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第9話 蒼天のグリモワール
しおりを挟む 翌日。
「うわ、なにこの死体」
机に突っ伏している俺を見つけた二見の第一声がこれだった。
「誰が死体だ、誰が」
俺はのっそりと上体を起こす。そんな動きを見た二見はと言えば、
「おお、生き返った」
「馬鹿野郎。まだ死ぬのには百五十年早いわ」
「ギネスに挑戦!?」
とまあ、馬鹿馬鹿しい小ボケと小ツッコミを交わしたのち、二見が机の上に──より正確には机の上に置いてあった、俺のノートパソコンの画面をのぞき込み、
「わ、これ、あれでしょ?ぷろっとってやつ」
「そんな大層なもんじゃないけどな」
そう。
今俺は所謂「プロット」なるものを考えていた。
なんでかって?そんなのは簡単さ。俺が星咲の売って来た馬鹿みたいな喧嘩を何も考えずに買っちゃったからだよ。良い子のみんなはそういう後先考えない行動はしないようにしようね。
二見が怪訝な表情で、
「……これは、どういう意味?」
「聞き方よ」
「や、だって、そう聞くしか無くない?こんな断片的なワードじゃ内容は分からないよ。なに、「ラブコメ的なアレ」とか「脛に傷」とか」
「まあ、メモ書きだな。思いついたイメージを書いてる」
「ふーん……え、でも、実際にあらすじくらいにはしないといけないんでしょ?」
「分からん」
「分からん、と来たか」
「や、だって分からんだろ。アイツ、特に条件も示さなかったし」
そう。
売り言葉に買い言葉で、はっきりと対立姿勢を見せた星咲は、俺に対して「一週間後までに「面白い話」を考えておくように」とだけ言い捨てて、自前の原稿を持って店を後にしたのだ。従って俺が作ればいい「面白い話」の本数も分からないし、ジャンルに関しても一切不明だ。言葉自体をそのまま解釈するのであれば、所謂「滑らない話」も候補になってくる。
前後の文脈的にはありえないことではあるが、それを考慮しても分からない部分が多く、結果として俺は取り合えずプロット的な何かを作ってみようと思ったのだ。しかし、
「で、座礁してると」
「ま、そういうことだ」
二見が納得し、
「零くん、条件の穴を付くのが好きだもんね」
「おいおいそれだと俺が常々から抜け道を探してるみたいじゃないか」
二見は俺の言葉を完全に無視して、
「零くんは穴を突くのが好きだもんね」
「やめて。それだと違う意味になるからやめて」
「でも好きでしょ?」
「それを言うなら穴に入れるじゃないのか?」
「やだ卑猥」
「お前が言い出したんだろ、もういいぜ。どうも、ありがとうございました~」
「いや、終わらないよ?」
ちっ、逃げ切れると思ったのに。
流石、幼馴染。俺の習性をよく分かってらっしゃる。
俺は諦めて、
「抜け道ってわけじゃないけど、あいつの求める条件みたいなのが分かった方がやりやすいのは確かだな」
「それは分かってるじゃない。面白い話」
「それが難しいんだよ」
「どういうこと?」
「いいか?星咲は自分の書いたものに対して違和感を抱いていない。つまり、アイツはあれが「面白い」と思ってるってことだ。と、なると、「面白い」っていう基準値が大分ぶっ壊れてることになる。それに対して「面白いもの」を提示するってなると、まあ難しいわけよ」
二見は神妙にうなづきつつも、
「なるほどねぇ……でも、零くんなら、誰でもうならせられるような話を描けるんじゃない?なんたって、編集さんみたいなもんだし」
「それはあくまでベースがしっかりしてるから出来るんだよ。綺麗にカットされたジャガイモやニンジンや肉を使って肉じゃがを作ることは出来るけど、そこに泥団子が混入してたら、どう調理しようが調味しようが泥水と愉快な仲間たちの完成だろ?」
「今の、星咲さんが聞いたらぶち切れそうだね……」
知ったことか。テンプレな上につまらない話を描く方が悪い。
二見が「いいことを思いついた」と言った具合に手をぽんと叩き、
「そうだ。大ちゃんに聞いたらいいんじゃない?」
「安楽城か……」
考える。
しかし、
