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蹄鉄は今踏みしめられる
あれが、魔物?
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――現在――
「いやぁたのしかったなぁ。グラシス! また行きたいな」
「……うん、楽しかったね」
「いやぁ、2人が楽しんでくれてよかったです。ラビさんとの修行が一区切りついたら、また行きましょう」
恐ろしいほどの量の荷物を背負いながら、ユニはそんなこと微塵も感じさせないような笑顔で応える。
一応サンも持つのを手伝うといったのだが、これはペガから指示されている日課の修行の一環らしい。ペガの名前を出されたらその伝統を無碍にするわけにもいかないのでサンは手伝うことを断念した。
それにしても、よくこれほどの荷物を軽々と持てるものだ。サンは感動する。これもまた獣力が何かに関連しているのだろうか。
「……あれ、ユニ。帰りは来た時に通った道とは違うの?」
先導しているユニに対して、ネクが尋ねる。ユニは、そんな彼女に笑顔で返す。
「ああ、実はもう随分日も落ちてきたんで道を変えたんです。来た道は、グラシスへの近道なんですけど、幾分暗い時に行くには道が荒れてまして。だから、帰りは普通に整備されて他の獣人もよく使っている道で帰ろうかと」
「俺の炎があったら照らせるぞ」
「ありがとうございます。サン。でも、ラビさんが変な修行思いつくかもしれないんで、獣力は温存しておいて――」
「がぐがごげぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ユニが全ての言葉を言い終わる前に、彼の声は、何かの叫び声によってかき消された。
「え? なんだよ、なんの声だ? 今朝の熊の仲間か?」
「いや、熊はこんな不気味な声では吠えません。一体何だ?」
「かげえぐらげせごてがァァァァ!」
またけたたましい獣の吠えるような声が聞こえる。あまりにも騒がしい音に思わず耳を塞ぐサンとユニ。そんな中ネクは岩陰から、声の主を見つける。
「……いた。サン、ユニ。あそこ」
ネクは、岩の影から、そっとある方向を指差す。サンは、その岩の隙間から、じっとネクが指を刺した方向を眺める。
「は? なんだよ。あれ?」
今までサンは、ファルの図鑑などで様々な生き物を見てきた。しかし、目の前の生き物は、今までサンが見てきたどんな生き物とも違っていた。
太く力強く少し曲がったバネを感じさせるカンガルーのような足。固くどんなものも打ち砕く堅固さを感じさせる蹄のようなもので覆われた腕。背中には、妙なコブがあり、頭には、それぞれ形の違う角が3本あった。
そして何よりも驚くべきは、なんらかの獣人と思われるその男の身長が4メートルほどあったことだ。
「なんだよ、あれ? 俺、あんなの初めて見た。ハビボルには、よく見る動物なのか?」
「僕も初めて見ましたよ。でも、ひょっとしてあれが噂になっている魔物なんでしょうか?」
「あれが、魔物?」
「……あんまり、話さない方がいいよ。2人とも。気づかれちゃうかも――あ」
そこでネクが言葉を止めたのは、岩の隙間から見ていた魔物と、自身の目がしっかりあったからだ。魔物はそのままこちらの方をしばらく向くと、また一つ大きな雄叫びをあげた。
「にぐげがてがぁぁぁぁぉ!!」
「やばい! 気づかれた!」
相変わらず、何か言っているようにも感じるが、全く言語情報として入ってこない。だが、気づかれたということだけは察知することができた。岩の方へまっすぐに突っ込んでくる怪物。3人は、危険を感知し、慌ててその岩から離れる。
――ドガァァァン!!
目の前の岩が一瞬にして粉々になる。その様子を見て、ユニは声を弾ませて、言葉を発する。
「うわぁ、すごい! これ受けたらどれくらいの力なんだろ!」
「興奮してる場合か! どうする? これ、戦うか?」
「……わからない。でも、すぐに背中を見せて逃げるってわけにもいかなそうだよ」
「いがやげ、だがれぐもげきげずがつげけたぐくぎなごいぐぁぇぉぁぁ」
まずサンに目をつけて、思い切り右手の蹄を振る怪物。サンは、それを見て「サンライズ」と唱え、回転し自身の照型を合わせる。
「陽天流三照型、日輪!!」
――ガン!
