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蹄鉄は今踏みしめられる
努力のコツ?
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朝日が登り、窓に眩い光が差し込む。サンは、ゆっくりと起き上がり部屋にかかっている時計を眺めた。
時刻は6時半、確か今日は、8時に家の近くの河原に来るようにラビに言われていたか。サンは、朝食として昨日の鍋の残りを取り分け、それを食べようとする。
「よう、サン。随分と早起きだな」
するとサンの後ろから、ラビの声がかかった。
「ラビさんも早いじゃないか。じゃあ早く修行始めようよ」
「まあそう急ぐなよ。サン。まあそんなにいうなら、ここで始めてもいいんだけどな」
「ここで? 台所なんかで何ができるっていうんだよ?」
サンは訝しげな表情をラビに向ける。ラビは、そんなサンに対し答えを発する。
「できるさ。そこに小さな鍋あるだろ。今からお前は、そこに自分の分だけ取り分けて、自分の炎で料理の温度を調節しろ。そしてから食え」
「え!? 俺、炎の微調整なんかできないよ」
「だからやるんだろ。昨日お前は獣出の概念を理解したが、あくまでもお前の戦闘の強みは再生能力だ。でも、昨日みたく馬鹿正直に出と発を綺麗に切り替えてたら、再生能力と身体能力の強化が両立しない。まあそのための発の力の調整の修行だな」
ラビは、ふらふらと立ち回りながら、冷蔵庫の扉を開ける。そしてそこから大根の野菜スティックを取り出して、再び玄関に向かおうとする。
「まあそういうことだからゆっくり朝食を取ってから戻ってこい。俺は先に河原で待ってる」
そうして、ラビは、スタスタと外へ繰り出していった。サンは、言われた通り自分の分だけ小鍋に取り分けて、それをかまどの上に置く。そしてその下に、そっと手をかざしながら呟く。
「発の力の調整って言ったってなぁ。うまくできるかな」
サンは自身の掌に炎を灯そうとして、グッと力を入れる。すると、変に力みすぎてしまったのか、サンの炎は、勢いを増し、鍋の周りを包む。サンは、その炎に驚き、慌てて自身の掌から炎を消し、鍋の蓋を開けた。
「うわ、焦げてる」
サンは、水分が消し飛び、黒ずんだ野菜を見つめる。これは食べられるのだろうかと思った矢先、サンの頭にグラシスで出会ったディアルの顔が浮かんだ。サンは一つため息を吐き、意を決して、その野菜を箸で口に運ぶ。
「うわぁ、苦いな」
「おお、サン。どうだった? 美味い飯は食えたか?」
河原に到着したサンにそう声をかけるラビ。サンは文字通り苦い顔をして、彼に向かって、言葉をこぼす。
「食えなかった。結構長いこと色々な修行してきたけど、俺あの修行が一番嫌いだ」
「そうか。まあ頑張れよ。今後は、お前の食事は全て自分の炎で調節してから食ってもらうからな」
「えー俺から食の楽しみ奪わないでくれよ」
「何言ってんだ。実生活に即しているからこそ本気になるんだろ。じゃあ、それとここでやってもらうことを伝えるぞ」
ラビは、そういうと何かものを探し出した。そんな彼の背中にサンは質問を投げかける。
「あれ? ユニとシェドはいないんだな。一緒にやるかと思ってた」
「色々考えてみたがやっぱりシェドに俺が教えることは何もねぇよ。獣力操作だけならあいつと俺の力は変わらない。そしてユニは別メニューだ。なんてったってこれからお前がやる修行は、既にユニが終えている修行だからな。ああそうか、そこに置いたのか。おいサン、ちょっとこい」
するとラビは、自分の身長よりも遥かに大きい岩の前にサンを連れ出した。うわあ、でっかい岩だな。これをラビは朝早くから準備してくれていたのだろうか。そんなことを考えているサンに対し、ラビは、衝撃の一言を発する。
「さて、サン。お前には1週間で、自らの武器を使ってこの岩を粉砕できるようになってもらう」
「え?」
自身の耳がおかしかったのかと思わず間抜けな声で聞き返すサン。そんな彼に対し、ラビは、言葉を繰り返す。
