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夜の闇は日々を侵す
ちゃんとさ、全部背負ってな、生きていくって決めたんだよ
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「よし、ここら辺でいいな」
イエナは先程スアロとクラウが戦闘していた林の辺りに立つと足を止めた。そして追ってきたナヅマの方を向く。
「さて着いたぜ。ここなら、サン達とも離れてねぇから特に文句はないだろ。まあ、お前が俺を倒してあいつらのところにいけるかはわかんねぇけどな」
「相変わらずムカつく奴だなァ! おい! どうやらツバメ達との戦いを見てなかったようだがなァ。ただの獣と俺じゃあ、天と地ほどの差があるってこと教えてやるよォ!」
その言葉を発した後、すぐにナヅマは地面を蹴り、一気に間合いを詰めた。そして彼は巨大な金棒を思い切り、イエナの頭へ振り下ろそうとする。
「陽天流二照型、洛陽!」
イエナはその打撃を斜めから斬り下ろし、その後瞬時にマチェットを切り上げて、ナヅマの腹を狙おうとした。ナヅマはその斬撃をかわすため一気に後退し、イエナから距離を取る。
「……なるほどなァ。おまえも使える訳だ。その妙な剣術を」
「まあな、カタナとやらを使ってる訳じゃないから本家とは少し違うが、馬鹿みたいなお人好しに教わったんだよ」
「いいぜ! 好きなだけ足掻けよ! 直におまえの力にも限界が来るだろうからなァ!」
――ガァン! ガァン! ガァン!
力一杯金棒をイエナに向けて振り回すナヅマ。しかしイエナは、その凄まじい力を、陽天流の旭日と洛陽で受け流す。
ちなみにイエナはスアロやファルとは異なり、鳥類の凄まじい視力を持っていない。だからこそ、本来ならば二照型と四照型は彼らほどの力を出せないはずである。しかしイエナは、その卓越した野生の勘と、数多くの死線をくぐり抜けてきた戦闘経験でそれを補っていた。
『イエナは吸収力がすごいなぁ。俺が教えられることはほとんどないよ。きっとフォンにしごかれた結果だろうな』
戦いの中イエナは、ふとファルが自分にかけた言葉を思い出す。だが、自分は彼の言うようにフォンにしごかれたことなどない。あの人はほとんど自分達に戦わせようとはしなかった。だから必死で背中を見て戦い方を学んだのだ。あの人の隣で共に武器を振れるように。
「ちょこまかしやがって、とっとと死ねやァ!!」
中々有効打が入らない戦況に苛立ち、ナヅマは再び真っ直ぐにイエナに対して金棒を振り下ろす。イエナはそれを右方向に飛び上がるようにかわし、体を旋回させ、マチェットを構えた。
「陽天流三照型、日輪!」
――グシャァァァ!
「ぐっ」
そしてイエナの刃がナヅマの脇腹を切り裂いた。しかし、咄嗟にナヅマが身を引いたのもあり傷は浅い。
ナヅマは、イエナから距離を取ると、自身の出血部位に手を当て、じっと片手に付着した黒い血を眺める。
「なるほどな」
そして彼は、どこか冷静さを取り戻したように、言葉をこぼす。
「どうやら、お前も多少はできるようだなァ」
「何だ? もう怒るのはやめたのか?」
「頭を切り替えたんだよ。怒りのままに戦ってもいいが、それだとおそらくもっと時間がかかる。それなら頭冷やして今すぐにでも俺の本気でお前を叩き潰し、とっとと決着をつけようってなァ! いくぜ。発雷魔法、ファストラ!!」
するとナヅマの体に陣のようなものが発現し彼にビリビリとした電気のようなものが流れた。何が起きたのだろうか。イエナは、どんな動きにも対応することができるように、じっと武器を構え。相手の動きに目を凝らすイエナ。ナヅマは、そんなイエナを鼻で笑う。
「ふん、どうやらお前はまだ俺がお前と同じ次元にいると思っているようだなァ。なら、ちゃんと目で追ってみろよォ!」
その瞬間、イエナの目の前からナヅマの姿が消えた。そしてそれを認知する頃には既に腹に鋭い痛みが襲ってきていた。
――ズッガァァァァァン!
