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夜の闇は日々を侵す

生憎だけどな

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――現在――

「なんだぁ、おめえはよ?」

 ナヅマは目の前のハイエナを見つめてそう言葉をこぼした。ハビボルでの報告書にはこんな奴はいなかったはず。というと。こいつもまた、スカイルの住人ということだろうか。

「……イエ……ナ」

 サンは倒れながらも、細い声でそう言葉をこぼした。倒れているサンとファルに、連れ去られたスアロとクラウ。イエナは周りを見渡し、この惨状に対して言葉を絞り出す。

「悪かったな。サン。ずっと見てたんだ。こいつらを複数人相手するのは流石に無理だろうと思ったからな」
「……きに‥‥しなくていいよ。……ありがとう……来てくれて」
「オイオイオイ! それは聞き捨てならねぇじゃねぇか!! つまりお前は、俺1人なら相手できると思ってんのかァ!?」

 ナヅマは苛立ちを露わにしながら、その片手に持った巨大な金棒で殴りかかった。イエナはそれをなんとか受け止め、また大きく後退した。

 そしてイエナは、倒れているサンとファルを眺め、サンに言葉を発する。

「おいサン。お前には回復能力があったな? 今どのくらい回復した?」
「あ、えっと、今は、ぎりぎり立てるかなぐらい。全部回復するまで、結構かかる」
「わかった。なら俺はこいつを連れて、一旦ここを離れる。その間にお前は、ファルか自分を回復させて加勢にこい。わかったな」
「そんな、でもイエナはどうするんだよ?」

「お前が回復するまでの時間なんて余裕で稼げるさ。だから早く戻ってこい。絶対にファルもお前も死ぬんじゃねぇぞ」
「……うん、わかった」
「オイオイオイ! 黙って聞いてりゃ何言ってんだァ、お前はァ!?」

 イエナの言葉を受けてナヅマが怒号を響かせた。そのあまりの声量にイエナは顔を顰める。

「そう大声を出すなよ。聞こえてる。余裕のない男はモテないってどっかのおばさんが言ってたぞ」
「ウルセェんだよ! そもそも何で俺が、テメェについて行かなきゃなんねぇんだァ!? テメェなんかに付き合わなくても俺はこいつらを殺せるんだよォ!!」
「ほお、逃げるのか?」
「アァ!?」

 イエナはナヅマの神経を逆撫でするかのように挑発的な視線を彼に向ける。

「要するに無理だと思ってるんだろ? お前はサン達の回復が終わるまでに俺を倒す自信がない訳だ。まあそうだろうな。あのラキュラがボスだとしても、お前の実力は3番目ぐらいか? そりゃあその程度なら獣人1人倒すのも一苦労だろうな」
「テンメェェェ! 殺す! その頭叩き潰して、2度とそんな生意気な口聞けなくしてやるよォ!! どこだ! どこでやるんだ!」

 イエナは、冷めた目でナヅマを見つめてからサンに視線を向ける。

「まあそういうことで、向こうも俺をご指名のようだ。精々お前は自分の回復に勤しむんだな」
「ありがと、イエナ。でも、死ぬなよ」
「誰に言ってんだよ。生憎だけどな。俺は弱い奴を痛ぶるのも好きだが、強いやつとの命のやりとりも大好きだ」
「……そっか。うん、それなら安心だ」
「オイ、テメェ、何をべらべらと話してやがるんだァ!?」

 ナヅマは再びイエナとサンに向かって怒号を立てる。イエナはそんな声に眉を顰めながらも、彼の言葉に答えを返す。

「悪かったよ。じゃあさっきお前が消し尽くした林でやろうぜ。ほら、行こうか」
「テメェ、待ちやがれ!」

 そうしてイエナは立ち去り、ナヅマは彼の後を追いかけていった。

 サンは自身をめぐる炎の熱を感じながらも、自身の状態を再確認する。

 ――よし、そろそろ動けるな。

 そしてサンは体を引きずるようにすると、そのままファルのところへとやってきた。それにしてもひどい傷である、きっと自分が来る前にあのヒノクとラキュラ相手に凌ぎを削って戦っていたのだろう。自分がもう少し早くきていればこんな事態は防げたかもしれないのに。

「………っつ」

 しかしもう、過ぎたことは悔やんでも仕方ないことである。サンは拳を握りしめながらも、ファルの元へ向かって、手に炎を灯した。

 大丈夫だ。カナハほど処置が遅れた訳じゃない。まだ間に合う。

 そしてサンは自身の炎に、全ての回復の力を注ぎ込み、ファルに当てた。そしてその炎はじわじわとファルの体を癒していくのだった。
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