「答えてくれるかなぁ……」
「うわ、なにこの死体」
机に突っ伏している俺を見つけた二見の第一声がこれだった。
「誰が死体だ、誰が」
俺はのっそりと上体を起こす。そんな動きを見た二見はと言えば、
「おお、生き返った」
「馬鹿野郎。まだ死ぬのには百五十年早いわ」
「ギネスに挑戦!?」
とまあ、馬鹿馬鹿しい小ボケと小ツッコミを交わしたのち、二見が机の上に──より正確には机の上に置いてあった、俺のノートパソコンの画面をのぞき込み、
「わ、これ、あれでしょ?ぷろっとってやつ」
「そんな大層なもんじゃないけどな」
そう。
今俺は所謂「プロット」なるものを考えていた。
なんでかって?そんなのは簡単さ。俺が星咲の売って来た馬鹿みたいな喧嘩を何も考えずに買っちゃったからだよ。良い子のみんなはそういう後先考えない行動はしないようにしようね。
二見が怪訝な表情で、
「……これは、どういう意味?」
「聞き方よ」
「や、だって、そう聞くしか無くない?こんな断片的なワードじゃ内容は分からないよ。なに、「ラブコメ的なアレ」とか「脛に傷」とか」
「まあ、メモ書きだな。思いついたイメージを書いてる」
「ふーん……え、でも、実際にあらすじくらいにはしないといけないんでしょ?」
「分からん」
「分からん、と来たか」
「や、だって分からんだろ。アイツ、特に条件も示さなかったし」
そう。
売り言葉に買い言葉で、はっきりと対立姿勢を見せた星咲は、俺に対して「一週間後までに「面白い話」を考えておくように」とだけ言い捨てて、自前の原稿を持って店を後にしたのだ。従って俺が作ればいい「面白い話」の本数も分からないし、ジャンルに関しても一切不明だ。言葉自体をそのまま解釈するのであれば、所謂「滑らない話」も候補になってくる。
前後の文脈的にはありえないことではあるが、それを考慮しても分からない部分が多く、結果として俺は取り合えずプロット的な何かを作ってみようと思ったのだ。しかし、
「で、座礁してると」
「ま、そういうことだ」
二見が納得し、
「零くん、条件の穴を付くのが好きだもんね」
「おいおいそれだと俺が常々から抜け道を探してるみたいじゃないか」
二見は俺の言葉を完全に無視して、
「零くんは穴を突くのが好きだもんね」
「やめて。それだと違う意味になるからやめて」
「でも好きでしょ?」
「それを言うなら穴に入れるじゃないのか?」
「やだ卑猥」
「お前が言い出したんだろ、もういいぜ。どうも、ありがとうございました~」
「いや、終わらないよ?」
ちっ、逃げ切れると思ったのに。
流石、幼馴染。俺の習性をよく分かってらっしゃる。
俺は諦めて、
「抜け道ってわけじゃないけど、あいつの求める条件みたいなのが分かった方がやりやすいのは確かだな」
「それは分かってるじゃない。面白い話」
「それが難しいんだよ」
「どういうこと?」
「いいか?星咲は自分の書いたものに対して違和感を抱いていない。つまり、アイツはあれが「面白い」と思ってるってことだ。と、なると、「面白い」っていう基準値が大分ぶっ壊れてることになる。それに対して「面白いもの」を提示するってなると、まあ難しいわけよ」
二見は神妙にうなづきつつも、
「なるほどねぇ……でも、零くんなら、誰でもうならせられるような話を描けるんじゃない?なんたって、編集さんみたいなもんだし」
「それはあくまでベースがしっかりしてるから出来るんだよ。綺麗にカットされたジャガイモやニンジンや肉を使って肉じゃがを作ることは出来るけど、そこに泥団子が混入してたら、どう調理しようが調味しようが泥水と愉快な仲間たちの完成だろ?」
「今の、星咲さんが聞いたらぶち切れそうだね……」
知ったことか。テンプレな上につまらない話を描く方が悪い。
二見が「いいことを思いついた」と言った具合に手をぽんと叩き、
「そうだ。大ちゃんに聞いたらいいんじゃない?」
「安楽城か……」
考える。
しかし、
「答えてくれるかなぁ……」
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