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第18話 休戦
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「痛っ! うーむ、返されたか。だが一本返した程度じゃ大したダメージにはならないよ? エリン君」
わたしの返した影の矢が無事当たったようで、どこかからヴェルナーの笑い声が聞こえてくる。
絶えず移動しながら攻撃をかけるからか、自分の正確な場所が分からないだろうと思って余裕をこいているようだ。
返した影矢はこの後の攻撃に生かす為のもの。そんな舐めた態度を取っていられるのもここまでよ。見てらっしゃい!!
「邪魔!」
「ひぃぃぃ!」
わたしは背中を負傷して悶絶しているお庭番を容赦なく蹴飛ばすと、履いていた黒のブーツでレンガの道を激しく踏みつけた。
「グラビタス マニュピレーション(重力操作)、ロックオン!!」
重力のくびきから解き放たれたレンガたちは、その場に浮くとミサイルと化して空にすっ飛んでいった。
レンガが庭園のあちこちに猛スピードで着弾し、木っ端みじんに砕け散る。
あんたは影から影へと移動しつつ避けるんでしょうけど、ざーんねん。さっき返した影の矢で生体反応に照準を合わせ済みよ! どこに逃げようとレンガが自動追尾してくれるんだから!
わたしは成果を気にせず、着弾方向に向かってスタスタと歩いた。
その度に周囲のレンガや石畳がめくれ、更には植木までもがミサイルとなって飛んでいく。
「え!? ちょっ! おい! 何てことしてくれてるんだ! うわっ!!」
意図を悟ったヴェルナーの声が焦りを帯びる。
わたしは気にせずレンガミサイルを飛ばし続けた。
「歴史ある庭園でしょうに、小道の敷石はおろか折角綺麗に植えた木々まで抜けて、貧相な庭になっちゃうわね。あーあ、庭師さん可哀そう。……そら行け!」
「君がやってるんじゃないか!! うわっ、あっぶね!! んぐぐ……。分かった、降参する! ここまでだ! こんなことがバレたら兄王からどんなお仕置きを受けるか!! 美味しいスイーツを用意するから許してくれないか!」
その言葉に、わたしはその場に立ち止まった。
「期待していい?」
わたしは植木の陰から埃だらけになりつつヨロヨロと姿を現したヴェルナーに向かって、最高級のウィンクをしてみせた。
◇◆◇◆◇
「……気に入ったかね?」
「そうね。中々のお味だわ」
「そいつは良かった。後でパティシエを褒めておくとしよう」
庭園の隅の方に設置された東屋で、笑顔のわたしとブスっと渋い顔をしたヴェルナーとが向かい合って座っていた。
幸い、この辺りには戦闘の被害は全くない。
わたしはウェイターが持ってきた生クリームたっぷり、ぷるっぷるのパンケーキを食べながら、テーブルの上に置かれた写真を覗き込んだ。
そこには、魔法で念写されたと思しき魔法陣が写っていた。
その複雑な紋様に見覚えがある。
マティアスの部屋に貼ってあった羊皮紙に描かれていたものだ。
だが、一緒に写っている景色から推察すると、かなり大きな魔法陣に見える。
熱いお茶を飲みながら、ヴェルナーが面白くもなさそうな表情で話し始めた。
「知っての通り、我がゼフリア王国とお隣エイヴィス王国とは、アラル川を挟んで隣り合っている。隣国同士は仲が悪いとはよく言ったものだが、我々もまた例外ではない。幸いにしてアラル川は三キロも川幅があるので今のところ戦端が開かれても常に小競り合いで終わっているが、両国ともに、できることなら相手方の土地を入手したいと考えているだろう」
