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第一章

新崎防衛戦・弐

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 「総員、戦闘用意」

 部隊に合流してすぐに少尉二人に状況を説明する。中型は殲滅し終わっているので、残りは小型が六千程だ。新崎の師団も戦闘中なので、今も残数は減り続けている。そして撃てば当たるという、正に訓練に打って付けの状況なのだ。魔力切れまで撃ち尽くしたとしても、避難出来る都市は目前にある。それに柾斗も弥生もまだ余力を残しているので、失敗してもフォロー出来る状態であった。

 「撃てー」

 指揮を任された少尉二人の号令で、訓練部隊三十二名が次々に魔弾バレットを撃ち放つ。撃ち放たれた魔弾バレットは次々に黒幻を消し去っていった。

 消えていく黒幻を見ながら、弥生と状況の確認をする。

 「大勢決しましたね?」
 「はい、残り三千程ですか。とは言え、こちらも限界は近いみたいですが」

 少尉二人はそれぞれが十六名ずつ率いて魔弾バレットで二方面攻略と言う作戦を取った。絶え間無く撃ち続けられる魔弾バレットで黒幻を消し去っていたのだが、既に大半の者が魔力切れ寸前で離脱していた。

 「中尉、余力はありますか?」
 「残り魔力は八千程です」

 中型の殲滅に使用した収束魔弾カノンは約六百発。収束率は二十魔弾バレットなので、消費魔力量は一万二千となる。柾斗の保有魔力は二万なので、未だ将官二人分に匹敵する魔力が残っている計算になる。

 「やはり桁違いですね。ですが、戦闘では頼りになります。中尉、全弾発射フルバーストを許可します。殲滅して下さい」
 「了解」
 「総員、後退」

 弥生の号令で、戦闘を継続していた部隊が後退を開始する。それと入れ替わる様に柾斗は前線に立った。

 「少佐、私達はまだいけますが?」

 少尉二人にはまだ余裕があった。二人の保有魔力は千を超えているからだ。
 大和皇国軍で魔弾師が最初に与えられる准尉の階級から昇進する為には、人格はもちろんだが、他にも保有魔力量の規定がある。次の階級である少尉の階級に上がるには、少なくとも保有魔力が千を超えていなければなれない。尉官級の間は千を超えている事で昇進が出来る。そして佐官への昇進となると保有魔力量の規定が二千となり、将官級に昇進するには三千以上の保有魔力が求められる。

 「士官が動けなくなるまで戦闘をするほどの状況ではありませんよ。余力を残しておいてください。それに、近い将来で確実に上官となる中尉の力を見ておくと良いでしょう」

 弥生は二人の少尉にそう言うと、視線を柾斗へと向けた。その視線を追って、少尉達の視線も柾斗に向けられた。


 「全弾発射フルバースト、発動」

 柾斗の前方やや上方に浮かんだ二千に及ぶ魔弾バレットの一斉射撃が、残り二千程となっていた黒幻に向かって撃ち放たれた。

 「なっ!?」
 「・・・」

 その光景は一瞬で戦場を支配してしまった。その場に居た大半の者が驚き固まる中で、続けて第二射、第三射が撃ち放たれた。


 「少佐、殲滅完了しました」
 「ご苦労様です、中尉」

 殲滅を確認して弥生の下に戻り報告をすると、労いの言葉が返って来た。

 「いやいやいや、ナンですかアレッ!?」
 「えっ、えっ!?現実?何?どうして?」

 混乱した少尉二人の質問に似た何かと共に。

 「全弾発射フルバーストですよ?」
 「そうじゃなくて、そうじゃなくってですね、えっと・・・」
 「いずれ中尉が上官、悪くない。あれっ、もう上官だった!?」

 絶賛混乱中の少尉二人を余所に、弥生が指示を出す。

 「新崎に向かいます。移動の準備を整えて下さい」

 驚きで固まっていた部隊員達は、とりあえず戦闘が終わった事に、そして生き残れた事に安堵の笑みを浮かべながら疲れた体を起こして移動の準備を始めた。



 「・・・夢か?」
 「いえ、現実です・・・」
 「前線に出てきたのは一人だったよな?」
 「はい、一人でした・・・」
 「一人で、あれを?」
 「たぶんですが、何とも言えません・・・」

 新崎魔導師団長の後藤は、柾斗の全弾発射フルバーストを見て驚きを禁じ得ないでいた。後藤だけではなく、戦場に居た全ての者が同様であった。

 「正体は分かったのか?」
 「皇北師団の新任師団長補佐で、草薙柾斗中尉との事です」
 「中尉?あれが?」
 「覚醒して、まだ一月ひとつき程らしいです・・・」
 「・・・」


 「団長、帰還命令をお願いします」

 弥生の号令で訓練部隊が行動を始めた事に気が付いた士官に促されて、後藤は自身の率いる師団が展開したままになっていた事に気が付いた。

 「撤収だ。各部隊長、指示を出せ」

 後藤は細かい事までは頭が回らず、各部隊長に任せると、何とか指示をする。

 「俺はここで援軍を出迎える。事後処理を頼む」

 後藤は横に居た副団長に続けて指示を出す。
 何とか表面上は冷静に振舞うものの、徐々に近づいてくる一団に先ほど見た光景がフラッシュバックする。後藤の心中は穏やかとはいかなかった。

 「とんでもねぇのが出て来たな・・・」

 一団がはっきりと視認出来るようになると、後藤の視線は自然と柾斗に向かってしまい、思わず声に出た感想を聞く者は居なかった。
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