Photo,彼女の写真

稲葉 兎衣

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【回避】

8.マント

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神坂の死体を見て、ユメコ、ムクロ、カヨの三人が悲鳴を上げ、ケイトはその場で尻もちをつき呼吸を荒くしている。タクミは、その場で腹を抱え込むようにして両膝をつき嘔吐していた。カオルは足を震わせ近くにいるソウタの背に隠れている。ソウタとサトリは女子三人の悲鳴を聞いて神坂の死体に目を向けていた。驚くも叫びはしない。それよりもソウタの場合はこの死体よりも先に驚くものを見ていたのだから…。

「こんな所にもーいてらんねーよ!一人でも、一人でもここを出てやるからなァァッ!!!」
無防備に食堂から出ていくケイト、タクミも逃げるようにこの場から去っていった。
 
「こ、こ、私もころ、、殺される!」
「いや、嫌ァァっ!」
カヨとムクロも続きに食堂から飛び出していく。ユメコも震えながらも食堂にまだ残っている三人の顔を見てゆっくりと食堂から出ていった。誰も神坂の死体にはもう興味を示していない。

「………。」
じっとサトリを見つめているのはソウタ、彼は彼女に何かを言おうとしているのか、とても気まずそうである。
「ど、どうして…」
ソウタが勇気を振り絞りそう声にした時、また怪奇現象は起きた。食堂の中の蛍光灯が点滅したのだ。霊感の強い三人にはこれが予兆とすぐに感づき急いでその場から離れる事にした。

その時に謎の力で離されるかのように廊下にあった掃除用具が入ってあるロッカーが倒れ、ソウタとサトリは別々の方向へ向かったのである。

「……何か感じる。彼から」
サトリもソウタに何かを感じている。
どうして、彼に惹かれるのか。
この惹かれは好意ではない。何か不思議な力に惹かれている。何を意味しているのか真実が知りたかった。


女子トイレに引きこもるようにして身を隠しているのは二年のムクロであった。無闇に動き回ってはかえって危険なのではないか?そう考えるが実際は脚がすくんで動くのすらままならない状態なのである。それならば、ずっと同じ場所で隠れていた方が安心。そう利己的に考えた結果がこれだ。

ずっと同じ場所で身を隠すのも恐怖に襲われるが飽くまで一時的な場所である。脚の震えが止まったら場所を移動しよう。そう考えていた。どうせならば逞しい男子と一緒に行動したい。体格だけで選ぶならタクミ、だが霊に力なんて通用するのだろうか?それなら少し挙動不審で頼りない気もするが霊感が強いソウタと一緒に居た方がいいんじゃないか?いっその事、人として頼りになるユメコと一緒に行動したい。なんてムクロは必死に考える。

何故、あの時にユメコと一緒の場所へ逃げなかったのだろう。最悪カヨでも良かった。どうして一人でトイレの中で身を隠すなんて選択肢を取ってしまったのだろう。小心者の自分が冷静な判断を出来なくしてしまっていた。一人は危険だ。

「よし!」
深呼吸し言葉で気持ちを引き締めて立つ。
トイレから出て取り敢えず誰かを探し陽がまた登るまで持ちこたえよう。明日になれば、誰かがやって来て外から扉を開けてくれるかもしれないし、何もしなくても開くようになっているかもしれない。それなら、出れた時の事を考えよう。先ずは、死んだ友人や先生の為に…。

突如バチンッと音を立てて女子トイレの電気が切れた。
「え、何?」
ムクロは、掠れ震えた声でそう言って閉まっている女子トイレの扉に背を寄せた。ギギギ、ギギギ、と何かの開く音…彼女は両手を引っ込めて全身を激しく震わせる。歯と歯が当たりガタガタと音が鳴る。扉はその後も音を立てて開き、何かマントのようなものを羽織った…男?のような人が現れた。いや、人に見えて人ではない…ような。
「ソウタくん…?」
体系的に背が高くモデルのようにすらっとしているような気がした。ソウタの悪ふざけだろう。「霊がいる」だと言って合宿だからドッキリを仕掛けているに違いない。全ての扉、窓が開かないのも彼が仕込んだことだ。

そう信じたかった。

だが、その黒いマントがこっちを見た。
明らかにソウタではない。
真っ白な顔、、よく見えないが口元は何かを噛みちぎって血で染まっているのが分かる。

そんな事に気がついても意味は無い。
この後、ムクロが待っているのは死なのだから。

……はぁぁ、何でかな…。
呆気な…私の人生。
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