「聞こえているはずだぞ。お前には1週間でこの岩を割れるようになってもらう。あ、炎をぶつけるのは無しだぞ。しっかりその武器と獣出を使って壊せ」
「いやいや待ってくれよ! こんな岩、この武器で壊すのは無理だって。それにそんなことしたらこの刀壊れちゃうよ」
「大丈夫だ。心配すんな。俺もユニも出来たことだ。お前にもできる。後お前が持っているその刀は、これしきのことじゃ壊れないよ。昔アサヒさんがその刀で戦ってたが、そんなアサヒさんと冒険したことのある俺が言うんだ。間違いないさ」
「…………」
アサヒの名前を出すと、サンはじっと自身のペンダントのことを見つめた。彼はそこで、今までのこの刀を使った戦いを振り返る。すると彼は、意を決したように、ラビに向かって尋ねた。
「……なぁ、ラビさん。あんたは、この刀についての秘密、知ってるのか?」
「……どういうことだよ」
「この刀さ、ペンダントから刀に変わるだけでもおかしいんだ。でもさ、それよりおかしいことがある。これ、折れないんだよ。誰も斬れないんだけどさ、そのかわり、なんかどんな攻撃を受けても折れないんだ! ラビさんはなんか知ってるのか?」
サンの脳裏に再び今までの戦いが流れる。アリゲイト、フォン。この2人は、サンよりもずっと質量のある武器を奮っていた。それにも関わらずこの刀は、そんな彼らの攻撃を受けても、決して、打ち負けることも折れることもなかった。
サンはそれが、不思議でならなかった。そして彼は、それに対して頭の中で一つの仮説を練っていたのだ。彼は続ける。
「昨日のやつさ。魔法とか言って、電気の槍を操ってた。きっとこの世にはさ、獣の力だけじゃ説明できないことがあるんだ。この獣の世界には外側があって、そこではそんな魔法がたくさん使われてる。でもだとしたら、俺たちもその力を学んだ方がいいんじゃないか」
「ふん、面白い考えだな」
ラビは、サンの言葉を遮るようにして、そう言葉をこぼした。サンは、ラビの言葉が挟まれたため、少しだけ静かになる。その静寂の中で、ラビは言葉を続ける。
「確かにお前の予想はあってるよ。その刀にはアサヒの魔法がかけられている。そして俺たち獣も魔法を使うことはできる。だが、今回の修行では、それを教える気はない」
「なんで?」
「ネクから話を聞いた時、俺は敵のレベルを知った。そしてそれを踏まえて、俺はお前なら獣力を扱えるようになれば、勝てると判断した。それに1週間という年月でお前が魔法を習得するのは不可能だ。これがまあ大まかな理由だな」
「…………」
サンはそこでじっとラビの目を見つめる。まるで何かを見出しているような目、そして、サンは、そのままラビに重ねて問いかける。
「本当にその二つだけなのか?」
「……ああ、そうだ」
――鋭いな。
実は、ラビが彼らに魔法を教えない理由は、もう一つある。しかし、ラビはあえてその理由をサンに伏せていた。なぜならきっとその事実を知ったら彼らはなにがなんでも魔法を学ぼうとするからだ。彼らが魔法を学ぶのは、少なくともこの場所とこのタイミングではない。
サンはしばらくラビに訝しげな目を向けていたが、何かを諦めたように、彼はすっとその視線を解いた。何かがあることには勘づいたらしいが、ファルと接しているうちに、何かの真実を隠されることには慣れているのだろう。するとサンは、その視線を解いたまま、ラビに向かってまたも質問を投げた。
「そっか、なあ、ラビさん。もう一つ質問してもいいか?」
「なんだよ?」
「あんたはさ。昨日といい、今日といい、すごく俺の実力を認めてくれてる。それはなんでだ? 俺はまだ、あんたに少ししか自分の強さを見せれていないのに」
「ああ、それか」
ラビは、少し考えるような仕草をした。サンの言う通り、自分は彼のことをとても認めている。ただこの若さでそれを伝えてしまったら、慢心した気持ちが生まれてしまわないだろうか。
そんなことを考えながら、ラビは、じっとサンのことを見つめる。すると彼の姿と昔に見たファルの姿が、ほんの少しだけ、重なったようにみえた。
――いや、それはなさそうだな。
