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第一章

次への手段

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 ヘリコプターからロープを伝って四人の自衛隊員が降下してきた。四人が一定の距離まで近づいたところで「とりあえず封鎖を完了させたい」と伝えると、戸惑ってはいたが、本部に連絡をさせてもらうが、作業自体は進めて良いと許可がもらえた。

 とりあえず作業を再開すると、隊員の二人はその場に残って連絡を取り始め、残りの二人が一定の距離を保ちながらついて来た。封鎖が完了した所で、連絡を取っていた隊員がついて来ていた隊員の所へと合流した。

 こちらから今回の計画の内容や、ストーンサークルの事を話したり、ワイバーンが居るのにヘリコプターを飛ばしても大丈夫なのか等と、いろいろと聞いてみると、合流した隊員が部隊長だったようで、再び連絡を取り始めた。

 会話をして分かった事だが、信じられないような魔法を使っていたため、迂闊な事は出来ず、更には素性を隠すために仮面をしている尊の事を、自分勝手に力を振るい逮捕されている者達の様な危険人物なのではないかと思っていたらしい。素性は明かさなかったが、友好的に有益な情報を提供した事で、一応の誤解は解けた様だった。
 連絡が終わるのを待つ間に、壁の上からウインドアローの魔法で集まっていたコボルトを倒していく。簡単に倒していく様子を見た隊員に驚かれてしまった。「自衛隊にも魔法が使える方が居るのでは?」と聞いてみると、「自衛隊員の中にも魔法が使える者は数千人は居るが、今見たように一撃で倒す事は出来ず、魔法もそんなに連続で撃てない」と言われてしまった。

 見える範囲に居るコボルトの数が数えられそうな位になった所で、部隊長から声を掛けられた。

 「基地本部と連絡を取った結果、今回の行動の罪は問わないが、」

 そう言われた所で、尊は口をはさんだ。

 「それ決めた人は誰?行動の罪って言うのは魔獣の発生場所を封鎖した事?それともダンジョンがある事を発見した事?もしかして、自分達が如何にも出来なかった対策を一般人にされた事?」

 先程までの友好的な口調とは打って変わって、不機嫌さを声にも顔にも隠さない尊の様子に、隊員達はたじろぐ素振りを見せる。その様子を見た尊は少し冷静さを取り戻し、大きな溜息を吐いて言葉を続ける。

 「今までは自衛隊、他国なら軍で対応していたような事を、個人で出来てしまう者が現れた意味を理解していますか?力にも個人差がありますが、いきなり手に入れたものだから、既に自分勝手に使おうとして逮捕された人もいますよね?端的に言うならば、現場を見ずに判断をするような奴が上に居ると、死人が出ますよ。それと、契約の力と言うか、それを持つ個人の力をうまく活かせる様に出来なければ、もしかしたら国が亡ぶ事だってあり得ない事じゃない。今回の変革って、概ねそういう事なんだと思いますよ」

 そう言って1人ずつ隊員達の顔を見ていくが、思う所はあるのか顔を伏せて何も言わない。

 「次は葛飾区で封鎖をするつもりです。次は政府に話を通した上で封鎖を行う事にします。その為に多少強引な手を使うかもしれませんが・・・」

 そこで言葉を切って、再度隊員達の顔を見てから再び言葉を発する。

 「封鎖の外に残っている残党狩りはお任せします。それと、次に会った時は敵では無い事を願っていますよ」

 その言葉に隊員達が顔を上げて尊を見る。そして尊は敢えて見られているのを確認してから、少し大きな声でワープの魔法を使って部屋へと転移した。
 尊が消えたのを見た隊員達は困惑を隠せなかった。自身の眼前で人が消えたのだ。しばらくの間困惑していた隊員達が、正気を取り戻して最初にした事は、本部への連絡であった。



 部屋に戻った尊は、拳児に「封鎖は完了。部屋に戻った。調べ物をしてから降りる。」とメールを送信して、パソコンの電源を入れた。

 次に封鎖を予定している葛飾区の様子は、かなりの数の動画で確認出来きた。その中でも多くの動画に共通して映り込んでいるものがあった。都立水元公園だ。ゴブリンによる被害は何故か公園から西側に集中しているのが気になるが、市街地ではなく、大きな公園内ならば楽に封鎖出来るかもしれないと考えていると、拳児からメールの着信があった。内容は「すまん、バレたwww」だった。