「がはァ!」
ナヅマの金棒が勢いよく衝突し、イエナは後方へと吹き飛ばされる。そして彼はまだ消し飛ばされていなかった木に衝突した。
「オイオイ、随分飛んでいったじゃねぇかァ! ちゃんと食いもん食ってるかァ!?」
「……うるっせぇなぁ。うめぇ料理食ってるよ」
体中がキリキリと痛む。おそらく骨も何本かいかれた。しかし、それでもイエナは足を踏ん張りその場から立ち上がる。そんなイエナを見て、ナヅマはどこか楽しそうな笑みを浮かべる。
「一撃で仕留めるはずだったがなァ、よく立ち上がるじゃねぇかァ! にしても、随分必死なんだなァ、かつての標的を守るためによォ!」
「…………!?」
イエナはナヅマの声を聞き、彼のことを睨みつけた。
「おい、何でテメェが、それを知ってるんだ?」
先ほどの冷静さとは打って変わって、ようやく感情を表に出すイエナ。そんな様子にナヅマはニヤリと口角を上げながら言葉を返す。
「ようやく思い出したんだよ。お前らハデスが俺たちの前にスカイルを襲うことを依頼されたパーツ商人だろ。あのグリフォンの獣人、フォンの手下にお前みたいなハイエナがいたと思ってなァ。しかし間抜けな話だ。任務に失敗するだけじゃなく、標的に絆されちまうとはなァ!」
そうしてナヅマはまた目にも止まらぬ速さでイエナに突っ込んでいった。イエナは、目に頼らず野生の勘でナヅマの攻撃をどうにか防ぐ。しかしジワジワと押されていくイエナ。そんな様子を感じながらナヅマは捲し立てるように言葉を紡ぐ。
「何を勘違いしてるか知らねぇが! どんなに平和に身を置こうとも、お前らがやったことは消えてはなくならねェ!」
「………………」
――ガン、ガン、ガン!!
ナヅマの声に対し、言葉を発してこないイエナ。そんな彼の反応を受けながらも、ナヅマは続ける。
「だんまりかよ!! ちゃんと見ようぜ現実をよォ! あいつら2人救ったところで貴様らの罪は残り続ける! そして、誰かを傷つけてる人間は一生そのまま何かを傷つけ続けるんだァ! それなのにお前はァ! 一体何のために戦ってんだァ? まさか、こいつらと家族ごっこでも続けていれば、お前も真っ当な人間になれると思ったのかァ!?」
――グシャァァァ!
「…………!?」
その時イエナ、ではなくナヅマが、自分の腕が傷つけられたことに気づいた。おかしい。ナヅマは驚く。さっきまでイエナは自分の速さについてこられなかったはず。それなのに今は自分がダメージを受けている。こいつ、戦いの中で確かに一段階強くなった。
ナヅマは思わず素早く後退し、一度イエナの状況を伺う。確かにマチェットに黒い血を滴らせるイエナ。彼はじっとナヅマの方を見て語る。
「わかってるさそんなこと。いてぇぐらいによおく分かってるんだ。それでもよ」
イエナはボロボロになりながらも真っ直ぐにそのマチェットをナヅマに向ける。そして彼は言葉をぶつけた。
「ちゃんとさ、全部背負ってな、生きていくって、決めたんだよ」
イエナは先程スアロとクラウが戦闘していた林の辺りに立つと足を止めた。そして追ってきたナヅマの方を向く。
「さて着いたぜ。ここなら、サン達とも離れてねぇから特に文句はないだろ。まあ、お前が俺を倒してあいつらのところにいけるかはわかんねぇけどな」
「相変わらずムカつく奴だなァ! おい! どうやらツバメ達との戦いを見てなかったようだがなァ。ただの獣と俺じゃあ、天と地ほどの差があるってこと教えてやるよォ!」
その言葉を発した後、すぐにナヅマは地面を蹴り、一気に間合いを詰めた。そして彼は巨大な金棒を思い切り、イエナの頭へ振り下ろそうとする。
「陽天流二照型、洛陽!」
イエナはその打撃を斜めから斬り下ろし、その後瞬時にマチェットを切り上げて、ナヅマの腹を狙おうとした。ナヅマはその斬撃をかわすため一気に後退し、イエナから距離を取る。
「……なるほどなァ。おまえも使える訳だ。その妙な剣術を」
「まあな、カタナとやらを使ってる訳じゃないから本家とは少し違うが、馬鹿みたいなお人好しに教わったんだよ」
「いいぜ! 好きなだけ足掻けよ! 直におまえの力にも限界が来るだろうからなァ!」
――ガァン! ガァン! ガァン!
力一杯金棒をイエナに向けて振り回すナヅマ。しかしイエナは、その凄まじい力を、陽天流の旭日と洛陽で受け流す。
ちなみにイエナはスアロやファルとは異なり、鳥類の凄まじい視力を持っていない。だからこそ、本来ならば二照型と四照型は彼らほどの力を出せないはずである。しかしイエナは、その卓越した野生の勘と、数多くの死線をくぐり抜けてきた戦闘経験でそれを補っていた。
『イエナは吸収力がすごいなぁ。俺が教えられることはほとんどないよ。きっとフォンにしごかれた結果だろうな』
戦いの中イエナは、ふとファルが自分にかけた言葉を思い出す。だが、自分は彼の言うようにフォンにしごかれたことなどない。あの人はほとんど自分達に戦わせようとはしなかった。だから必死で背中を見て戦い方を学んだのだ。あの人の隣で共に武器を振れるように。
「ちょこまかしやがって、とっとと死ねやァ!!」
中々有効打が入らない戦況に苛立ち、ナヅマは再び真っ直ぐにイエナに対して金棒を振り下ろす。イエナはそれを右方向に飛び上がるようにかわし、体を旋回させ、マチェットを構えた。
「陽天流三照型、日輪!」
――グシャァァァ!
