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そして影は立ち伸びる
神を! 一人残らず殺してやる!!
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――過去――
――どうして?
6歳の少年、シェドの脳内は、その言葉で溢れていた。彼には全く理解することができなかったのだ。なぜ、母と自分が今、命の危険に晒されなければならないのか。
「行きなさい、シェド。私はもう、一緒にはいけない」
木陰に隠れながら、シェドの母が彼に対してそう呟く。
シェドはそんな彼女に言葉を返す。
「嫌だ、母さんを置いてなんかいけないよ!」
涙を浮かべ、そう訴えるシェド。しかし、そんな彼に対して、母は優しく首を振る。
「ごめんね、シェド。本当は私も一緒に行ってあげたい。でも、もうこの傷だときっと、それは難しいの」
母の言葉に、シェドは、思わず彼女の背中を見る。ユキヒョウの獣人である、彼女の背中には、真っ白な毛皮に大きな赤い切り傷が備わっていた。
「嫌だ、嫌だよ、母さん。これからもずっと一緒に暮らすんだ。大体なんで俺たちが殺されなきゃいけないんだよ。裏切ったのは父さんじゃないか! それになんで村のみんなは助けてくれないんだよ! 今まで、あんなに母さんは頑張っていたのに」
「シェド」
そう言って、母はじっと自分の目を見据える。そして、暖かな眼差しで、彼女は続ける。
「いい? 誰かを恨んではダメ。きっと村のみんなには、私にとってのシェドと同じくらい大切なものがあったの。だから『神』に立ち向かえなかったの。それに父さんがしたことにもきっと理由があったんだわ。あなたの強さと優しさは、父さんからもらったものなんだから」
そう言って、母さんは真っ白な手で、自分の黒い立髪を撫でる。自分が獅子の獣人であることを象徴する髪。そして、母ではなく、父の因子を、自分は引き継いだことの証明。
「おい! どこ行きやがった! 戦争首謀者の嫁が!! のうのうとお前だけ生きてられると思ってるのか?」
ある男の怒声が聞こえる。きっと先程母の背中を切り裂いた、全身に黒い鎧を纏った神と名乗りし男の声だ。
「もう行きなさい! シェド。このままじゃあなたまで殺されてしまう!」
「嫌だ! 嫌だよ、母さんと離れたくない」
「シェド。大丈夫よ、あなたならきっと、素晴らしい人たちに囲まれるわ。私でさえ、自慢の友人に会えたのだもの。だから――母さんがいなくても、あなたは大丈夫」
「ダメだよ、そんなの嫌だ……」
すると、彼の母は、再び温かい手のひらを彼の頬にあてた。そして、目に涙を浮かべながらも、彼女は確かに言葉を紡ぐ。
「ねぇ、シェド。さよなら、あなたのこと大好きだからね」
すると、彼の母親は、木陰から飛び出した。鎧の男が、彼女を見つけ、歪な笑みを浮かべる。
「よお、やっと見つけたぜ。おい? 息子もいたはずだろう? どこにやった?」
「もう、逃げたわ」
助けなきゃ、シェドは強く心の中でそう思った。今飛び出して、あの鎧の男を倒すんだ。幸い身につけていたバッグに、小さなナイフが入っている。それであの鎧の男を殺す。それしか、自分と母親が助かる方法はない。
しかし、無意識のうちに彼の足は、母親からどんどん遠ざかっていった。少年は、6歳にしてはあまりにも優秀な頭脳を持っていた。だから、彼は痛いほどに分かっていたのだ。自分ではあの男に勝てないと。自分が逃げないと、母の死がただ無駄になってしまうと。
このまま無謀に戦いを挑み、母と命を落とした方が幸せだったのかもしれない。しかし、彼は悲しいことに、それができないほど賢すぎたのだ。
――クソックソックソ!!
拳を握りしめ、ただ走るシェド。そんな彼に母と男の会話が聞こえてくる。
「逃げただと!? 命からがら息子を逃すとは泣ける親子愛じゃねぇか。まあ、どうせいつかは息子も殺すけどな」
「シェドは、あなたには負けないわ」
「あ? 何馬鹿なこと言ってるんだよ?」
「私の息子は、強い子よ。今はまだ逃げることしかできないかもしれない。でも、あの子にはね、他の人にはない強さがある。それは、本当に必要なことをちゃんと選び取れる強さ。だからこそ、あの子は、あなたより必ず強くなる」
「はっ! 血でも流しすぎて馬鹿になったのか? 獣如きが、神に勝てるわけねぇだろうが!?」
「そんなことないわ! アサヒたちが証明した! 私たちでも、あなたたちと戦えるということを! そして、私たち獣にも、太陽の下を堂々と歩く権利があるということを! 見てなさい! シェドは、きっと全てを照らす太陽になれるから」
「そうかよ! 親バカが、さっさと死ねや!!」
――ズドン。
刃物が、肉塊を突き刺す音が聞こえた。
しかし、シェドは足を止めなかった。振り向いたら、今の母さんの姿を見たら、足が止まることは、分かっているから。
――ちくしょう! ちくしょう!!
声にならない声をあげて、シェドはひたすらに走る。
弱いからだ。自分が母を失う理由を、シェドは痛いほどよく分かっていた。自分が弱いから奪われる。自分が弱いから、大切なものが 消えていく。
――強くなってやる! 誰にも負けないくらい強くなってやる!
シェドは霞んだ世界をただ駆け抜けながら、強く決意した。そして、激しい憎悪を持って、彼は心の中で、誓いを立てる。
――そして! 神を! 一人残らず殺してやる!!
