡すとかは出来ないのかも。
「ええ、それでその侵略の進み具合がかなり進んだ状態です。既にほとんどの王族がグラハルト側に回ってしまっています。おそらく後1年もしない内に完全に侵略されてしまうでしょう」
「それは急いで対策を建てなければならないな。しかし、それがどのしてこちらに協力するという話になるんだい? それに国民を守ると言う話にも繋がらないのだけど」
これはあくまで王国の現状だ。繋がらないのは当たり前でしょう。最大の問題はこの次のことなのだから。
「問題はグラハルト商国が奴隷推奨国であることです。もし、グラハルト商国の侵略が成功してしまうと、国民すべてが奴隷として扱われてしまう可能性が高いのです」
「ああなるほど。確かグラハルト商国は表向きには奴隷を推奨していないが、実状は奴隷を多用している。しかも劣悪な環境で使役されているという話も聞くこともあるな。あまり多くの情報が入ってこないからどこまで信頼して良いのかはわからないけど」
うん。これがどうしてもグラハルト商国に完全な侵略を許してはいけない理由だ。
そもそもこんな詳しい理由はゲームでは出ていなかった。では何でこの事を私が知っているかと言うのは、この体の持ち主であるミリアが頑張って調べ上げていたから。ミリアは父親の公爵や他の貴族とは違い第2王子の婚約者だったため王城内に入ることが出来た。だからそこで王政がおかしいことを一早く知ってその原因を探していたようだ。そしてこの情報に辿り着いたという事らしい。それもあの夜会があった少し前にね。
「ですから、グラハルト商国に侵略される前にアルファリム皇国がベルテンス王国に侵略して欲しい。それが私たちが協力する理由であり、私の願いです」
王国に居る人たちを守る。それは私の願いではない。これはミリアが何よりも優先したいと想い続けている願いだ。
奴隷にはなりたくないからグラハルト商国の侵略を止めたいとは考えているけど、正直私は王国に何の思い入れもないし、無くなったところで少し残念に思うくらい。でも、ミリアはベルテンス王国の公爵家で生まれて小さい頃から王国のために生きるように教育されている。それに国のために動いていた公爵である父親を見て育っているから余計にそう言う感情が強いように思う。
と言うか、ミリアが第2王子との婚約を受け入れていたのだって王国のためになるからだし、第2王子に対して恋愛感情は大して持っていないのよね。婚約破棄されて落ち込んでいた理由だって、弱っている時の追い打ちと言う面もあるけど、いままで自分に1番懐いていた飼い犬が、いきなり自分以上に他の人に対して甘えていることに衝撃を受けたとかそんな感じだったし。
うん。あのゲームの主人公も変だと思っていたけど、この子も大概変な子よね? うっ、何か精神の片隅で反論されている感じがするわ。
「そう…ですか。ええ、理解しました」
私の下手な説明でもオルセア皇子はしっかりと理解出来たようだ。あれでも、あまりいい顔はしていないようだけど、どうしてかしら?
「ですが、もしこのまま我が国のベルテンス王国への侵略計画に協力し、成功した場合に貴方は売国奴として罵られる可能性があることを理解していますか?」
ああ、だからあまりいい顔をしていなかったのね。まあ、確かに他国からの侵略に協力しているのだからそう言われても否定することは出来ないものね。
でも、私はそうしたいと強く思っているのだから、居候のようにこの体の中に居る私は本来の持ち主である私の意見を尊重することにしている。それがどのような結末になろうとも。
それに最初は夢だと思ったから勝手に動いたけど、私は1度死んでいるみたいだし、本当ならこの物語の主人公はミリアなのよ。だからミリアの意思がある限り、余程のことでないなら私が出しゃばることはしない方が良い。
「十分に理解しています。それでも私が優先すべきことは国の民を守ることなのだから」
「わかりました。我々はそちらの協力を受け入れましょう」
良かった。とりあえず提案は受け入れてもらうことが出来たわ。これで大きく前に進んだことになるはず…よね?
「この後に細かい調整や話し合いが必要だと思いますが、もう周りが暗くなってしまっている時間です。この話は一旦切り上げて、また明日ここで話の細部を詰めていきましょう」
「そうですね」
オルセア皇子がそう言って話を切り終えた。確かに兵舎の窓から外を見る限りもう周囲は真っ暗になっている。それに、1日馬車に乗っていたからその疲れが出て来て、体が少しだるい感じもあるから続きを明日に回してもらったのは有り難かった。
話も区切りがついたし、宿に戻って夕飯食べて直ぐに寝よう。そう思って退出する前にオルセア皇子に会釈しようと視線を戻すと、皇子はさっきまで居た位置とは違い私の目の前1メートル程の位置まで近づいて来ていた。
「うぇっ!?」
意識を逸らしている間に凄く近くまで来るとは思っていなかったので、驚きで体が一瞬震えて声を上げてしまった。さすがに皇子相手にこれは拙いと思ったけど、どうすればいいのかわからず皇子の顔を見つめた。
「え、ああ、すまない。別のことに意識を向けていたようだけど、まさかここまで驚くとは思っていなかった」
「あ、いえ、私の方こそ驚いてしまって申し訳ありません。あ、あの、何か御用…でしょうか?」
ここまで近づいてくるという事は何かしら用があると言う事なのだと思うけど、何だろう? 皇子の方から話を切り上げたから、計画云々の話ではないと思うけど。
うーん、でも近くで見ると本当に美形ね。身長は180くらい? 確かミリアが160くらいのはずだから、それくらいかしらね。
ふむ。整った顔に金色の髪、翠色の瞳で身長も高め。うん。The 皇子って感じね。まあ少し優しめの顔立ちだから王族と言うか皇族としての威圧感はあまりないけど、その代わりずっと見ていられる顔だわ。
「聞いて良いか悩んだのだけど、嫌なら答えなくても良い。レフォンザム公爵の令嬢と言えばベルテンス王国第2王子の婚約者だったと記憶しているのだけど、そのような立場でこちらに協力するのは大丈夫なのかい?」
あー、なるほど。隣国の皇子だから王国の王族に関する情報も持っているのね。逆の情報は全く無い訳なのだけど、密偵や何かで情報を得たという事かしら。
と言うかお父様が渡した文には何が書かれていたの? ここに来た経緯とかが書かれていると思っていたのだけど、もしかして、ただの紹介状とかそんな感じの内容しか書かれていなかったのかしら。割と重要な部分だと思うのだけど。それとも私に直接関わることだから、自分から言いなさいと暗に言われているのかしら?
「ああ、それなら問題ありませんわ。グレテリウス王子から数日前の夜会で直接婚約破棄の話をされましたから。なので、今の私は王政とは無関係なのです」
私が婚約破棄されたときっぱり言うと、オルセア皇子は理解できないと言った表情をした。
「え? いや、王族の婚約は王の名で取り決められるはずだ。そう簡単に破棄できるわけがない」
「本来ならそうなのでしょうけど、それが出来てしまうのが今のベルテンス王国の現状なのです」
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