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あの空の上に陽は昇る

いや、一太刀だ

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家に帰ると、ケイおばさんが豪華な料理を用意して待っていた。サンは、他のみんなと共にその料理を食べ尽くし、再び外に出る。なぜなら今、道場でファルが待ってくれているからだ。

 ――もうすぐこのスカイルともお別れか。

 サンは道場への道の道中、スカイルで出会った獣人たちに思いを馳せる。4歳から16歳までここで色々な獣人に出会ったが、その誰もが本当にすばらしい獣人たちだった。サンはこのスカイルでの日々を一生忘れることはないだろう。

 昔へと思いを馳せながら通る道は、あっという間だった。サンは意を決して道場の扉を開ける。彼は畳の上で静かに座してサンを待っていた。

「ファル先生、きたよ」
「きたか。まあとりあえずそこに座れ」

 落ち着いた声でサンに言葉を発するファル。サンは心臓を激しく鼓動させながらも、ファルの目の前に座る。

「で、なんだ? 話っていうのは」
「ファル先生、俺さ――」

サンはそこで言葉を留める。ファルの反応が怖かった。否定されるのが嫌だった。しかし意を決し、サンは自らの言葉を続ける。

「旅に出たいんだ! この国から出て色々なものを見て回りたい」
「なんでそう思った?」

 ――ねえ、サン……真実を見つけて。

 あの子供の声が、サンの脳内で再生される。

「ファル先生、俺さ、真実を知りたいんだ。この世界には 俺が知らないこと、知らなければならないことがたくさんある。だから、俺はこのスカイルから出て旅をしたいんだ」
「ダメだな」
「なんで?」
「だって、サンのことだし、きっとお前はどこまでもその真実とやらを探し出そうとするだろ? そんなの危険すぎる。なあ、サン。お前はまだ16だ。焦る必要なんてない?これからゆっくりフォレスで生きていきながら、自分のやりたいことを見つけていけばいい」

 ファルの言葉は予想通りのものだった。この先生ならきっと安全のために自分の考えを反対する。だから、サンは序盤から、彼が持つ最大のカードを切った。

「ファル先生、俺さ、実はほぼ毎日ある夢を見るんだ」
「どんな夢だよ?」
「昔の記憶の夢なのかな? 目の前にさ、真っ赤な髪と翼を持った女の人がいるんだよ。でもその獣人はさ、血塗れで涙を流してるんだ。そして、俺に向かって、目一杯の笑顔を作って、俺にいうんだよ。『太陽みたいな存在に、なってほしいって』なあ、ファル先生。あの女性はさ、俺の母さんなんだろ?」
「……………」

ファルはおし黙った。彼にはどこか伝えるべきことも伝えられなくてもどかしそうにしている様子にも見える。サンは畳み掛ける。

「ずっと我慢してた! でも、俺もう限界だよ! なあ、フォンが言ってた翼も鱗もない何かもさ、俺の夢の中にも出てくるんだ! 神ってなんだよ! 記憶を奪ったってなんだよ! 俺の母さんを殺したのは、一体誰なんだ!! なんでファル先生は、全部知ってるはずなのに、何も教えてくれないんだよ!!!」

どんどんヒートアップし、サンの語気が荒くなる。全部サンの本心だった。フォレスには固い掟がある。それは、この施設に預けられる以前の過去のことは決して触れてはならないという掟。だからこそ、サンはずっと我慢していた。どれほど、自分の母が目の前で死ぬ夢を見たとしても、ファルに自らの過去について、質問しようとはしなかった。

 しかし、今回フォンという獣人に出会って、彼の欲求はついに爆発した。

「わかった。刀を握れ、サン」

だが彼は、サンの質問に答える代わりにそう言葉を発した。

「なんだよ、何するつもりなんだよ? ファル先生」
「いいから、早くするんだ、サン。俺も準備する」

 すると、ファルが2本の木刀を取り出し、腕を静かに伸ばし、体を垂らした。陽天流の2本使い.、改め、双翼陽天流。陽天流を極めた者に許される、この流派の第二形態。どうやら、本気で自分と打ち合うつもりなのだろうか。

「わかったよ。……サン、ライズ」

サンはそう唱えてペンダントを刀に変える。そして、自らの刀を中段に構え、ファルの方を見据える。
 ファルは、そんなサンを見て言葉をこぼす。

「サン。お前の意思はわかったよ。毎晩そんな夢を見てたんだな。知らなかった。ただそれでも俺は、お前が旅に出ることには、反対だ」
「だから、なんだっていうんだよ。旅に出たいなら先生を倒せっていうのか?」
「いや、一太刀だ」

ファルは、2本の刀を構える。左の刀を前に出して構え、右の刀の先をサンに向ける。

「は? 何言ってるんだよ! 一太刀なんてほぼ刀を当てるだけじゃないか。言っておくけど、俺はもう今までのへっぽこ剣士じゃないんだぞ!」
「はっ、スアロとクラウを助け、フォンを倒したからって英雄気取りか。自惚れるなよ、サン! この世界にはな、フォンより強いやつなんてのはゴロゴロいる。お前が思ってるより、この世界は何万倍も広いんだぞ!」
「そんなことは分かってるさ! でも決めたんだ! 俺は! いいさ、一太刀だな! 後で条件変えようとしても受け付けないからな、ファル先生!」
「ああ、全力でこい、サン! お前がこのフォレスで得たもの、俺に全部見せてみろ!」

 そして両者は、全く同じタイミングで地面を蹴り、互いに斬りかかった。


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