確かに当たった。しかし、全く怪物は怯む様子はない。
「ダメだ! 全く手応えがない!」
「やがめぐてごぁぁぁ!!」
「うお!」
――ドガァァァン!
日輪の終わった隙を狙われ、怪物に思い切り左腕で薙ぎ払われるサン。岩壁に思い切り叩きつけられ、骨が何本か折れたような音を立てる。
「がっがぁぁ」
「サン!!」
ネクがサンの方向へ視線を向ける。そんな彼女の隙を見逃さず、怪物は、今度はネクの方へ向け、地面を蹴った。殺気に気付き、視線を戻すネク。そんな彼女に再び鋭い蹄が襲い掛かる。
――ガァァァァン!!
「すごい力ですけど、女の子から狙うのはダメですよ」
しかし、その腕を自身の打撃で弾き飛ばすユニ。怪物の打撃の軌道が変わり、ネクのすぐ隣の地面が音を立てて抉れる。
「おがばぎさごんぐおがばげさぐんがぁぁぁぁあ!!!」
腕に攻撃されて憤ったのか、怪物は次の攻撃の手をユニに向ける。ユニは自身に力強く向けられた攻撃をかわし、怪物の懐に入り込む。
「本当は真っ向から受けてみたいんですけど、すいません。今は2人がいますので」
そして、彼は、力強く拳を握りしめ、敵の懐にその拳を叩き込む準備を始める。
「さて、溜めは短いけどどこまで通用するか。蹄鉄拳、荒金あらがね」
――ダダダダダダ!!
ユニの連撃が、怪物の溝打ちに炸裂する。しかし、その怪物は少し顔を顰めるだけで、やはり攻撃が効いている様子はない。
「かったいですね! 何食べたらこうなるんですか!」
「はがなぐれごてがぁぁぁ!!」
ユニの問いなどものともせず、怪物は、ユニを抱き抱えるようなポーズをとる。そしてそのまま、思い切りユニのことを締め付けた。
「あっぐ、これは、きつい……」
「――――!?」
しかし、怪物はあと少しでユニを押し潰さんというところで、咄嗟に彼を離し後ろに退がった。その理由は、自身の体が危険を察知したからだ。そして彼の予想は的中し、彼のすぐ目の前を、ネクの毒塗りナイフが通り過ぎていった。
「……すごいね。やっぱりかわすんだ」
しかしネクは、動じることなく、落ち着いた様子で言葉をつづける。
「……でも、私は別にあなたを狙ったわけじゃないから」
「ガァァ??」
魔物は、じっとナイフの行く末を目で追い、ようやくネクの狙いに気づいた。なぜならそこには、先ほど自分が骨を折ったはずの少年が立っていたからだ。
「あんまり誰かに刃を立てるのは好きじゃないんだけどな。なあ、ネク。これ何毒?」
「……大丈夫。麻痺作用はあるけど命に影響を与えるほどじゃない」
「そっか。そういうことらしいから許してくれよ」
すでに体の治癒を終え、刀も一度ペンダントに戻したサンは、そのナイフを受け取り、静かに深呼吸して、体の炎を消した。ラビは手合わせの時、陽天流を禁じていた。それはきっと、陽天流を打つ際にすでに獣力を纏うことができていたからだ。
それならばきっと、自身の発を抑え、出に力を集中させれば、自分の陽天流は、さらに進化するはず。
サンは、今自分が持つナイフに、自分の力が纏わりついていく様子をイメージする。そして、足を踏み出し、ありったけの力をナイフの先に乗せて、技を放った。
「陽天流一照型、木洩れ日!!」
凄まじい勢いで魔物に迫る一本のナイフ。かわそうとする彼だったが、体勢を崩し、すぐに回避行動を取ることができない。
いける。これならあの怪物にダメージを与えることができる。サン、ネク、ユニのうち誰もがそう感じたそのときだった。
――カンッカンッカン。
唐突に、上空からサンの目の前に2人の男が現れた。そして、そのうちの1人がサンのナイフをグローブをはめた手で摘み止め、そのままナイフを投げ飛ばす。ナイフが転がり音を立てる。
「……え?」
どちらも赤黒いローブを被り、禍々しい雰囲気を放っていた。どこか鍛えられた肉体を感じさせるサンの照型を止めた男と、歪に曲がる歪んだ2つの角を持ち、不適に笑みを浮かべる男。
サンたちは、そんな突然の出来事に体を動かすことができなかった。
「いやぁたのしかったなぁ。グラシス! また行きたいな」
「……うん、楽しかったね」
