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夜の闇は日々を侵す

随分と男を上げたね。頼もしくなった。

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 ナヅマとの戦いが終わるとサンはケイおばさんに駆け寄った。そして倒れているイエナを気にかけながら彼女に声をかける。

「……ケイおばさん。全部終わったよ。イエナは大丈夫?」
「大丈夫、とは言えないだろうけどね。けれどとりあえず必要な看病はしておいた。まあ死ぬことは無さそうだよ」
「そっか、良かった」

 安堵のため息と共に、サンは眠っているイエナの顔を眺めた。実力の叶わない相手でも全力で挑み、自分やファル、そしてケイを守った男の表情。そこにはパーツ商人だった頃の面影などどこにも残っていなかった。

「変わったね、イエナは。すごいよ」

ふとサンは自分でも意識しないうちに、そんな言葉を発していた。生きて自分の罪を背負う、その決心はきっと、簡単にはできぬことだったに違いない。しかし確かにイエナは、今日その道を歩き始めたのだ。

「なに言ってんだい。変わったのはイエナだけじゃないだろ?」
「……え?」
「あんたもだよ。随分と男を上げたね。頼もしくなった」

そう言うとケイはサンに向けてニカリとした笑顔を向けた。そんな彼女にサンもまた小さく笑みを返す。

「ありがと。そうだね。色々あったから」
「サーン! どこですかー?」

 サンとケイが話していると、その遠くから1人の男の声が聞こえてきた。きっとユニだろう。サンはそう感じて彼の方を向く。するとそこにはユニとシェドとネクがいて、シェドはファルをおぶってきていた。

「みんな!」

 サンはそう言葉を発して安堵のため息を漏らした。彼らが無事でこちらにきたということは商店街の方も大体ことが片付いたということだ。あちらがどうなっていたかは、後でシェド達に聞こう。

 こうしてラキュラが首謀となって引き起こされたスカイル侵攻は終結を迎えた。強大な脅威が去ったことにより民衆達は胸を撫で下ろしたが、彼らの表情には決して明るさは見られなかった。なぜならば、スアロやクラウを始めとした、数十人ほどの鳥人が連れ攫われたからだ。シェドたちが奮闘しても、結局それほどの被害が出てしまっていた。

 そしてこの日、改造獣人の事件は、スカイルの獣人たちの脳内に、深く刻まれたのだった。



「ケイおばさ~ん。ただいま~」
「ただいま。帰ったよ」
「あら、おかえり。ピグル。アラシ。今日は大変だったねぇ」

 商店街の復旧作業を終え、アラシとピグルはフォレスに戻ってきた。そしてピグルは、体の力を全て出し切る様なため息を出して、ケイに言葉を返す。

「はぁぁぁ。ほんと大変だったよぉ。あれ? 他のみんなはどうしたの?」
「ああ、とりあえずイエナとサンは向こうで寝てるよ。こっちもまあ、色々あったのさ」
「やっぱりこっちにも何かしら襲撃があったのか」
「そうだねぇ。アラシ。まあ、そのことは後で話すさ。とりあえずご飯でも食べな。2人とも疲れただろ。もうあるものでちゃんと作っておいたから」

 そしてケイに促されるまま食卓に腰をかけた。ふわふわ昇る湯気と料理の香ばしい匂いに、条件反射でピグルの腹が鳴る。彼は、そんな自分の腹の音に対してに頭をかきながら、ケイに言った。

「あ、そうそう~。ケイおばさ~ん。商店街でサンの仲間たちにあったんだよ~。みんなすっごくいい人たちだった~。そして、いただきま~す」

 そして言葉が終わるや否や、すぐに目の前の料理にかぶりつくピグル。ケイは、そんな彼に苦笑いを浮かべながらも言葉を返す。

「そうかいそうかい。私も会ったよ。サンの仲間にぴったりな子たちだね。一目見てすぐに、いい子たちだってのがわかったよ」

 ――まあ、たくさん苦労してきた子たちってのもよくわかったけどね。

 ケイは内心でそう呟く。サンがナヅマを倒し、シェドたちと合流した頃、彼はケイにも自分の仲間のことを紹介した。その時彼女は彼らを見てすぐに理解した。彼らがその人生においてどれほど色々なことを経験して今に至るかということを。

 そしてとくに彼女が驚いたのはシェドだった。まさに光なき闇を思わせるような彼の空気は、今まで色々な人生経験を積んできた彼女にさえ、見た事もないものだった。ただ、それでもケイは彼の中に、確固たる正しい信念が備わっていることを理解した。

ケイがそんなことを考えているうちに、アラシもまた食事を始めながら彼女の言葉に対し反応する。

「そうか、あいつらもここにきたんだもんな。それなら、シェドたちはどこに行ったんだ? 見た感じフォレスにはいないらしいけど」
 「ああ、あの子たちはね」

  ケイは、月の光が指す窓を眺めて呟く。

「ファルと一緒に出かけたよ。なんだか、ファルが、あの子たちに話したいことがあるんだってさ」
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