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蹄鉄は今踏みしめられる

何言ってるんだよ。ユニも行こうよ

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「え、あの魔物の正体は、ディー君だったんですか?」

 戦いから帰り、ボロボロの体で再び熊鍋を口にする5人。ユニはそんな中で、自身の皿へと取り分けようとする箸を止め、サンに尋ねた。

「ああ、そうだった。正直驚いたよ」
「そんな、そんなこと、ディアルおばさんになんて言えば……」
「全部は伝えられないだろうなぁ。でも魔物はいなくはなったんだ。明日都市部に言って俺から伝えられることを伝えるよ。ディー君のことも、俺が一番わかるし」
「そう……ですか」

 ユニは、サンに対して小さくそう呟く。そうか、自分だけでなくサンもそんな辛い思いをして戦っていたのか。知らなかった。

「お前は、いつから気づいてたんだ?」

 すると二人の会話に、シェドが入ってくる。もうすでに傷は癒えたのか、サンやユニが食欲を失っている分、多量の具材を自身に取り分けていた。

「いつからって、どういうこと?」
「そのままの意味だよ。お前は戦う前に、魔物の正体に気づいていた様子だった。だからいつサンがそれを突き止めたのか気になった」
「ああ」

 サンは、シェドの言葉に納得しながらも、野菜をとって自身の口に運ぶ。そして、それを飲み込んだ後、シェドの質問に答える。

「なんだろ。いつだっけなぁ。でもラビに怒られるかもしれないけどさ、修行中も、あの魔物のことは考えてたんだ。何か伝えたそうだけど、何なんだろうって。それで、気付かぬうちになんとなくだけど、あの魔物の言葉がわかった。それで、ディー君だってわかったんだ」
「は、お前らしいな。ああ、修行といや、もうラビに獣力の扱いは教わったわけだが、次はどうするんだ? 行き先は決まってるのか?」
「あ、たしかに、どうしようかな」
「お前らの行き先は、もう決まってる」
 
 すると今度はラビがシェドとサンの会話に入り、唐突にそう言った。自分達の行き先が、もう決まってる? サンは、その言葉に疑問を持ち、ラビに尋ねる。

「俺たちの行き先が決まってる? どこにだよ、ラビさん」
「お前たちが次行くところは、スカイルだ」
「スカイル!?」

  予想外の答えに裏返った声で、サンはそう反応する。その後にネクが、相も変わらず自身のグラスに酒を並々と注ぎながら、呟く。

「……スカイルって確かサンの故郷だよね?」
「んーまあ、生まれたところかはわかんないけど、育ったところではあるよ。でも、なんでまた?」

 サンの問いに対し、ラビは皿一杯に盛り付けた野菜を食べながら淡々と答える。

「なんとなく分からないか? 今回俺たちが遭遇した改造獣人、そいつらが次標的にするのは、スカイルだ」
「え?」
「カニバルやレプタリアは、このハビボルを抜けなければ辿り着かないだろうが、スカイルは別だ。あそこは空にあるから敵がなんらかの手段を持っていれば簡単に入れる。そして、あの改造獣人たちのことだ。いくらでも飛行可能な獣人なんて生み出せるんだよ」

 ――たどりつかない、ね。

 シェドは一人だけ、その発言に違和感を覚えた。だが、他の3人はそれに気づいていない。自身の故郷にピンチが、迫っていると聞き、サンは焦ったように言葉を紡ぐ。

「マジか! じゃあ早く行かないと! あーでも、まだみんな戦いの傷が癒えてないし、準備もしなきゃだもんな。シェド、ネク、なるべく早くここを出よう」

 ここで急いでも何も変わらないにも関わらず、サンはいそいそと鍋の具材を自分の口に運ぶ。

 ――いいなぁ。

 そんな様子を、ユニは眺める。きっと彼らはこれから先も色々な出会いをするのだろう。そして色々な戦いを乗り越えて、強くなっていくのだ。素晴らしい仲間と共に。

「気をつけて行ってくださいね」

 ユニは、笑顔を繕いながらも、サンたちに向かってそう声をかけた。

「え?」

 するとサンは、唖然としたような表情を浮かべながらユニに言う。

「何言ってるんだよ。ユニも行こうよ」
「へ?」
「だって、もう、俺たち仲間じゃないか。てっきり俺は、ユニもこの先一緒に行ってくれるものだって思ってたよ。それとも嫌なのか?」

 サンの言葉を聞き、シェドとネクは、サンに呆れるように笑顔を浮かべる。彼らもなんとなくそんな気はしていたが、やっぱりサンは、ユニを仲間に入れたいと思っていたようだ。

 しかし、それを想像したユニは、戸惑いながらも、言葉を紡ぐ。彼が取り分けた鍋の具材はすっかり冷めてしまっていた。

「え、でも、そんな、願ってもない話ですけど、いいんですかね? ラビさん」

 ラビもまた、サンの言葉に苦笑しながらも、ユニに返答する。

「まあいいも何も、こっちからお願いしたかったところだ。俺もペガさんも、旅をする中で蹄鉄拳を極めてきた。だからこそ、お前も色々な世界を見てくるべきだよ。そうじゃないとお前の蹄鉄拳は、きっと完成しないから」
「ほんとですか! ありがとうございます! じゃあ行きましょう、サン、ネク、シェド! みんなと一緒に旅ができるなんて、すっごく楽しみです」
「ああ、よろしく!」

  サンはユニの言葉に笑顔でそう返した。そしてシェドとネクも、ユニに反応を返した後、ラビが言葉を挟む。

「まあ、サンとシェドは、スカイルに行くにしても一週間はここで休んでもらうからな。その間にユニは、ハビボルで世話になった人たちに挨拶してこい。今度いつ帰ってくるかは、分からないからな」
「はい!」

 こうして、サン達一行に、新たな仲間、ユニが加わることになった。また、次なる行き先も決まり、サン、シェド、ネク、ユニの4人は、それぞれ旅の準備を始めていくのだった。
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