そしてラビは、自分の気持ちを正直に、サンに打ち明けた。
「その理由を話すとだな。お前は、あの手合わせの中で自分の立ち回りを修正した。そして俺はお前の姿を見て、こいつは努力のコツを踏まえていると思ったんだ」
「努力のコツ?」
「ああ、努力ってのはな。一つの行動の中でどれだけ自分の改善点を見つけられるかどうかで質が決まる。この世にはいろんな勝負事があって調子の良し悪しってのがあるけどな。本当は、調子なんてものは存在しないんだ。その瞬間に自分の何かが欠けているだけ。努力が上手いやつはな。そこから自分の改善点を見つけ出せる」
「…………」
サンはいまいちラビが何をいいたいのか分からず沈黙した。そんなサンにラビはなおも続ける。
「つまり努力が上手い奴は、自分のマイナスに余すことなく向き合える奴だ。まあそれは辛く苦しいことで、だからこそ人は努力いらずの才能ってやつに憧れるんだがな。ただ俺はあの手合わせの中でお前は、そういうことから逃げてこなかったんだなと感じた。だから強くなれると思った。あーうまく言葉にできないが、伝わったか?」
ラビは、頭をかいて、サンに問いかける。サンは少しだけそれについて考えるような仕草をした。そしてそれから、彼は、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべて、ラビに言う。
「うん、まあなんとなくわかったよ。とりあえずさ、ラビさんは、俺のことを信じてくれてるんだな」
「まあ、簡単に言えばな」
「わかった。じゃあ俺もさ、ラビさんを信じるよ。あんたの言う通りにする。だからさ、ちゃんと言ってなかったけどさ、改めて、よろしくお願いします」
するとサンは、自身の頭を深く下げて、ラビに向かってそう言った。
なるほど、素直なやつだ。ラビは感心する。フォンを倒したと聞いて少しは天狗になってるかと思ったが、全くそんなところは感じさせない。本当に母親そっくりだな。これは、強くなるだろう。
「ああ、わかったよ。こちらこそ、よろしく。とりあえず、小さな石から始めていけ。最初からあの岩は無理だろうからな。まあ、頑張れよ。サン」
「はい!!」
時刻は6時半、確か今日は、8時に家の近くの河原に来るようにラビに言われていたか。サンは、朝食として昨日の鍋の残りを取り分け、それを食べようとする。
「よう、サン。随分と早起きだな」
するとサンの後ろから、ラビの声がかかった。
「ラビさんも早いじゃないか。じゃあ早く修行始めようよ」
「まあそう急ぐなよ。サン。まあそんなにいうなら、ここで始めてもいいんだけどな」
「ここで? 台所なんかで何ができるっていうんだよ?」
サンは訝しげな表情をラビに向ける。ラビは、そんなサンに対し答えを発する。
「できるさ。そこに小さな鍋あるだろ。今からお前は、そこに自分の分だけ取り分けて、自分の炎で料理の温度を調節しろ。そしてから食え」
「え!? 俺、炎の微調整なんかできないよ」
「だからやるんだろ。昨日お前は獣出の概念を理解したが、あくまでもお前の戦闘の強みは再生能力だ。でも、昨日みたく馬鹿正直に出と発を綺麗に切り替えてたら、再生能力と身体能力の強化が両立しない。まあそのための発の力の調整の修行だな」
ラビは、ふらふらと立ち回りながら、冷蔵庫の扉を開ける。そしてそこから大根の野菜スティックを取り出して、再び玄関に向かおうとする。
「まあそういうことだからゆっくり朝食を取ってから戻ってこい。俺は先に河原で待ってる」
そうして、ラビは、スタスタと外へ繰り出していった。サンは、言われた通り自分の分だけ小鍋に取り分けて、それをかまどの上に置く。そしてその下に、そっと手をかざしながら呟く。
「発の力の調整って言ったってなぁ。うまくできるかな」
サンは自身の掌に炎を灯そうとして、グッと力を入れる。すると、変に力みすぎてしまったのか、サンの炎は、勢いを増し、鍋の周りを包む。サンは、その炎に驚き、慌てて自身の掌から炎を消し、鍋の蓋を開けた。
「うわ、焦げてる」