「ぐっ」
そしてイエナの刃がナヅマの脇腹を切り裂いた。しかし、咄嗟にナヅマが身を引いたのもあり傷は浅い。
ナヅマは、イエナから距離を取ると、自身の出血部位に手を当て、じっと片手に付着した黒い血を眺める。
「なるほどな」
そして彼は、どこか冷静さを取り戻したように、言葉をこぼす。
「どうやら、お前も多少はできるようだなァ」
「何だ? もう怒るのはやめたのか?」
「頭を切り替えたんだよ。怒りのままに戦ってもいいが、それだとおそらくもっと時間がかかる。それなら頭冷やして今すぐにでも俺の本気でお前を叩き潰し、とっとと決着をつけようってなァ! いくぜ。発雷魔法、ファストラ!!」
するとナヅマの体に陣のようなものが発現し彼にビリビリとした電気のようなものが流れた。何が起きたのだろうか。イエナは、どんな動きにも対応することができるように、じっと武器を構え。相手の動きに目を凝らすイエナ。ナヅマは、そんなイエナを鼻で笑う。
「ふん、どうやらお前はまだ俺がお前と同じ次元にいると思っているようだなァ。なら、ちゃんと目で追ってみろよォ!」
その瞬間、イエナの目の前からナヅマの姿が消えた。そしてそれを認知する頃には既に腹に鋭い痛みが襲ってきていた。
――ズッガァァァァァン!
「がはァ!」
ナヅマの金棒が勢いよく衝突し、イエナは後方へと吹き飛ばされる。そして彼はまだ消し飛ばされていなかった木に衝突した。
「オイオイ、随分飛んでいったじゃねぇかァ! ちゃんと食いもん食ってるかァ!?」
「……うるっせぇなぁ。うめぇ料理食ってるよ」
体中がキリキリと痛む。おそらく骨も何本かいかれた。しかし、それでもイエナは足を踏ん張りその場から立ち上がる。そんなイエナを見て、ナヅマはどこか楽しそうな笑みを浮かべる。
「一撃で仕留めるはずだったがなァ、よく立ち上がるじゃねぇかァ! にしても、随分必死なんだなァ、かつての標的を守るためによォ!」
「…………!?」
イエナはナヅマの声を聞き、彼のことを睨みつけた。
「おい、何でテメェが、それを知ってるんだ?」
先ほどの冷静さとは打って変わって、ようやく感情を表に出すイエナ。そんな様子にナヅマはニヤリと口角を上げながら言葉を返す。
「ようやく思い出したんだよ。お前らハデスが俺たちの前にスカイルを襲うことを依頼されたパーツ商人だろ。あのグリフォンの獣人、フォンの手下にお前みたいなハイエナがいたと思ってなァ。しかし間抜けな話だ。任務に失敗するだけじゃなく、標的に絆されちまうとはなァ!」
そうしてナヅマはまた目にも止まらぬ速さでイエナに突っ込んでいった。イエナは、目に頼らず野生の勘でナヅマの攻撃をどうにか防ぐ。しかしジワジワと押されていくイエナ。そんな様子を感じながらナヅマは捲し立てるように言葉を紡ぐ。
「何を勘違いしてるか知らねぇが! どんなに平和に身を置こうとも、お前らがやったことは消えてはなくならねェ!」
「………………」
――ガン、ガン、ガン!!
ナヅマの声に対し、言葉を発してこないイエナ。そんな彼の反応を受けながらも、ナヅマは続ける。
「だんまりかよ!! ちゃんと見ようぜ現実をよォ! あいつら2人救ったところで貴様らの罪は残り続ける! そして、誰かを傷つけてる人間は一生そのまま何かを傷つけ続けるんだァ! それなのにお前はァ! 一体何のために戦ってんだァ? まさか、こいつらと家族ごっこでも続けていれば、お前も真っ当な人間になれると思ったのかァ!?」
――グシャァァァ!
「…………!?」
その時イエナ、ではなくナヅマが、自分の腕が傷つけられたことに気づいた。おかしい。ナヅマは驚く。さっきまでイエナは自分の速さについてこられなかったはず。それなのに今は自分がダメージを受けている。こいつ、戦いの中で確かに一段階強くなった。
ナヅマは思わず素早く後退し、一度イエナの状況を伺う。確かにマチェットに黒い血を滴らせるイエナ。彼はじっとナヅマの方を見て語る。
「わかってるさそんなこと。いてぇぐらいによおく分かってるんだ。それでもよ」
イエナはボロボロになりながらも真っ直ぐにそのマチェットをナヅマに向ける。そして彼は言葉をぶつけた。
「ちゃんとさ、全部背負ってな、生きていくって、決めたんだよ」
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