「いやぁ、2人が楽しんでくれてよかったです。ラビさんとの修行が一区切りついたら、また行きましょう」
恐ろしいほどの量の荷物を背負いながら、ユニはそんなこと微塵も感じさせないような笑顔で応える。
一応サンも持つのを手伝うといったのだが、これはペガから指示されている日課の修行の一環らしい。ペガの名前を出されたらその伝統を無碍にするわけにもいかないのでサンは手伝うことを断念した。
それにしても、よくこれほどの荷物を軽々と持てるものだ。サンは感動する。これもまた獣力が何かに関連しているのだろうか。
「……あれ、ユニ。帰りは来た時に通った道とは違うの?」
先導しているユニに対して、ネクが尋ねる。ユニは、そんな彼女に笑顔で返す。
「ああ、実はもう随分日も落ちてきたんで道を変えたんです。来た道は、グラシスへの近道なんですけど、幾分暗い時に行くには道が荒れてまして。だから、帰りは普通に整備されて他の獣人もよく使っている道で帰ろうかと」
「俺の炎があったら照らせるぞ」
「ありがとうございます。サン。でも、ラビさんが変な修行思いつくかもしれないんで、獣力は温存しておいて――」
「がぐがごげぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ユニが全ての言葉を言い終わる前に、彼の声は、何かの叫び声によってかき消された。
「え? なんだよ、なんの声だ? 今朝の熊の仲間か?」
「いや、熊はこんな不気味な声では吠えません。一体何だ?」
「かげえぐらげせごてがァァァァ!」
またけたたましい獣の吠えるような声が聞こえる。あまりにも騒がしい音に思わず耳を塞ぐサンとユニ。そんな中ネクは岩陰から、声の主を見つける。
「……いた。サン、ユニ。あそこ」
ネクは、岩の影から、そっとある方向を指差す。サンは、その岩の隙間から、じっとネクが指を刺した方向を眺める。
「は? なんだよ。あれ?」
今までサンは、ファルの図鑑などで様々な生き物を見てきた。しかし、目の前の生き物は、今までサンが見てきたどんな生き物とも違っていた。
太く力強く少し曲がったバネを感じさせるカンガルーのような足。固くどんなものも打ち砕く堅固さを感じさせる蹄のようなもので覆われた腕。背中には、妙なコブがあり、頭には、それぞれ形の違う角が3本あった。
そして何よりも驚くべきは、なんらかの獣人と思われるその男の身長が4メートルほどあったことだ。
「なんだよ、あれ? 俺、あんなの初めて見た。ハビボルには、よく見る動物なのか?」
「僕も初めて見ましたよ。でも、ひょっとしてあれが噂になっている魔物なんでしょうか?」
「あれが、魔物?」
「……あんまり、話さない方がいいよ。2人とも。気づかれちゃうかも――あ」
そこでネクが言葉を止めたのは、岩の隙間から見ていた魔物と、自身の目がしっかりあったからだ。魔物はそのままこちらの方をしばらく向くと、また一つ大きな雄叫びをあげた。
「にぐげがてがぁぁぁぁぉ!!」
「やばい! 気づかれた!」
相変わらず、何か言っているようにも感じるが、全く言語情報として入ってこない。だが、気づかれたということだけは察知することができた。岩の方へまっすぐに突っ込んでくる怪物。3人は、危険を感知し、慌ててその岩から離れる。
――ドガァァァン!!
目の前の岩が一瞬にして粉々になる。その様子を見て、ユニは声を弾ませて、言葉を発する。
「うわぁ、すごい! これ受けたらどれくらいの力なんだろ!」
「興奮してる場合か! どうする? これ、戦うか?」
「……わからない。でも、すぐに背中を見せて逃げるってわけにもいかなそうだよ」
「いがやげ、だがれぐもげきげずがつげけたぐくぎなごいぐぁぇぉぁぁ」
まずサンに目をつけて、思い切り右手の蹄を振る怪物。サンは、それを見て「サンライズ」と唱え、回転し自身の照型を合わせる。
「陽天流三照型、日輪!!」
――ガン!
確かに当たった。しかし、全く怪物は怯む様子はない。
「ダメだ! 全く手応えがない!」
「やがめぐてごぁぁぁ!!」
「うお!」
――ドガァァァン!
日輪の終わった隙を狙われ、怪物に思い切り左腕で薙ぎ払われるサン。岩壁に思い切り叩きつけられ、骨が何本か折れたような音を立てる。
「がっがぁぁ」
「サン!!」
ネクがサンの方向へ視線を向ける。そんな彼女の隙を見逃さず、怪物は、今度はネクの方へ向け、地面を蹴った。殺気に気付き、視線を戻すネク。そんな彼女に再び鋭い蹄が襲い掛かる。
――ガァァァァン!!
「すごい力ですけど、女の子から狙うのはダメですよ」
しかし、その腕を自身の打撃で弾き飛ばすユニ。怪物の打撃の軌道が変わり、ネクのすぐ隣の地面が音を立てて抉れる。
「おがばぎさごんぐおがばげさぐんがぁぁぁぁあ!!!」
腕に攻撃されて憤ったのか、怪物は次の攻撃の手をユニに向ける。ユニは自身に力強く向けられた攻撃をかわし、怪物の懐に入り込む。
「本当は真っ向から受けてみたいんですけど、すいません。今は2人がいますので」
そして、彼は、力強く拳を握りしめ、敵の懐にその拳を叩き込む準備を始める。
「さて、溜めは短いけどどこまで通用するか。蹄鉄拳、荒金あらがね」
――ダダダダダダ!!
ユニの連撃が、怪物の溝打ちに炸裂する。しかし、その怪物は少し顔を顰めるだけで、やはり攻撃が効いている様子はない。
「かったいですね! 何食べたらこうなるんですか!」
「はがなぐれごてがぁぁぁ!!」
ユニの問いなどものともせず、怪物は、ユニを抱き抱えるようなポーズをとる。そしてそのまま、思い切りユニのことを締め付けた。
「あっぐ、これは、きつい……」
「――――!?」
しかし、怪物はあと少しでユニを押し潰さんというところで、咄嗟に彼を離し後ろに退がった。その理由は、自身の体が危険を察知したからだ。そして彼の予想は的中し、彼のすぐ目の前を、ネクの毒塗りナイフが通り過ぎていった。
「……すごいね。やっぱりかわすんだ」
しかしネクは、動じることなく、落ち着いた様子で言葉をつづける。
「……でも、私は別にあなたを狙ったわけじゃないから」
「ガァァ??」
魔物は、じっとナイフの行く末を目で追い、ようやくネクの狙いに気づいた。なぜならそこには、先ほど自分が骨を折ったはずの少年が立っていたからだ。
「あんまり誰かに刃を立てるのは好きじゃないんだけどな。なあ、ネク。これ何毒?」
「……大丈夫。麻痺作用はあるけど命に影響を与えるほどじゃない」
「そっか。そういうことらしいから許してくれよ」
すでに体の治癒を終え、刀も一度ペンダントに戻したサンは、そのナイフを受け取り、静かに深呼吸して、体の炎を消した。ラビは手合わせの時、陽天流を禁じていた。それはきっと、陽天流を打つ際にすでに獣力を纏うことができていたからだ。
それならばきっと、自身の発を抑え、出に力を集中させれば、自分の陽天流は、さらに進化するはず。
サンは、今自分が持つナイフに、自分の力が纏わりついていく様子をイメージする。そして、足を踏み出し、ありったけの力をナイフの先に乗せて、技を放った。
「陽天流一照型、木洩れ日!!」
凄まじい勢いで魔物に迫る一本のナイフ。かわそうとする彼だったが、体勢を崩し、すぐに回避行動を取ることができない。
いける。これならあの怪物にダメージを与えることができる。サン、ネク、ユニのうち誰もがそう感じたそのときだった。
――カンッカンッカン。
唐突に、上空からサンの目の前に2人の男が現れた。そして、そのうちの1人がサンのナイフをグローブをはめた手で摘み止め、そのままナイフを投げ飛ばす。ナイフが転がり音を立てる。
「……え?」
どちらも赤黒いローブを被り、禍々しい雰囲気を放っていた。どこか鍛えられた肉体を感じさせるサンの照型を止めた男と、歪に曲がる歪んだ2つの角を持ち、不適に笑みを浮かべる男。
サンたちは、そんな突然の出来事に体を動かすことができなかった。
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