サンは、水分が消し飛び、黒ずんだ野菜を見つめる。これは食べられるのだろうかと思った矢先、サンの頭にグラシスで出会ったディアルの顔が浮かんだ。サンは一つため息を吐き、意を決して、その野菜を箸で口に運ぶ。
「うわぁ、苦いな」
「おお、サン。どうだった? 美味い飯は食えたか?」
河原に到着したサンにそう声をかけるラビ。サンは文字通り苦い顔をして、彼に向かって、言葉をこぼす。
「食えなかった。結構長いこと色々な修行してきたけど、俺あの修行が一番嫌いだ」
「そうか。まあ頑張れよ。今後は、お前の食事は全て自分の炎で調節してから食ってもらうからな」
「えー俺から食の楽しみ奪わないでくれよ」
「何言ってんだ。実生活に即しているからこそ本気になるんだろ。じゃあ、それとここでやってもらうことを伝えるぞ」
ラビは、そういうと何かものを探し出した。そんな彼の背中にサンは質問を投げかける。
「あれ? ユニとシェドはいないんだな。一緒にやるかと思ってた」
「色々考えてみたがやっぱりシェドに俺が教えることは何もねぇよ。獣力操作だけならあいつと俺の力は変わらない。そしてユニは別メニューだ。なんてったってこれからお前がやる修行は、既にユニが終えている修行だからな。ああそうか、そこに置いたのか。おいサン、ちょっとこい」
するとラビは、自分の身長よりも遥かに大きい岩の前にサンを連れ出した。うわあ、でっかい岩だな。これをラビは朝早くから準備してくれていたのだろうか。そんなことを考えているサンに対し、ラビは、衝撃の一言を発する。
「さて、サン。お前には1週間で、自らの武器を使ってこの岩を粉砕できるようになってもらう」
「え?」
自身の耳がおかしかったのかと思わず間抜けな声で聞き返すサン。そんな彼に対し、ラビは、言葉を繰り返す。
「聞こえているはずだぞ。お前には1週間でこの岩を割れるようになってもらう。あ、炎をぶつけるのは無しだぞ。しっかりその武器と獣出を使って壊せ」
「いやいや待ってくれよ! こんな岩、この武器で壊すのは無理だって。それにそんなことしたらこの刀壊れちゃうよ」
「大丈夫だ。心配すんな。俺もユニも出来たことだ。お前にもできる。後お前が持っているその刀は、これしきのことじゃ壊れないよ。昔アサヒさんがその刀で戦ってたが、そんなアサヒさんと冒険したことのある俺が言うんだ。間違いないさ」
「…………」
アサヒの名前を出すと、サンはじっと自身のペンダントのことを見つめた。彼はそこで、今までのこの刀を使った戦いを振り返る。すると彼は、意を決したように、ラビに向かって尋ねた。
「……なぁ、ラビさん。あんたは、この刀についての秘密、知ってるのか?」
「……どういうことだよ」
「この刀さ、ペンダントから刀に変わるだけでもおかしいんだ。でもさ、それよりおかしいことがある。これ、折れないんだよ。誰も斬れないんだけどさ、そのかわり、なんかどんな攻撃を受けても折れないんだ! ラビさんはなんか知ってるのか?」
サンの脳裏に再び今までの戦いが流れる。アリゲイト、フォン。この2人は、サンよりもずっと質量のある武器を奮っていた。それにも関わらずこの刀は、そんな彼らの攻撃を受けても、決して、打ち負けることも折れることもなかった。
サンはそれが、不思議でならなかった。そして彼は、それに対して頭の中で一つの仮説を練っていたのだ。彼は続ける。
「昨日のやつさ。魔法とか言って、電気の槍を操ってた。きっとこの世にはさ、獣の力だけじゃ説明できないことがあるんだ。この獣の世界には外側があって、そこではそんな魔法がたくさん使われてる。でもだとしたら、俺たちもその力を学んだ方がいいんじゃないか」
「ふん、面白い考えだな」
ラビは、サンの言葉を遮るようにして、そう言葉をこぼした。サンは、ラビの言葉が挟まれたため、少しだけ静かになる。その静寂の中で、ラビは言葉を続ける。
「確かにお前の予想はあってるよ。その刀にはアサヒの魔法がかけられている。そして俺たち獣も魔法を使うことはできる。だが、今回の修行では、それを教える気はない」
「なんで?」
