323 / 365
第323話 起きちゃった
しおりを挟む「あの、すみませんでした…」
「僕こそ、ぐっすり寝ちゃってごめんね。」
次に獅音さんが起きた頃には、すっかり日が沈んでいた。
その間拘束され続けた私も、あの後二度寝した。
今日は夜、眠れないかもしれない。
時間は19時。
ご飯でも食べていってもらおうか。
「何か作ります。
良かったらご飯食べていってください。」
「体調は大丈夫なの?
何かデリバリーしようよ。」
「でも…」
「いいから、こっちおいで。
一緒に見よう。」
獅音さんが携帯を取り出してアプリを開く。
「何にしよう。
温かいものがいいよね。お粥とかあるけど…
何か食べたいものある?」
「へぇ~…お粥もデリバリーできるんですね。
だけどお粥だと獅音さん物足りなくないですか?」
「僕のことは気にしなくていいよ。
う~ん…ここはどう?」
「美味しそうですね…この、梅雑炊がいいです。」
「はーい。僕は鳥雑炊にしよっと。」
さっと注文を終えて、獅音さんが机に携帯を置いた。
「さて、それじゃあ奏ちゃん。おいで。」
私たちは今、ラグに横並びで座っている。
「…どこに…」
「ここ。」
ここ、と言って獅音さんは自分の太ももをぽんぽんと叩いた。
「はい?!」
「ぎゅっとしたいから、ここに来て。」
「上に乗れと?!」
「そう。
今日一緒に寝たし、もう慣れたでしょ。」
「それとこれとは別では…?!」
「いいから来て。」
流石に獅音さんの太ももの上に乗るのは、自分の体重も気になるしちょっと…
押し問答の末、獅音さんの足の間に座るということで合意した。
なんだこれ。
「こっち見て。」
「顔が近くて恥ずかしいので無理です」
「え~…」
そのまま固まっていると、急に伸びてきた獅音さんの両手が私の頭と腰を自分の方へぐっと引いた。
獅音さんの胸の中にぽすっと倒れこむ。
「わぁ、あ、ごめんなさいっ、」
離れようとするがまたも抱き締められたまま拘束される。
「このまま」
今日、ずっとこの体勢の気がする。
腕の中で固まってると、獅音さんが私の髪を弄り始めた。
「…毎月、今日みたいにしんどいの?」
「…暑い時期は多少マシかな、と」
「これから寒くなるよ。」
「そう、ですね…」
「奏ちゃんが嫌じゃないなら、体調悪いときは呼んでほしい。
一人で辛い思いしてほしくないの。
分かった?」
「…はい。」
「あと、もっと甘えてほしい。恋人だから。」
「それは、」
「僕以外に甘える相手が居るの?
僕以外にあんなところ見せてるの?」
急に変わった雰囲気に戸惑う。
いつもと同じ喋り方なのに、何かが違った。
「そんなわけないじゃないですか…」
「…そう。」
「…怒ってますか?」
獅音さんからネガティブな感情を感じたことは無い。
実際、いつもどおり優しい声で会話は続いている。
でも、
「怒ってないよ。」
これは嘘だ、と思った。
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~
狭山ひびき@バカふり160万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。
そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。
「……わたしは、妖精が見えるの」
気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは――
心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。
フシギな異世界体験とウサギさんとの約束
金美詠
児童書・童話
六花はかくれんぼの最中に森でまいごになっていると、フシギなウサギさんと出会います。
そしてそのウサギさんがかしてくれた本がとてもすごいのです。
六花が、異世界ファンタジーで王子さまと結婚する貴族のお姫さまのお話が読みたいと言ったら、その本は本当にそのお話を実体験させてくれたのでした!
でも、本を見るためにウサギさんとある約束をしたのですが、ある日六花はその約束をやぶってしまうのです。
約束をやぶったまま入った本の世界では、王子さまはやさしい王子さまではなくなっていました。
そしてさいごに知るそのウサギさんの正体とは────
仔猫の想い
みちのあかり
児童書・童話
仔猫は自分を拾ってくれた男の子が好きだった。
男の子も仔猫が好きだった。
小学生の時代は男の子も猫も幸せだった。
男の子は中学生になってからいじめられるようになった。
そんな姿を見て仔猫は、男の子と話がしたい、慰めたいと願った。
いつの間にか、仔猫は男の子に恋をしてしまったのだ。
仔猫が、男の子と話ができるように、願いをかなえるために、
山の奥の魔法使いに会いに行った。
はたして、仔猫の願いはかなうのでしょうか。
児童小説をどうぞ
小木田十(おぎたみつる)
児童書・童話
児童小説のコーナーです。大人も楽しめるよ。 / 小木田十(おぎたみつる)フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。
それゆけ!しろくま号
七草すずめ
児童書・童話
これは、大人になったあなたのなかにいる、子供のころのあなたへおくるお話です。
サイドミラーはまるい耳。ひなた色をした体と、夜空の色をしたせなか。
しろくま号は、ヒナタとミツキを、どこへだって連れて行ってくれるのです。
さあ、今日はどんなところへ、冒険に出かける?
泣き虫な君を、主人公に任命します!
成木沢 遥
児童書・童話
『演技でピンチを乗り越えろ!!』
小学六年生の川井仁太は、声優になるという夢がある。しかし父からは、父のような優秀な医者になれと言われていて、夢を打ち明けられないでいた。
そんな中いじめっ子の野田が、隣のクラスの須藤をいじめているところを見てしまう。すると謎の男女二人組が現れて、須藤を助けた。その二人組は学内小劇団ボルドの『宮風ソウヤ』『星みこと』と名乗り、同じ学校の同級生だった。
ひょんなことからボルドに誘われる仁太。最初は断った仁太だが、学芸会で声優を目指す役を演じれば、役を通じて父に宣言することができると言われ、夢を宣言する勇気をつけるためにも、ボルドに参加する決意をする。
演技を駆使して、さまざまな困難を乗り越える仁太たち。
葛藤しながらも、懸命に夢を追う少年たちの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
もう一つの小学校
ゆきもと けい
児童書・童話
パラレルワールドという世界をご存じだろうか・・・
異世界や過去や未来とは違う現在のもう一つの世界・・・
これはパラレルワールドで、もう一つの別世界の同じ小学校へ行った先生と生徒たちの物語です。
同じ時間が流れているのに、自分たちが通っている小学校とは全く違う世界・・・
ここの自分たちが全く違うことに戸惑いながらも、現実としてそれを受け入れる生徒たち・・・
そして、元の世界に戻ってきた生徒たちが感じた事とは・・・
読んで頂けてら幸いです。
緑の丘の銀の星
ひろみ透夏
児童書・童話
★銀河とネコと遺跡と友情と宇宙人と人類滅亡と女王と絶滅生物の恋愛ファンタジー★
外来生物の調査のため銀河連合から地球に派遣されたオラキル博士は、宇宙船の事故により緑ヶ丘に不時着。日々救助を待っていた。
そんなある日、何も知らずに遊びにくる地球人トモミとアユムから『龍の玉伝説』を聞かされ、ともに洞窟を探検する。
そこで見たものは、博士の想定を遥かに超えるものだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる