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蹄鉄は今踏みしめられる

貴様如きの下等生物が

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「ただいま!」
「ただいま帰りました!」

 サンとユニが口をそろえて扉を開け、家へと戻ってくる。そこにはすでにラビがいて、シェドとネクもまた、すでに家と帰ってきていた。

「おー遅かったな。おかえり」
「……おかえり、ユニ。サン」
「あ、シェド! ネク! もう帰ってきてたんですね! 2人は何をしていたんですか?」

 ユニは、2人を見て、そう尋ねると、シェドは、先に風呂でも入っていたのか、頭をタオルで拭きながら、その質問に答える。

「別に、 俺らも2人で鎖烈の特訓してただけだよ。大したことしてないぞ」
「あ、そうなのか、お疲れ。シェド、ネク」
「……ありがと、サン。サンもお疲れ様」

 もちろんシェドとネクは修行などしていない。2人は、先述の通り、昨日出会った、3人の男の調査を行っていた。しかし、今日1日でそれほど成果を上げることができなかったため、サンとユニには情報を伏せることにしたのだ。

 ちなみにラビには、決して無茶はしないという条件で、彼らの調査をする許可をもらってはいた。だからこそラビは、彼らが何をしているのかは知っている。

「ああ、帰ったのか、ユニ、サン。とっとと手でも洗ってこいよ。もう料理はできてるぞ」
「わかったよ、ラビさん。行ってくる」
「ああ、サン。お前は、飯にする前に後で台所に来い。お前の分は取り分けてくるから、それを自分の炎で調理しろよ」
「ええー」

 こうして、またサンたち4人とラビは、5人で食卓を囲んで晩御飯を食べた。サンはまた自らの炎で焦がしてしまった食事を食べていた。流石に彼を可哀想に思いネクが自身の分を与えようかと思ったが、サン自身がそれを断った。全く呆れるほど真面目な性格である。

 そしてご飯を食べ終わり風呂に入るとすぐに、ユニとサンは眠ってしまった。それほど真剣に修行に取り組んだのだろう。

 そんな彼らの寝顔に見守られながら、シェドとラビとネクは、机を囲みあった。そしてラビは、ネクとシェドに対し、アスパラガスを口に咥えながら話しかける。

「それで? お前らの調査で何か成果はあったのか?」
「……ううん。今のところはない。でも街に降りた時、ここで魔物を見たっていう場所をいくつか聞くことができたから、明日からシェドとそこをまわってみる。ちょっと多すぎて回り切れるかわからないけど」

 ネクの言葉に対し、ラビは一度アスパラガスを指に挟み、深くため息をつきながら、言葉を返す。

「はぁ、本当にお前らは危ないこと考えるよ。街で見かけた時、何してるんだと思ったが、まさかそんなことをしてるとはな。まあヴォルファさんに育てられたならじっとしてられるわけもないか」

 ラビは、再びアスパラを口に咥え直し続ける。

「その情報、俺にも教えろよ。二手に分かれて回った方が早い。お前らは北の方に行け。いいか、絶対に無理はするなよ。そしてシェドは、ちゃんとネクを守ってやれよ」
「言われなくてもそうするよ。俺らの心配をするぐらいなら、自分の心配でもしたらどうだ?」
「口の減らないガキだなぁお前は。まあ止めても辞めないだろうから、明日からはそれでいこう。まあ正直、相手の情報が何もない中であいつらを戦わせたくはなかったんだ。だから、頼りにしてるぞ」
「……うん、任せて」


 ハビボルに聳え立つ、ホルノ山の山奥、真っ黒なローブを羽織った男が、巨大な大烏に乗ってやってきた。

 男はとある洞穴の入り口まで大鴉を操作し、そこに降り立つと、低く声を響かせて言葉を発した。

「邪魔するぞ」

 そんな男の声に反応し、二本角の男がゆっくりと穴の奥から歩いてきた。そして、目の前の来客に対し、あからさまに嫌そうな顔をする。

「うわぁ、誰かと思ったらお前かよ。何の用だよ。こんな夜中に」
「カァァァァァ」

 まるで主人への無礼を咎めるように、大鴉が二本角の男に対しけたたましく鳴き声を上げる。二本角は、不快そうに耳を塞ぐ。

「相変わらずデケェカラスだなぁ。『幻獣界』のカラスかよ」
「ああ、そうだ。主人が飼っている獣のうちの一匹だ。あまり刺激するなよ。暴れると俺よりめんどくさいからな」
「別に俺からは何もしてないだろうが。それで、さっきの質問に答えろよ」

 ローブの男は、しばらく考えるそぶりをした後、言葉を返す。

「ああ、何のようで来たのか、だったな。貴様らに伝言だよ。『ハデス様』からな」
「おいおいまたかよ。ケル。言っておくけど、俺らの主人は『あの人』なんだ。なのになんでいつもいつもそいつの言うことばかり――」

 ――ガン!!