「ネクから話を聞いた時、俺は敵のレベルを知った。そしてそれを踏まえて、俺はお前なら獣力を扱えるようになれば、勝てると判断した。それに1週間という年月でお前が魔法を習得するのは不可能だ。これがまあ大まかな理由だな」
「…………」
サンはそこでじっとラビの目を見つめる。まるで何かを見出しているような目、そして、サンは、そのままラビに重ねて問いかける。
「本当にその二つだけなのか?」
「……ああ、そうだ」
――鋭いな。
実は、ラビが彼らに魔法を教えない理由は、もう一つある。しかし、ラビはあえてその理由をサンに伏せていた。なぜならきっとその事実を知ったら彼らはなにがなんでも魔法を学ぼうとするからだ。彼らが魔法を学ぶのは、少なくともこの場所とこのタイミングではない。
サンはしばらくラビに訝しげな目を向けていたが、何かを諦めたように、彼はすっとその視線を解いた。何かがあることには勘づいたらしいが、ファルと接しているうちに、何かの真実を隠されることには慣れているのだろう。するとサンは、その視線を解いたまま、ラビに向かってまたも質問を投げた。
「そっか、なあ、ラビさん。もう一つ質問してもいいか?」
「なんだよ?」
「あんたはさ。昨日といい、今日といい、すごく俺の実力を認めてくれてる。それはなんでだ? 俺はまだ、あんたに少ししか自分の強さを見せれていないのに」
「ああ、それか」
ラビは、少し考えるような仕草をした。サンの言う通り、自分は彼のことをとても認めている。ただこの若さでそれを伝えてしまったら、慢心した気持ちが生まれてしまわないだろうか。
そんなことを考えながら、ラビは、じっとサンのことを見つめる。すると彼の姿と昔に見たファルの姿が、ほんの少しだけ、重なったようにみえた。
――いや、それはなさそうだな。
そしてラビは、自分の気持ちを正直に、サンに打ち明けた。
「その理由を話すとだな。お前は、あの手合わせの中で自分の立ち回りを修正した。そして俺はお前の姿を見て、こいつは努力のコツを踏まえていると思ったんだ」
「努力のコツ?」
「ああ、努力ってのはな。一つの行動の中でどれだけ自分の改善点を見つけられるかどうかで質が決まる。この世にはいろんな勝負事があって調子の良し悪しってのがあるけどな。本当は、調子なんてものは存在しないんだ。その瞬間に自分の何かが欠けているだけ。努力が上手いやつはな。そこから自分の改善点を見つけ出せる」
「…………」
サンはいまいちラビが何をいいたいのか分からず沈黙した。そんなサンにラビはなおも続ける。
「つまり努力が上手い奴は、自分のマイナスに余すことなく向き合える奴だ。まあそれは辛く苦しいことで、だからこそ人は努力いらずの才能ってやつに憧れるんだがな。ただ俺はあの手合わせの中でお前は、そういうことから逃げてこなかったんだなと感じた。だから強くなれると思った。あーうまく言葉にできないが、伝わったか?」
ラビは、頭をかいて、サンに問いかける。サンは少しだけそれについて考えるような仕草をした。そしてそれから、彼は、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべて、ラビに言う。
「うん、まあなんとなくわかったよ。とりあえずさ、ラビさんは、俺のことを信じてくれてるんだな」
「まあ、簡単に言えばな」
「わかった。じゃあ俺もさ、ラビさんを信じるよ。あんたの言う通りにする。だからさ、ちゃんと言ってなかったけどさ、改めて、よろしくお願いします」
するとサンは、自身の頭を深く下げて、ラビに向かってそう言った。
なるほど、素直なやつだ。ラビは感心する。フォンを倒したと聞いて少しは天狗になってるかと思ったが、全くそんなところは感じさせない。本当に母親そっくりだな。これは、強くなるだろう。
「ああ、わかったよ。こちらこそ、よろしく。とりあえず、小さな石から始めていけ。最初からあの岩は無理だろうからな。まあ、頑張れよ。サン」
「はい!!」
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