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亡命令嬢の心残り

虚偽報告、そして貴方と過ごすこれから

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 嘘、嘘でしょう? 生き残りが居ないと言うことはドルスは……死んだと言うことですか? 
 ……いえ、何かの間違いでしょう。

「リオナ。これを」

 お母さまから何かが書かれている紙を渡されました。我が家の被害者名簿…と言うことは反乱の際に亡くなった方の名前が書かれた物で………ドルスの名前もこの名簿に記載されていました。

 あぁ、もうどうすることも出来ないのですね。
 もうドルスとは会うことが出来ない。そう考えてしまいったことによる絶望から体の力が抜けてしまい、私は地面に両膝と両手を突いてしまいました。
 いつもならこんなことをすれば直ぐにお母さまからお叱りを受ける所ですが、どうやら私の気持ちを汲んで何も言わないでくれているようです。

 私はどうしたらよかったのでしょう? 王国を出る前にドルスに領地へ向かうように指示を出しておけばよかったのでしょうか。それとも無理やりでもドルスを連れて行けばこんなことには、ならなかったのでしょうか。
 いえ、今更このようなことを考えても仕方がありません。涙があふれてきますが、受け入れなければならないのでしょう。貴族たるもの泣き顔を他の方に見られるのはよろしくありません。…ですが、もう少しだけ……。

「おや、どうしましたか? 泣いていますと可愛いお顔が台無しですよ?」

 え? 

 幻聴でしょうか。ドルスの声が聞こえます。ああ、悲しみのあまり他の方の声をドルスの声と勘違いしているのかもしれません。
 声がした方を確認します。ああ、ダメです。涙で前が良く見えません。ですが、どうやら声の主はゆっくりと私に近づいて来ているようです。私は体に力を入れて立ち上がり、手は汚れているので、はしたないですけど袖の裾で涙を軽く拭います。

「ああ! 袖で涙を拭うのは良くありませんよ」

 良いのです。これではっきりと前に居る人が見えるのですから。

 幻聴ではなかった。ドルスが目の前に居る。脚に怪我をしているのか杖を突いていますが、生きている。良かった…良かった! 本当に。
 杖を突いている所為でゆっくりと歩いて近づいて来るドルスに、私は居ても経ってもいられなくなり自らドルスの元へ駆け寄り抱きしめました。

「あ! ちょっ、リオナお嬢様! 待ってください。私、怪我しているので今は上手く貴方を支えることは出来ません。少しで良いので加減してくださいよ!」
「…良かった」

 生きていた。また会えた。何やらドルスが私に向けて抗議しているようですが、それよりも今、この瞬間をかみしめていたい。

「ドルス。どう言うことか説明なさい」

 お母さまがドルスに何故生きていたのか、被害者名簿に関することを聞こうとしているようです。私にとってはもうそれほど重要な物ではありませんが、王都の家を管理しているお母さまからしたら必要なことなのでしょう。

「奥様、もうし訳ありません。報告が遅くなりました。それで、あの、えっと…」
「そのままでも構わないわ」
「あ、ありがとうございます。他の使用人に関しては私も含めて生き残りが居ます。ただ、残念ながら助からなかった者もいますのでそちらの確認をお願いします」
「ええ、わかりました。それで、これには死亡者一覧に貴方の名前も載っていますが、これはどういうことなのかしら?」

 ドルスの匂いと思いましたが、どうやら消毒液の匂いの方が強いようですね。より強くドルスの胸に頭を押し付けます。ああ、安心させようとしているのかドルスが私の背中を優しくなでてくれています。久しぶりの感覚です。

「家主不在の貴族家に勤めていた者の生き残りは全て死亡扱いにしているようです。おそらく雇用契約関係かと思われますが私は詳しく聞かされていませんので、その辺りに関しては処理に当たっているレフォンザム公爵様の所へ行くようにとの言伝を預かっています」
「レフォンザム公爵? わかりました。領地へ向かう前にそちらへ向かうことにしましょう」

 お母さまはそう言って馬車の方へ向かって行きました。予定を変更することを使用人に通達しているのでしょう。

「あの、お嬢様? そろそろ話していただけると助かるのですが」
「嫌です」
「いや、そうは言いましても。奥様もこの後に公爵家へ向かうと言っていましたから、何時までもこうはしていられませんよ?」
「わかっています。ですがもう少しこうしていたいです」
「あー、まあ、わかりました。けど、向かう時にはちゃんと離してくださいよ?」