 二本角の男の顔面の横を鎖が突き抜け、その鎖は彼の背後の岩壁を穿つ。そして、そのケルと呼ばれた男は、目を真っ赤に充血させて、こめかみに血管を浮かび上がらせながら叫ぶ。

「そいつ? そいつだと!! おい、レンシ! 貴様如きの下等生物があのお方をそいつなどとお呼びするな!! 本来ならば、貴様なんぞの身分では言葉を交わすことも叶わないようなお方だぞ」

 あまりの鎖の速度に冷や汗を流す二本角の男、レンシ。レンシはそのまま敵意を漲らせた目でケルのことを睨みつけた後、短く息を吐き、彼に問いかける。

「ちっ、悪かったよ。訂正する。それで『ハデス様』は何と言っていたんだ?」
「分かればいい。ハデス様はこう言っていた。ターゲットAが既にこの国に来ていると。対応はそちらに任せるが、まあ報告だけはしておけとのことだ」
「はあ、Aが来てるのか。なるほど」

 レンシは、ケルの発言に対し、それほどリアクションを示すことなく、そう言葉をこぼした。そんなレンシの様子に、ケルはカツカツと靴で岩を叩きながら言う。

「お前、事の重大性を理解できてるか? いや、それよりも、ちゃんと依頼内容は覚えているんだろうな」
「覚えてるよ。うるせぇなぁ。俺たちがやるべきことはターゲットAの殺害とターゲットBの捕獲だ。ちゃんと弁えてるさ」
「ならいいんだがな。いいか、お前らにやった報酬は決して安くはないんだ。しっかりそれに見合った活躍をお願いしようか」
「はいはいわかりましたよ」

 面倒な話を終わらせるため、もうこれ以上彼に取り合わずいそいそと洞窟に戻ろうとするレンシ。しかし、ふいにレンシの頭に昨日の記憶がよぎり、レンシは、ケルに尋ねる。

「……待てよ、おいケル、確かターゲットAは炎を使うって言ってたよな? 俺多分そいつにあったぞ」
「何だと? それは確かか?」
「ああ、多分だけどな。あの神みたいな見た目をした小僧だろ? まああいつから感じたのは獣力だから神ではないんだろうが。そいつで間違い無いんだよな?」

 予想もしない情報を聞き、ケルは捲し立てるようにレンシに向かって問いかける。

「本当か! どんな奴だった?」
「ああ、なんか変な奴だが、そんなに警戒するほど強くもなかったぞ? ああ、そうだ。6日後のハビボル国侵攻のことを聞いていたかもだから、もしかしたら止めにくるかもな。変に正義感の強そうな奴だった」
「ほお、なるほど」

 ケルは顎に手を当て何か考えるような素振りをする。そしてしばらくそうした後、彼はレンシに対し不意に口を開いた。

「そのハビボル侵攻、俺も参加しよう」

 レンシはその言葉に対し、目を見開いた後、明らかに嫌そうな顔を浮かべて続ける。

「はぁ? 嫌だよ。大体、何でお前がそんなことする必要がある?」
「別に構わないだろ? ハデス様の目的のために、ターゲットのことを把握しておきたいだけだ。断れば、どうなるかわかってるな?」

 ケルは手に持った鎖をちらつかせじっとレンシの方を見る。レンシはそんな彼に対してため息をつく。なんだよ、せっかく自由になったのに、従わされる生き方はかわんねぇのか。

「わかったよ。勝手にしろ。こっちはお前が居ようが居まいがいつも通りやらせてもらうからな。変にこっちのやり方に口出すなよ」

 そうして、レンシは洞窟の奥に戻っていった。目の前には、獣人の様々な部位がいくつも転がっている。

 ――もう少しだ。

 レンシは心の中で呟く。

 ――もう少しで、俺たちはようやく、この世界に復讐できる。

 力強く拳を握りしめる。そしてレンシはそのまま天を仰ぐようにして言葉を呟く。

「あと少し、あと少しで、あなたの野望を達成できます。ラキュラ様」
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