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本編 転生したら婚約破棄され負け確定!? 死にたくないので王国を乗っ取らせていただきます!

2・皇子に会うため前線基地へー2: 前線基地に到着し皇子に会う

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 さらに馬車が進む。そろそろ山道の頂上に着きそうな感じだ。
 私は馬車に揺られながら、この体の本来の持ち主であるミリアのこと考える。最初は夢だと思っていたけど、さすがにもう夢ではないことは理解している。

 公爵と初めて会話した時にも少し考えたけど、今明確にある意思は私である箕真門 碧の物だと考えている。では、私がこちらに来る前にあったはずのミリアの意思はどこにあるのか。私の意思に押しつぶされて消えたのか、まだ残っているのかが良くわからない。ただ、一つ言えることはこの体はミリア・レフォンザムが体験し積み重ねてきたことを覚えているという事だ。

 盗賊の時もそうだけど、碧は武術の経験なんて一切ないし運動神経はお世辞にも良いとは言えなかった。それにも拘らず盗賊の腕を躱して、合気道のような技で相手の力を利用して無力化したのはミリアの積み重ねによるものだと思う。そうでないとあの動きは説明できないし、納得も出来ない。
 それに身体能力だけでなく、知識面もミリアの面影を感じることが出来る。碧には貴族のマナーなんてものは一切わからないはずなのに、何の注意もされないほどに様になった所作が出来るなんて普通はおかしい。話し方もそう。たまに碧の話し方になっている時があるけど、基本的には貴族が使うような言い回しなんかもすらすら出て来る。

 こんな感じだから最初から私だった説は無い。いや、そもそも最初からそんな説は無かったね。
 おそらくだけど私とミリアが入れ替わった説も無い。その場合、身体能力はまだしも知識面での入れ替わりも起きているはずだから。

 1番可能性があるのは精神的に弱っていたミリアの中に碧が入り込んだ説ね。これなら知識面での共有は可能なはずだ。問題は本来なら主導権を握るはずのミリアが殆ど出てこないこと。
 これは精神的に弱っている時に元から我が強いと言われていた碧が入って来たことにより主導権が逆転してしまったという事なのかもしれない。変な言い方だけど、一応精神統一的な物をしてミリアの意思を探った感じちゃんとあるのは確認できた。ただ、婚約破棄の件もあってかなり弱っている感じだった。

 ミリアはもともとそんなに自己主張するような子ではなかったようだ。しかも、早くに母親を亡くした影響で精神的にもそんなに強い感じではないらしく、苛めとかにとても弱い感じだ。
 尽くす女と言えば聞こえはいいけど、それは場合によって主体性が無いとも取れる訳だ。記憶を思い出す限り、ミリアはそんな子だったようだ。
しかも、どうやら私がこの体に移る前から苛めにあっていたらしく精神的にかなり弱っていたことも分かった。だから、碧の意思が主導権を握れたという事だろう。

 正直、苛めの記憶は不愉快この上ないので、クーデターを起こす際にでも苛めを主導した者にお礼参りにでも行こうかと思う。



 山道の頂上を越えた。さあ、次は下り坂だと思っていたら、頂上の先に待っていたのは平野だった。要するにこの道は山道ではなく、丘の上に行き来するための道だった訳だ。

 そして。道の向こうには既に前線基地と思われるキャンプ地が見えている。後はあの場所に行って、皇子に会えれば最初のミッションはクリアとなる。
 ただ、当たり前だけど皇子ともなれば国の重要人物なのは当たり前。簡単に会える訳がない。いや、そもそも前線基地の中に入れるかどうかも怪しいのでは?
 行き当たりばったりな気もするけど、時間が無い以上前に進まなければならないので仕方ないとしておこう。

 前線基地は検問としても機能しているようだ。ベルテンス王国を出た後に通過した検問に比べてかなり厳重な警戒態勢を取っていることが印象的ではあるけど、国境付近の検問所である以上本来はこれぐらいが普通だと思うのよね。
 検問所の順番が回って来た。まあ、回って来たと言うより、担当の兵士が来るまで待機していただけなのだけれど。そもそも、ベルテンス王国からアルファリム皇国に入っている者が少ないから、検問担当の兵士が常駐していないようだ。
 検問の対応は御者に任せてある。と言うか公爵にそうするよう求められたので私はこの間は口を出すことは無い。

 検問所の通過が許可された。馬車は検問所を通過し前線基地の場所置き場に向かう。この前線基地はどうやら元からあった小さな集落を基地として活用しているようだ。
 おそらく昔はベルテンス王国から来た者たちの停泊所も貸せていたのだろう。ただ、最近はベルテンス王国からこの集落に来るものはめっきり減ってしまっているだろうから、収入を得るために兵士たちを誘致したのかもしれない。いや、それを見越して兵士が話を持ち掛けたのかも。うん、その方が現実的かもしれない。

 さすがに集落のエリアと基地のエリアは柵で分断されている。基地には武器などの危険物があるだろうし、集落の子供が間違って入ってしまったら大変なことになる。集落の人もそれは理解しているのか、不満があるような感情は見えない。

 私たちは、御者がどう話を付けたのかはわからないけど、先ほど検問を担当していた兵士がこの集落にある唯一の宿屋の場所まで案内された。誰も部屋を借りている人はいないようなので実質貸し切りなのだけど、重要なのはこの後のこと。
 そう。ようやく目当てのオルセア・アルファリムに会うことになるのだ。

 ここまで流れるように進んでいるのだけど、御者はどうやってここまで話を通しているのか気になる所ね。いくら公爵家とはいえ伝手だけでは簡単に王族、もとい皇族に会える訳がないのだから何かあるのでしょうけど。




 集落の中にある基地へ向かう。今更だけど馬車に積んできた荷を下ろして、宿で一旦休憩していたので結構時間が過ぎてしまい既に日が落ちている。果たしてこんな時間に皇子に会うのは普通なのだろうか。まあ、そもそも会う約束なんてものは取り次いでいない中でやって来て、会おうとするよりも大分ましなのだろうけどね。
 基地のエリアに入ると、一旦また検問のようなところに通された。当たり前だけど、危険物とかを持ち込ませないための物なのでしょう。

 しかし、検査は予想外にしっかりされずに目視だけの検問だった。おそらくここまでスムーズに来られている何かが関与しているとは思うのだけど、私にはよくわからない。ミリアの記憶を読んでみても思い当たる物はなさそうなので、本当にわからないのよね。
 あ、もしかして、この御者は何かしらの重要人物だったのかも? それなら色々と納得できるところがあるわね。公爵に指名されるとか予想以上に強いとか、ここに来て何かスムーズに事が進んでいるとかね。

 基地の中の奥に進んで行く。屋根が木材じゃなくて幌で出来ているから最初にキャンプ地とは言ったけど、結構しっかり建物が立てられている。まあ、殆ど同じ形で建てられているからプレハブとかと同じで、簡単に建てたり解体したりできるものだと思うけど。
 何でこんなことを言っているかと言うと、全部同じように建てられているからどの建物の中に皇子が居るのかが判断できないのよね。たぶん先導してくれている兵士が案内してくれるところに居るのだろうけど、どこまで行くのかわからないから心の準備が上手く出来ない。いえ、すぐに会うと仮定して準備はした方が良いわね。

「こちらで皇子がお待ちになっています。失礼の無いように」

 ちょっと待って! 早いって! 準備しようとした瞬間にだなんて、もう少し待って欲しいのだけど!
 私のそんな気持ちは知らず、兵士と御者は間隔を置かずに皇子の居る建物に入って行ってしまった。私も内面を出さない様に付いて行く。

 建物…いや、兵舎の中はかなりすっきりとした感じだ。皇子が居るから謁見の間みたいになっているのかと思ったけれど、どちらかと言うと会議室の方がしっくりくる作りだった。そして、議長席らしき位置に皇子と思われる人物が座っていた。

「ようこそ。ここに来た詳しい理由は聞いていないけど歓迎はするよ」

 ああ、やっぱりこの人がアルファリム皇国の第1皇子であるオルセア・アルファリム皇子なのね。

「アルファリム皇国第1皇子のオルセア・アルファリムだ。何用でここに来られたのかを詳しく聞きたいところだが、それよりもデュレンが生きていたとは驚きだ」
「さて?」

 デュレン is 誰。いやまあ御者のことなのだろうけど、やっぱり重要人物だったのか。しかし、皇子がかなりの美形だ。少し幼い感じだけどたぶんミリアと同じくらいの年齢かな。王国の第2王子と比べても十分上の外見と言うか顔と立ち居振る舞いが良い。

 ゲームでは立ち絵が無かったし名前が出たのも2回だけだったし、その所為で外見が一切わからなかったけど何で皇子の立ち絵作らなかったの? ミリアの立ち絵より皇子の立ち絵作った方が絶対もっと売れたよね? 皇子×王子の薄い本も絶対出ただろうし。どうしてもミリア視点で婚約破棄の場面を描きたかったのだろうけど、明らかに選択ミスよね。

「それで、そちらの方はどのようなご用件でこちらに来たのかな?」

 私がいらない妄想をしている間にも会話が続いていたようで、その流れでこちらに話を振られた。あ、ヤバイ。挨拶とか何も考えていないのだけど、どうしよう。い、いや、とりあえず自己紹介をしている内に考えないと。

「ああ、ごめんなさい」

 私はそう言って時間を稼ぐように大きく間をおいて、まだ被ったままだったフードを取ってコートの中にしまっていた背中の中ほどまである髪をファサァ、と言うかバザァと言った感じで出した。いやうん、何か見た目のインパクトがあるけどコートの中に髪の毛を仕舞っていたら熱がこもっていて不快だったのよね。早く出したかったし、印象付けるには良いかなって思って。

「初めましてオルセア皇子。私、ベルテンス王国のレフォンザム公爵の娘、ミリア・レフォンザムと言います。以後、よしなにお願いしますね」

 自己紹介終わり! さて、次は計画の協力してもらうための打診? いえ、さすがにそれは唐突過ぎるか。
 うん? 何か皇子の様子が変、と言うか表情が固まっている? 何で? 何気に障る事でもしてしまったの? あ、髪の毛バサァはあまり良くなかったのかも。

「皇子?」

 さすがに私の自己紹介に対して何の反応もない皇子におかしいと感じたのか、隣に立っていた秘書と言うか助言役らしき人が声を掛けている。

「あの、大丈夫でしょうか。私、何か無作法な事でもしてしまったのでしょうか」

 ここまで無反応だとかなり不安になって来たので、皇子に問いかける。すると、はっと我に返ったように皇子が反応した。

「あ、ああ、すまない。何でもないよ。しかしベルテンス王国の公爵家令嬢がここになんの用だい? ここがどういう理由で存在しているのか理解しているのかな?」
「ええ、ベルテンス王国へ侵略するため…ですよね?」

 含みもなく直接そう言われると思っていなかったのか、皇子は驚いたように翠色の瞳を大きく見開いていた。

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