 返事はしたくありませんね。ですがそれは出来ないと理解はしていますので、その時が来たら離しましょう。

「お嬢様?」
「わかっています」
「ならいいのですけどね」
「そういえば、ドルスは今までどこに居たのでしょう?」
「王城ですね。今は反乱で怪我した者をそこで治療しているのです。他の生き残った使用人も今はそこで治療をしています」
「そうでしたか」

 王城を開放しているとは反乱を指揮していた方は剛毅な方なのかもしれませんね。

「まあ、私も怪我をしているのでお嬢様と一緒に領地へ向かうことは出来ませんが、怪我が治り次第、他の使用人と共に向かわせていただきます。奥様の許しが出たら、ですけど」
「え?」

 またドルスと離れなければならないのですか? もう2度と離れたくは無いのに、どうしてそんなことになっているのでしょう。もういっそのこと私は王都に残っても良いのではないかしら?
 無理なことはわかっていますよ。私が残ったところでやれることはありませんから邪魔になるだけです。それに生活するところも今はありませんから、どうやっても出来ないことです。

「リオナ。行きますよ」
「……はい。お母さま」

 ああ、もう離さなければならないなんて、もう少しでいいからこうしていたいです。

「ほら、お嬢様」

 そう言ってドルスが私の背中から腕を離しました。

「ああ、ドルスも一緒に来なさい。一応関係者あのですから経緯の説明が必要な個所があるかもしれません」
「え? あ、はい。わかりました」

 え? それならもう少しドルスと一緒に居られると言うことですか!?

「ほら、行きますよ。ドルス」
「あ、はい。いきなり上機嫌になりましたね。お嬢様は」
「気にしないでください」

 そうして馬車に乗って公爵家へ向かうことになりました。





 
 公爵家に向かってから数日、予定ならあの後に領地へ向かうことになっていたのですけど、どうやらお母さまが公爵様に現国王の補佐をするようにと頼まれたようです。そのため領地には戻らず今は王宮の中で生活しています。

 王都の我が家が建て直されればそこに戻ることになっていますが、ドルスもまだ怪我が治っておらず王宮に居るので、私にとっては嬉しい事ですね。

 そして、今は私はやることが無かったため、王宮に居る怪我人の治療の補佐をしています。ドルスが居る近くに居られることは嬉しいのですけれど、あまり話すことが出来ないのが不満の種ではあります。
 ですが休憩中は話すことは出来ますし、このようにくっ付くこともできるのですから、不満を言ってはいけませんよね。

「あの…お嬢様。このような場所で私と接触しているのはよろしくないと思うのですが」
「いいじゃないですか」
「いえ、貴族である以上、安易に異性と触れ合うのは良くないと」
「もう、何処にも行ってはいけませんよ? ドルス」
「え、ああ…なるほど。長期間合わなかったことによる反動か、これは」
「聞いていますか?」
「ええ、聞いていますよ。少なくとも私は何処にも行きません」

 私もドルスの側を離れることは無いので一生一緒に居られますね。……一生ですか。

「あの…ドルス」
「何でしょう?」
「私、ドルスと結婚したいのですけど」
「は? あ、いや。さすがに使用人とは無理かと思いますよ?」
「先日、侯爵家の令息と平民上りのメイドが結婚していましたから問題は無いと思います」

 なかなか思い切ったことをする侯爵家です。我が家は子爵ですし、ドルスは男爵家出身ですから当りは少ないと思いますが、平民上りを嫁として迎え入れると言うのは結構なことだと思います。ですが、そのおかげで私も思い切ることが出来るのですから、ありがたいことですけどね。

「あ…あぁ、確かに、それがありましたね。いや、そうだったとしても少なくとも奥様の許可が必要だと思いますよ?」
「そう言うと言うことは、ドルスは私と結婚してくれると言うことでしょうか?」

 失言だったのかドルスは私がそう聞くと一瞬ですけど体を強張らせました。

「……まあ、私もお嬢様のことが好きですからね。結婚できると言うなら願ってもいないことです」
「そうですか。私もドルスのことが大好きですので、意地でもお母さまに許可を貰わないといけませんね」
「…そうですね」

 何やらドルスが呆れたような気配がします。しかし、お母さまに許可を貰うにはどうしたらよいでしょうか? 何となくあっさり許可が貰えそうな気もしますけど、出来ることはやっておきませんと公開することになるかもしれません。

「お母さまに許可を貰いに行く時はドルスも一緒に来てくださいね?」
「もちろん。一緒に行かせていただきますよ。お嬢様」

 さて、私とドルスが結婚できるように頑張らなければなりませんね。ですがまずは、私に振られた役目を全うしませんといけませんね。そうしなければお母さまの印象が悪くなってしまいますから。

 さあ、頑張っていきましょう。

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