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亡命令嬢の心残り
他国にて、母無双
しおりを挟む「申し訳ありません、クラシス様。ロイス様がグイの自由にさせろと言う言いつけがあったため、このような態度を取らせてしまいました」
「構わないわ。貴方のせいでは無いようだし、それでロイス?」
どうやら他の使用人たちも何か思うところがあったのでしょう。取り押さえたところを見る限り、最初から危険視はしていたみたいですから。
「あっ、いや、グイは最近懇意にしている商人から優秀な人材だと紹介されまして。それで以前いた貴族家が取り潰しになったとかで、就職先を探しているから宜しければどうか…と」
「そう……商人。その商人はどこから来ているのかは知っているのかしら?」
「…ベルテンス王国からと」
「おかしな話ね。ベルテンス王国とルクシアナ国では物価が大分違うはずよね。それなのに商売に来るなんて、逆ならまだしもそれでは利益どころか損しか出ないわ」
現在のベルテンス王国は政治が上手く行っていない影響で他国との商取引が減ってしまい、その結果物の価格が大幅に上昇してしまっています。平民が扱う食べ物などは王国内で生産していますのでまだ問題ないのですが、貴族などの生活にはかなりの影響が出ているのです。そんな中でベルテンス王国からルクシアナ国へ販路を作ると言うのは普通ではありません。
それに一商人が貴族の使用人の斡旋と言うのもおかしくもありますね。普通でしたら、そう言ったものは貴族間でのやり取りになるはずですから。
「あなた、出身はどこかしら?」
何か思うところがあるのでしょうか。お母さまがグイの出身地を聞きました。
「何故、そんなことを話す必要があるので?」
「いいから言いなさい」
「それは私がここで働く上で必要ないでしょう?」
何故、ここまで拒否をするのでしょう? 言ったところで何かある訳でもないでしょうし、むしろ言わない方がより疑われるでしょうに。
「何故言わないのかしら。いえ、言えないのかしらね?」
「だから何だと言うのです?」
「グラハルト商国」
「っ!?」
お母さまがそう言うと同時にグイの体が少しだけ強張りました。ああ、なるほど。だから言いたくなかったのですね。
私たちがここに来た原因を作った国ですし、貴族としてその被害に合っていますから1番に警戒しています。それについては相手も気づいていたと言うことなのでしょう。まさか、叔父様の子から疑惑が生まれるとは思っていなかったのでしょうけどね。
ですが、グラハルト商国の関係者がこの国まで来ているなんて。確かこの国との間に3つくらい国があったと思うのですが、もしかしてその国はもうグラハルト商国によって侵略されてしまっているのでしょうか。
グイが他の使用人に運ばれていきます。おそらくこの後に尋問なりをするのでしょう。他に新しく雇ったと言っていた使用人も同じような立場なのかはわかりませんが、出来るだけ早く対処しませんといけませんね。…まあ、私がやる訳ではありませんからどうなるのでしょうかね。
「さて、ロイス。それとオイガ…だったかしら?」
お母さまが目の前に居る2人に呼び掛けると、事の顛末を見て惚けていた2人は一瞬で意識をお母さまに戻し、恐怖からその身を強張らせました。
「貴方たちには指導が必要なようですね? 特にロイス。当主である以上もう少し疑うことを覚えなさい。今回は一時的に世話になる形だったのであまり口を出すつもりはなかったのですけど、このままではドルセイ家の存続に関わりそうなので仕方がありませんね」
「は、はいっ!」
オイガ様は涙目になっていますね。もしかしてあまり叱られたことが無いのでしょうか? 確かに起こっている時のお母さまは怖くはありますが、今回に関しては多少怒っている程度でそこまで怖くはなっていないのですけれど。
「それにしても、お父様は何をしていたのでしょう? あんな者を雇っているとわかれば前当主として追放くらいは出来たでしょうに」
「え? いえ、父上はひと月ほど前から体調を崩して寝込んでいると、連絡を入れていたのですが、もしかして届いていなかったのでしょうか?」
「何ですって? ちょっと、ここひと月でドルセイ家から書簡は届いていたかしら?」
「いえ、そのような物は届いていません」
お母さまは近くに居た我が家の執事に確認を取りましたが、執事は首を横に振りました。稀に通達した書簡が届かないことはありますけど、貴族の間ではそう言ったものは複数出すものです。なので、それが全て届いていないと言うのはあまり考えづらい事です。
「ロイス。その通達は誰に指示しました?」
「グイ…ですね」
なかなか危ない状況の中に私たちは到着したようですね。
おそらく、この件でもお母さまからの指導が入ると思うので、叔父様が明日の朝を真面に迎えられるようにお祈りでもしておきましょう。まあ、自業自得ではありますけどね。
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