「隣の芝生は青く見えるものよ」
わたしの態度から他人事感でも感じ取ったか、ヴェルナーが微かに口をへの字に曲げる。
そりゃあ黒ヒゲは紛れもなく当事者かもしれないけど、こっちはただの旅人なのよ? 共感を求められたって困るわよ。
「ここ数か月前からエイヴィスが軍を増強し、アラル川沿いに大規模展開しつつある。動きを感じ取った我々は対抗するべく自軍の軍備を拡充しながら、間者を放ってその原因を特定した」
「なるほど、ハインツの両親が出稼ぎに出たのはそのせいか。で? 何だったの?」
「エイヴィス王家にその才を見い出された我が友マティアス=フリューゲルが、アラル川の中州で大規模魔法実験をしようとしていることが分かった。そしてこれが、遥か上空から式神を使って撮らせた魔法陣だ」
わたしは分厚いパンケーキのかけらでガラスプレートに残ったクリームを余さず掬いながら横目で再度、写真を見た。
念写は数日前に為されたばかりらしい。
この感じなら魔法陣完成まであと数日といったところだ。
「ヴェルナーさん。この魔法陣が何を目的としているものだか分かる?」
「それがさっぱり。残念ながら私はマティアスほど魔法学が優秀ではないんだ。アイツはあれで主席だったからね。何かを集めるものらしいとしか分からない」
わたしは考えながら、軽くフォークでお皿を突いた。
さぁて、どう出るか――。
「マティアスさんはゼフリアとエイヴィスとの間に戦争を起こして、そこで亡くなった人の魂を大量に集めようとしているのよ」
「……死者の魂を? 何のために?」
「彼は集めた魂を加工して人造悪魔を作りたいのよ。間違いないわ」
「人造悪魔? 何のために? ……そうか! マティアスの持っている悪魔の書は写本だ。中に悪魔が入っていない。それをより強力に、そして完璧に近づける為に、人造悪魔を作って本に移植しようとしているのか! 何てことだ……」
一緒に出されたお茶を飲みながら、わたしはそっとつぶやいた。
「なるほど。やっぱりヴェルナーさんは、マティアスさんが悪魔の書を所持していることを知っているのね。本命はこっちか……」
「ん? 何か言ったかい?」
「いいえ、何も。じゃ、早速止めにいきましょ」
わたしは立ち上がると、ヴェルナーに向かって軽くウィンクをした。
わたしの返した影の矢が無事当たったようで、どこかからヴェルナーの笑い声が聞こえてくる。
絶えず移動しながら攻撃をかけるからか、自分の正確な場所が分からないだろうと思って余裕をこいているようだ。
返した影矢はこの後の攻撃に生かす為のもの。そんな舐めた態度を取っていられるのもここまでよ。見てらっしゃい!!
「邪魔!」
「ひぃぃぃ!」
わたしは背中を負傷して悶絶しているお庭番を容赦なく蹴飛ばすと、履いていた黒のブーツでレンガの道を激しく踏みつけた。
「グラビタス マニュピレーション(重力操作)、ロックオン!!」
重力のくびきから解き放たれたレンガたちは、その場に浮くとミサイルと化して空にすっ飛んでいった。
レンガが庭園のあちこちに猛スピードで着弾し、木っ端みじんに砕け散る。
あんたは影から影へと移動しつつ避けるんでしょうけど、ざーんねん。さっき返した影の矢で生体反応に照準を合わせ済みよ! どこに逃げようとレンガが自動追尾してくれるんだから!