添削がやっと終了したので二部投稿を始めようかと思います。二部は、サンの心の成長がテーマです。よろしくお願いします。
――どうして?
6歳の少年、シェドの脳内は、その言葉で溢れていた。彼には全く理解することができなかったのだ。なぜ、母と自分が今、命の危険に晒されなければならないのか。
「行きなさい、シェド。私はもう、一緒にはいけない」
木陰に隠れながら、シェドの母が彼に対してそう呟く。
シェドはそんな彼女に言葉を返す。
「嫌だ、母さんを置いてなんかいけないよ!」
涙を浮かべ、そう訴えるシェド。しかし、そんな彼に対して、母は優しく首を振る。
「ごめんね、シェド。本当は私も一緒に行ってあげたい。でも、もうこの傷だときっと、それは難しいの」
母の言葉に、シェドは、思わず彼女の背中を見る。ユキヒョウの獣人である、彼女の背中には、真っ白な毛皮に大きな赤い切り傷が備わっていた。
「嫌だ、嫌だよ、母さん。これからもずっと一緒に暮らすんだ。大体なんで俺たちが殺されなきゃいけないんだよ。裏切ったのは父さんじゃないか! それになんで村のみんなは助けてくれないんだよ! 今まで、あんなに母さんは頑張っていたのに」
「シェド」
そう言って、母はじっと自分の目を見据える。そして、暖かな眼差しで、彼女は続ける。
「いい? 誰かを恨んではダメ。きっと村のみんなには、私にとってのシェドと同じくらい大切なものがあったの。だから『神』に立ち向かえなかったの。それに父さんがしたことにもきっと理由があったんだわ。あなたの強さと優しさは、父さんからもらったものなんだから」
そう言って、母さんは真っ白な手で、自分の黒い立髪を撫でる。自分が獅子の獣人であることを象徴する髪。そして、母ではなく、父の因子を、自分は引き継いだことの証明。
「おい! どこ行きやがった! 戦争首謀者の嫁が!! のうのうとお前だけ生きてられると思ってるのか?」
ある男の怒声が聞こえる。きっと先程母の背中を切り裂いた、全身に黒い鎧を纏った神と名乗りし男の声だ。
「もう行きなさい! シェド。このままじゃあなたまで殺されてしまう!」
「嫌だ! 嫌だよ、母さんと離れたくない」
「シェド。大丈夫よ、あなたならきっと、素晴らしい人たちに囲まれるわ。私でさえ、自慢の友人に会えたのだもの。だから――母さんがいなくても、あなたは大丈夫」
「ダメだよ、そんなの嫌だ……」
すると、彼の母は、再び温かい手のひらを彼の頬にあてた。そして、目に涙を浮かべながらも、彼女は確かに言葉を紡ぐ。
「ねぇ、シェド。さよなら、あなたのこと大好きだからね」
すると、彼の母親は、木陰から飛び出した。鎧の男が、彼女を見つけ、歪な笑みを浮かべる。
「よお、やっと見つけたぜ。おい? 息子もいたはずだろう? どこにやった?」
「もう、逃げたわ」
助けなきゃ、シェドは強く心の中でそう思った。今飛び出して、あの鎧の男を倒すんだ。幸い身につけていたバッグに、小さなナイフが入っている。それであの鎧の男を殺す。それしか、自分と母親が助かる方法はない。
しかし、無意識のうちに彼の足は、母親からどんどん遠ざかっていった。少年は、6歳にしてはあまりにも優秀な頭脳を持っていた。だから、彼は痛いほどに分かっていたのだ。自分ではあの男に勝てないと。自分が逃げないと、母の死がただ無駄になってしまうと。
このまま無謀に戦いを挑み、母と命を落とした方が幸せだったのかもしれない。しかし、彼は悲しいことに、それができないほど賢すぎたのだ。
――クソックソックソ!!
拳を握りしめ、ただ走るシェド。そんな彼に母と男の会話が聞こえてくる。
「逃げただと!? 命からがら息子を逃すとは泣ける親子愛じゃねぇか。まあ、どうせいつかは息子も殺すけどな」
「シェドは、あなたには負けないわ」
「あ? 何馬鹿なこと言ってるんだよ?」
「私の息子は、強い子よ。今はまだ逃げることしかできないかもしれない。でも、あの子にはね、他の人にはない強さがある。それは、本当に必要なことをちゃんと選び取れる強さ。だからこそ、あの子は、あなたより必ず強くなる」
「はっ! 血でも流しすぎて馬鹿になったのか? 獣如きが、神に勝てるわけねぇだろうが!?」
「そんなことないわ! アサヒたちが証明した! 私たちでも、あなたたちと戦えるということを! そして、私たち獣にも、太陽の下を堂々と歩く権利があるということを! 見てなさい! シェドは、きっと全てを照らす太陽になれるから」
「そうかよ! 親バカが、さっさと死ねや!!」
――ズドン。
刃物が、肉塊を突き刺す音が聞こえた。
しかし、シェドは足を止めなかった。振り向いたら、今の母さんの姿を見たら、足が止まることは、分かっているから。
――ちくしょう! ちくしょう!!
声にならない声をあげて、シェドはひたすらに走る。
弱いからだ。自分が母を失う理由を、シェドは痛いほどよく分かっていた。自分が弱いから奪われる。自分が弱いから、大切なものが 消えていく。
――強くなってやる! 誰にも負けないくらい強くなってやる!
シェドは霞んだ世界をただ駆け抜けながら、強く決意した。そして、激しい憎悪を持って、彼は心の中で、誓いを立てる。
――そして! 神を! 一人残らず殺してやる!!
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