 リビングに入ると拳児以外の全員の視線が集まった。呆れ顔に、怒り顔、そして何故か喜色を浮かべた顔であった。呆れ顔なのは健治、真琴、美春の相良家組で、怒っているのは母の遥である。母である遥が怒っているのは理解出来る。この作戦を家族会議に掛けた時から反対していたのだから。そして相良家組が怒ると言うよりも呆れているのは、遥が怒っているからだろう。頬を膨らませて少し涙目でぷりぷりと怒るその様子に毒気が抜かれてしまったのかもしれない。一方で琴音はニコニコと満面の笑みを浮かべている。拳児に視線をやれば、軽く両手を挙げてお手上げといった仕草を見せるだけであった。
 このままでは如何にもならないと判断して、封鎖作業の様子を話す事にした。

 ワープの魔法で、祖父の家に転移した事。百メートル走の様な速度で中荻野までを走りぬく事が出来た事。コボルトとの戦い。拳児との手合わせの様に、コボルトの動きがスローモーションの様に、はっきりと捉える事が出来たので、落ち着いて対処する事が出来たし、怪我一つしなかった事を話していった。
 一通り話し終えた所で、遥に「本当に怪我をしていないのか」と、ペタペタと体を確認されたが、本当に怪我をしていない事が分かった所で、怒りはある程度治まったようだった。そして「もう危ない事はしないでほしい」と言われたが、はっきりと「それは約束出来ない」と断った。そこからしばらく再び泣き顔で怒り出した遥に詰め寄られながら問答が続いた。

 「何で尊ちゃんがしなきゃいけないの?自衛隊だって、国だって動いてるじゃない」

 遥の問いに自衛隊の事が出た事で、敢えて話さずにいた作業中に出会った隊員達の事を話す事にした。
 話していなかったけどと、前置きを入れて、作業中に会った隊員から見聞きした事を話していく。初回の失敗もあり、軽々しく部隊を動かす事は出来なくなっている事。そして自衛隊員にも魔法が使える者は居るが、尊ほど簡単に倒せない事を話した。

 「誰もがどうしようもない時に、何とか出来る力を持っている人がその隠すのはどうかと思うんだ。父さんには誰かを助けるために・・・爺ちゃんには、力を振るうべき時を間違えるなって教えられてきたからね」

 そう言って遥を見ると、うつむき黙り込んでしまった。
 封鎖作業の間は顔を仮面で隠していた。これは素性が割れる事で、周囲に迷惑が掛かる事を危惧したからだ。隠さないが、素性は隠す事を選択した理由はもう一つある。いつの世にも居る血筋や成金等の無能な権力者達に良い様に利用されたくもないからである。

 「んで、これから如何する予定なんだ?」

 しばらくの沈黙の後、拳児がこれからどうするのかと言う質問をしてきた。

 「まずは葛飾区、恐らく発生場所は水元公園だと思うけど、封鎖の前に政府と話を付けたい」
 「どうやってさ?」
 「あんまり興味は無かったけどさ、国会議事堂、行った事はあるんだよね・・・」

 その言葉に、話を聞いていた全員が疑問顔を見せる。近くにあったリモコンで、テレビのチャンネルを国会中継に切り替えて、言葉にする。

 「中学の時に行ったんだよね。でも、思い付くまではあまり得るものの無い社会科見学だったと思っていたんだけど、少しだけ得るものはあったみたいだ。」

 そう言って、意識を国会中継に向けると、野党による政府の対応への批判が行われていた。「今はそんな事を言い合っている場合じゃないだろうに」と思ったが、放置して話を続ける事にした。

 皆に意見をもらいながら、政府に話を付ける作戦と話す内容を決めていった。
 ワープの魔法で本会議場に転移して、ますは中荻野を既に封鎖した事を全体に伝える。次に総理大臣を指名して、作業の方法について話し合いを持ち掛ける。そして最後にストーンサークルについての話をする。何らかの対処をしなければ、今後もまた魔獣を吐き出す可能性があるからだ。迷宮については「管理できれば資源が手に入るかも」と琴音が言っていたが、今は封鎖を最優先にするという事で、スムーズに話が進み、余裕があればその話もしてみるという事で話は終わった。
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