蒼天のグリモワール 〜最強のプリンセス・エリン〜

雪月風花

文字の大きさ
上 下
9 / 43

第9話 蒼天のグリモワール

しおりを挟む
 翌日。

「うわ、なにこの死体」

 机に突っ伏している俺を見つけた二見ふたみの第一声がこれだった。

「誰が死体だ、誰が」

 俺はのっそりと上体を起こす。そんな動きを見た二見はと言えば、

「おお、生き返った」

「馬鹿野郎。まだ死ぬのには百五十年早いわ」

「ギネスに挑戦!?」

 とまあ、馬鹿馬鹿しい小ボケと小ツッコミを交わしたのち、二見が机の上に──より正確には机の上に置いてあった、俺のノートパソコンの画面をのぞき込み、

「わ、これ、あれでしょ?ぷろっとってやつ」

「そんな大層なもんじゃないけどな」

 そう。

 今俺は所謂「プロット」なるものを考えていた。

 なんでかって?そんなのは簡単さ。俺が星咲ほしざきの売って来た馬鹿みたいな喧嘩を何も考えずに買っちゃったからだよ。良い子のみんなはそういう後先考えない行動はしないようにしようね。

 二見が怪訝な表情で、

「……これは、どういう意味?」

「聞き方よ」

「や、だって、そう聞くしか無くない?こんな断片的なワードじゃ内容は分からないよ。なに、「ラブコメ的なアレ」とか「脛に傷」とか」

「まあ、メモ書きだな。思いついたイメージを書いてる」

「ふーん……え、でも、実際にあらすじくらいにはしないといけないんでしょ?」

「分からん」

「分からん、と来たか」

「や、だって分からんだろ。アイツ、特に条件も示さなかったし」

 そう。

 売り言葉に買い言葉で、はっきりと対立姿勢を見せた星咲は、俺に対して「一週間後までに「面白い話」を考えておくように」とだけ言い捨てて、自前の原稿を持って店を後にしたのだ。従って俺が作ればいい「面白い話」の本数も分からないし、ジャンルに関しても一切不明だ。言葉自体をそのまま解釈するのであれば、所謂「滑らない話」も候補になってくる。

 前後の文脈的にはありえないことではあるが、それを考慮しても分からない部分が多く、結果として俺は取り合えずプロット的な何かを作ってみようと思ったのだ。しかし、

「で、座礁してると」

「ま、そういうことだ」

 二見が納得し、

れいくん、条件の穴を付くのが好きだもんね」

「おいおいそれだと俺が常々から抜け道を探してるみたいじゃないか」

 二見は俺の言葉を完全に無視して、

「零くんは穴を突くのが好きだもんね」

「やめて。それだと違う意味になるからやめて」

「でも好きでしょ?」

「それを言うなら穴に入れるじゃないのか?」

「やだ卑猥」

「お前が言い出したんだろ、もういいぜ。どうも、ありがとうございました~」

「いや、終わらないよ?」

 ちっ、逃げ切れると思ったのに。

 流石、幼馴染。俺の習性をよく分かってらっしゃる。

 俺は諦めて、

「抜け道ってわけじゃないけど、あいつの求める条件みたいなのが分かった方がやりやすいのは確かだな」

「それは分かってるじゃない。面白い話」

「それが難しいんだよ」

「どういうこと?」

「いいか?星咲は自分の書いたものに対して違和感を抱いていない。つまり、アイツはあれが「面白い」と思ってるってことだ。と、なると、「面白い」っていう基準値が大分ぶっ壊れてることになる。それに対して「面白いもの」を提示するってなると、まあ難しいわけよ」

 二見は神妙にうなづきつつも、

「なるほどねぇ……でも、零くんなら、誰でもうならせられるような話を描けるんじゃない?なんたって、編集さんみたいなもんだし」

「それはあくまでベースがしっかりしてるから出来るんだよ。綺麗にカットされたジャガイモやニンジンや肉を使って肉じゃがを作ることは出来るけど、そこに泥団子が混入してたら、どう調理しようが調味しようが泥水と愉快な仲間たちの完成だろ?」

「今の、星咲さんが聞いたらぶち切れそうだね……」

 知ったことか。テンプレな上につまらない話を描く方が悪い。

 二見が「いいことを思いついた」と言った具合に手をぽんと叩き、

「そうだ。だいちゃんに聞いたらいいんじゃない?」

安楽城あらきか……」

 考える。

 しかし、

「答えてくれるかなぁ……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!

克全
ファンタジー
上杉謙信の弟に転生したウェブ仮想戦記作家は、四兄の上杉謙信や長兄の長尾晴景に殺されないように動く。特に黒滝城主の黒田秀忠の叛乱によって次兄や三兄と一緒に殺されないように知恵を絞る。一切の自重をせすに前世の知識を使って農業改革に産業改革、軍事改革を行って日本を統一にまい進する。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...