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夜会の給仕の思う事
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しおりを挟む本日は王城内で夜会が開かれることになっています。いえ、訂正します。本日も夜会が開かれることになっています。
私は今回の夜会で給仕を担当することになった新人メイド。なんで新人が夜会の給仕しているのか、と問われればこう答えます。
「本来給仕を担当するはずだった先輩メイドが前回の夜会を最後に連絡が途絶えたからです」
と。その先輩メイドとの交流はあまりありませんでしたが見目の良い方でした。まあ、要するに見た目を買われてどこかの貴族の令息に引き抜かれたと言うことなのでしょう。これが真っ当な貴族ならよいのですが、こちらに何の連絡もない以上あまり良いやり方ではないので先輩メイドがどうなったかはお察しですね。
他にも先輩メイドは居ますが、私に給仕の仕事を放り投げてさっさと逃げてしまっています。
はっきり言ってこの王国の貴族は腐っています。先代の国王がご存命の時まではこうではなかったようですが、10年程でこのありさま。国政の方も汚職に次ぐ汚職と言った負のスパイラル状態で、しっかりと先を見ている国民は早々に出国の準備を進めているとのこと。
出来れば私も逃げ出したいところですが、残念ながら平民の出である私は逃走資金を出すことも、逃げ込むコネもありません。どうにかして逃げ出すには真面な貴族の元に逃げ込むことですが、まあわかってはいます。無理ですね。
まず真っ当な貴族が少なすぎます。まともな貴族が1に対してダメ貴族が7の比率ですよ。しかも、私のような平民上がりのメイドが貴族と面識を持てるのはこういった夜会くらいなのですが、まともな貴族は殆ど来ません。なので夜会担当のメイドは外れメイドなんて呼ばれています。
あ、あくまでメイドの中からですよ? ダメなメイドが夜会の給仕をしているわけではないのです。本当です。
夜会がそろそろ始まります。
出来れば何事もなく始まって、何事もなく終わってほしいところですが、今までの話を聞く限りそれは無いでしょう。
何かが起きた時に巻き込まれたくないので端に寄っておきましょう。出来れば夜会に参加している方々からは見えにくい位置で。
夜会が始まってしばらくは何事もなく時間が過ぎていましたが、とある令嬢が会場に入ってきたことで夜会の雰囲気が急変しました。
ああ、どうやら今回の夜会のターゲットが到着してしまったようです。
この夜会、夜会とは銘打っていますが、実状は公開死刑場と裏で呼ばれています。要は大人数の中でターゲットの方を貶し続けるという物です。はっきり言って趣味が悪い、貴族の遊びのような物。
ああ、しかも今回のターゲットは公爵令嬢のようですね。出来ればこの場からいなくなりたい。話を聞くだけならまだしも、この狂った環境で育っていない私にとってはこの場の空気だけで嫌悪感が湧きだします。
今回の仕掛人は新興子爵の令嬢と…え? 第2王子?
嘘でしょう、何で王子がそちら側にまわっているのですか? 確かターゲットの公爵令嬢の婚約者でしたよね。いえ、そういえば第2王子は頭が軽い方でしたね。であれば、子爵令嬢に言い包められてしまったのでしょう。同情は出来ませんが、ご愁傷さまです。
そしてこの国の未来はますます暗くなりました。
先が見えないのではありません。一歩先に回避することのできない、底の見えない大きな穴が開いている感じですね。
王族ですらこうなってしまっていると、どうしようもない。
おや? 何やらあっさり場が収まりましたね。どうしたのでしょうか?
公爵令嬢はあっさり引き下がって会場から出て行ってしまいました。
あの場所の中心にいた方も少なからず惚けているようですから、思いもしない切り返しに合ったのかもしれません。
ざまぁ見ろですね。
とは言え今回の夜会の目的は達しているようですから、これでお開きになるでしょう。そうであって欲しいですね。
よかった。撤収の作業に移りました。大して手を付けられていない食事を片していきます。毎度のことながらこれを作るための資金はどこから出ているのでしょうか。
「そこのメイドこっちに来い」
食器をまとめて片していると後ろから声がかけられました。どう考えても良い状況ではなさそうです。
「何でしょうか」
「ふむ。まあ、悪くはないか」
私を呼んだ貴族の令息と思われる方は、私の体を嘗め回すように見ました。正直気持ち悪い。
「俺の所に来い。使い潰してやる」
最悪。私の人生はここで幕を下ろすことになろうとは。メイドの立場上、断ることは出来ないので従うしかない。
「ああ、すまないね。そのメイドはうちのだ。勝手に持っていかれては困るよ」
「ああ? っ!?」
また知らない令息が登場した。何で夜会が終わったのにまだ会場の中に居るのか。出来ればさっさと屋敷に帰ってほしいのだけど。
「君は確か新興男爵家の者だったよね。まさか侯爵家の所有物を盗もうだなんてことはないよね?」
「っああ、申し訳ない。知らなかったとはいえ侯爵家に楯突くつもりはない」
そう言って最初に声を掛けて来た令息は逃げるようにこの場を立ち去って行った。私としては一難去ってまた一難と言った状況なので、一切の油断は出来ないのだけど。早く仕事に戻りたい。いや、もういっそメイドは辞めよう!
「すまないね。あれしか断らせる理由が思いつかなかった」
侯爵家の令息はそう言って私に頭を下げた。貴族がいきなり頭を下げたことに衝撃を受けたけど、どうやらこの方はまともな貴族ではあるらしい。
「ってメイドに対して頭を下げないでください! あ、いえ。ありがとうございます。おかげで助かりました。貴方様が声を掛けてくださらなければ、あのままどこかに連れていかれるところでしたから、場合によって命の恩人とも言えますね」
「そうかい? それは良かった。最近ああいうのが増えているからどうにかしたかったんだ」
私の返答に公爵令息は満面の笑みをこぼした。実に良い顔だ。17~8歳くらいだと思っていたけどこの反応を見ると、もしかしたら見た目よりも年齢は若いのかもしれない。
「そうですね。私も本来ここに居るような立場ではないのですが、おそらくそう言ったことの影響でしょう」
「ああ、なるほど。噂で聞いていた以上に状況は悪いのか」
「そのようですね。私も他の職場を探さなければ、今後どうなるかわかりませんね」
本当に早く別の場所に転職しないとまた同じようなことが起きるかもしれない。しかも今回助けられたのは偶然でしかない。次も同じように助けてもらえる可能性はとても低いはずだ。
「そうか、だったら我が家で働いてみないかい? さっきの者と同じような形になってしまうが、悪いようにはしない。ただ、仕事の内容はこことそれほど変わらないと思うけどね?」
さすがにこれは警戒した方が良いわね。上げて落とすとかそんな流れが少しだけど見える。いや、おそらくここで働くよりは環境は良くなるかもしれない。でも、ここと違って辞め辛くなるのは目に見える。どうしよう。おそらく今後こんな機会が回ってくる可能性は低い。いや、むしろないかもしれない。
「やっぱり、直ぐには無理だよね」
「あ、いえ! 是非お願いします!」
私の中で判断できないうちに侯爵令息が残念そうな表情をして離れて行こうとしたので、咄嗟に了承の返事をしてしまった。
あ、何かしてやったり見たいな満足げな表情をしている。やられた! さっきの残念そうな表情も仕込みだったのか!?
そうして、次の日から私は侯爵家のメイドとして働くことになった。
もうどうとでもなればいいんだよ!
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