わたしは成果を気にせず、着弾方向に向かってスタスタと歩いた。
その度に周囲のレンガや石畳がめくれ、更には植木までもがミサイルとなって飛んでいく。
「え!? ちょっ! おい! 何てことしてくれてるんだ! うわっ!!」
意図を悟ったヴェルナーの声が焦りを帯びる。
わたしは気にせずレンガミサイルを飛ばし続けた。
「歴史ある庭園でしょうに、小道の敷石はおろか折角綺麗に植えた木々まで抜けて、貧相な庭になっちゃうわね。あーあ、庭師さん可哀そう。……そら行け!」
「君がやってるんじゃないか!! うわっ、あっぶね!! んぐぐ……。分かった、降参する! ここまでだ! こんなことがバレたら兄王からどんなお仕置きを受けるか!! 美味しいスイーツを用意するから許してくれないか!」
その言葉に、わたしはその場に立ち止まった。
「期待していい?」
わたしは植木の陰から埃だらけになりつつヨロヨロと姿を現したヴェルナーに向かって、最高級のウィンクをしてみせた。
◇◆◇◆◇
「……気に入ったかね?」
「そうね。中々のお味だわ」
「そいつは良かった。後でパティシエを褒めておくとしよう」
庭園の隅の方に設置された東屋で、笑顔のわたしとブスっと渋い顔をしたヴェルナーとが向かい合って座っていた。
幸い、この辺りには戦闘の被害は全くない。
わたしはウェイターが持ってきた生クリームたっぷり、ぷるっぷるのパンケーキを食べながら、テーブルの上に置かれた写真を覗き込んだ。
そこには、魔法で念写されたと思しき魔法陣が写っていた。
その複雑な紋様に見覚えがある。
マティアスの部屋に貼ってあった羊皮紙に描かれていたものだ。
だが、一緒に写っている景色から推察すると、かなり大きな魔法陣に見える。
熱いお茶を飲みながら、ヴェルナーが面白くもなさそうな表情で話し始めた。
「知っての通り、我がゼフリア王国とお隣エイヴィス王国とは、アラル川を挟んで隣り合っている。隣国同士は仲が悪いとはよく言ったものだが、我々もまた例外ではない。幸いにしてアラル川は三キロも川幅があるので今のところ戦端が開かれても常に小競り合いで終わっているが、両国ともに、できることなら相手方の土地を入手したいと考えているだろう」
「隣の芝生は青く見えるものよ」
わたしの態度から他人事感でも感じ取ったか、ヴェルナーが微かに口をへの字に曲げる。
そりゃあ黒ヒゲは紛れもなく当事者かもしれないけど、こっちはただの旅人なのよ? 共感を求められたって困るわよ。
「ここ数か月前からエイヴィスが軍を増強し、アラル川沿いに大規模展開しつつある。動きを感じ取った我々は対抗するべく自軍の軍備を拡充しながら、間者を放ってその原因を特定した」
「なるほど、ハインツの両親が出稼ぎに出たのはそのせいか。で? 何だったの?」
「エイヴィス王家にその才を見い出された我が友マティアス=フリューゲルが、アラル川の中州で大規模魔法実験をしようとしていることが分かった。そしてこれが、遥か上空から式神を使って撮らせた魔法陣だ」
わたしは分厚いパンケーキのかけらでガラスプレートに残ったクリームを余さず掬いながら横目で再度、写真を見た。
念写は数日前に為されたばかりらしい。
この感じなら魔法陣完成まであと数日といったところだ。
「ヴェルナーさん。この魔法陣が何を目的としているものだか分かる?」
「それがさっぱり。残念ながら私はマティアスほど魔法学が優秀ではないんだ。アイツはあれで主席だったからね。何かを集めるものらしいとしか分からない」
わたしは考えながら、軽くフォークでお皿を突いた。
さぁて、どう出るか――。
「マティアスさんはゼフリアとエイヴィスとの間に戦争を起こして、そこで亡くなった人の魂を大量に集めようとしているのよ」
「……死者の魂を? 何のために?」
「彼は集めた魂を加工して人造悪魔を作りたいのよ。間違いないわ」
「人造悪魔? 何のために? ……そうか! マティアスの持っている悪魔の書は写本だ。中に悪魔が入っていない。それをより強力に、そして完璧に近づける為に、人造悪魔を作って本に移植しようとしているのか! 何てことだ……」
一緒に出されたお茶を飲みながら、わたしはそっとつぶやいた。
「なるほど。やっぱりヴェルナーさんは、マティアスさんが悪魔の書を所持していることを知っているのね。本命はこっちか……」
「ん? 何か言ったかい?」
「いいえ、何も。じゃ、早速止めにいきましょ」
わたしは立ち上がると、ヴェルナーに向かって軽くウィンクをした。
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