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第一章
新崎防衛戦
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翌日の視察も特に何事も無く終了した。
明日は折り返し地点の中都市に向かう事になっている。中都市では士官にも完全休養日があるので、楽しみにしている。
部屋で視察の報告書を書き上げてから、明日の移動に備えて眠りについた。
午前九時に出発をして、昼過ぎには目的地まで残り半分の地点まで到着した。黒幻との戦闘も少なく、予定よりも順調に進む事が出来たのだ。
警戒しながら交代で昼食を取り、士官が集って残り半分のルートを確認する。残りのルート上に崖などの難所は無く、順調そのものであった。
ルートの確認も終了して、出発となった所で通信兵が弥生に緊急無線が入っている事を告げた。
「こちら、皇都北部魔導師団行軍訓練部隊、部隊長の片倉です。状況は?」
「こちらは新崎魔導師団本部です。当都市は現在黒幻の襲撃を受けています。規模は中規模程度ですが、中型が多数確認されています。至急援軍願います。繰り返します。当都市は・・・」
目的地の中都市、新崎からの援軍要請であった。
黒幻の襲撃は都市の規模によって三つに分類される。魔導師団員の人数の十倍までが小規模襲撃、五十倍までが中規模襲撃、それ以上は百倍までが大規模襲撃となっている。
中都市であれば、人口は約十万人、魔導師団員の定員は五百となっている。中規模襲撃となると、約二万五千の黒幻に襲撃を受けている事になる。
各都市の防衛戦力は、魔導師団員の人数×魔弾師の平均保有魔力÷小型黒幻の耐久力で表す。魔弾師の平均保有魔力は三百、小型の耐久力は三と定められている。中規模までなら余裕があり、大規模襲撃まで何とか対応可能と言う数値になるが、これは最高効率での数値であり、小型に対してのみの数値である。中型以降になると障壁の強度が格段に上がるため、魔弾でその障壁を撃ち破る事は出来ない。収束魔弾で障壁を撃ち破らなければ、ダメージを与える事すら出来ないのだ。収束魔弾を使えば消費魔力は跳ね上がり、そして使い過ぎれば余裕が無くなってしまう。その為、中規模襲撃であっても中型の数次第で援軍要請が出される事になっている。
「道中の戦闘が少なかったのはこれが原因でしたか・・・」
部隊長である弥生の指示を全員が待つ。数秒の待ち時間だったが、何故か長く感じてしまった。
「私と中尉が先行します。少尉二人には隊を率いてもらい後詰めを任せます」
「了解」
弥生の号令で全員がすぐに動き始めた。
新崎まではジープを飛ばして急いでも、まだ二時間半は掛かってしまう。
「中尉、今回は本当に頼りにさせてもらいます」
「出来る限り頑張ってみます」
弥生が後詰めとして部隊を率いる少尉に指示を出し終わるとすぐに出発をした。
「多いですね・・・」
「はい、結構残ってますね、中型も・・・」
先行した二人が、新崎を視認出来る場所まで到着した時、新崎は凡そ一万程の小型と三百程の中型の黒幻に襲撃を受けていた。
「小型は防壁で防げます。先ずは中型を仕留めて下さい」
「了解」
弥生の運転するジープから収束魔弾で中型を狙って仕留めていく。
二十の魔弾を収束した収束魔弾の二連射を受けた中型は次々に倒れ消えていった。
「おっ、おいっ、ジープだ。援軍が来た!」
「本当か?双眼鏡を貸せっ」
「ジープ、一台だけ?他は?・・・」
予定していたよりも早い援軍の到着に新崎の魔導師団に歓声が沸く。防壁から身を乗り出してその援軍がジープ一台、二人だけである事を知り、すぐに歓声は掻き消えてしまった。
「なっ、中型が・・・」
「すげぇ・・・」
一度は完全に沈黙した歓声が、再び徐々に大きくなる。
「収束魔弾だよな?」
「中型の障壁を破ってるんだから収束魔弾だろ。何言ってんだよ?」
「いや、そうじゃなくて、一体何発撃てるんだよ!?」
「は?」
百を超える中型が消え去り、柾斗が撃った収束魔弾は、すでに二百を超えていた。
「中型、最低でも十は収束しなきゃいけないんだよな?」
「だな・・・」
まだ撃ち続けられている状況から、最低でも保有魔力量は二千以上である事は誰の目にも明らかであった。
「無線では片倉少佐だと報告があったが、師団長補佐の少佐だけじゃなくて、師団長の結城少将も来ているのか?」
「団長!?」
「いえ、確かに部隊長は片倉少佐であると報告を受けています。少佐と同乗しているのは男である事は確認出来ていますが、詳細は不明です」
柾斗の撃ち放つ収束魔弾によって、中型は今も次々と姿を消していく。弥生の撃ち放つ魔弾も、既に小型を二百以上消し去っていた。
最大の懸念事項であった中型の三分の二が消えた所で新崎魔導師団長の後藤は決断を下した。
「ここが勝負時だ!総員に通達、魔導師団総攻撃!」
後藤の命令が通信兵によって全士官に通達され、都市側から雨の様に魔弾が降り注いだ。
「流石ですね、少佐」
「何がです?」
「位置取りに、運転しながら邪魔な小型の排除と、すべてを同時にこなしている事です」
「ありがとうございます。結構疲れますので、終わったら存分に労ってくれて構いませんよ?」
「紅茶とケーキを用意しますね」
二百を超える中型を仕留めた辺りで、二人には雑談をする余裕が持てるようになっていた。新崎の魔導師団が攻勢に出たからだ。都市側からの圧力が増した事で、二人に集まっていた黒幻のターゲットが分散されて動きやすくなり、殲滅速度は加速した。
「お疲れ様です。中型は今ので最後ですね。残りの小型ですけど、任せても問題なさそうですけど、どうしましょうか?」
「いえ、指揮官は少佐ですよ?何故自分に聞くんです?」
「流石に少し疲れてしまいましたし」
そこまで言うと、弥生は視線をある方向に向けた。弥生の視線を追うように見てみると、後詰めとして向かって来ていた訓練部隊の姿があった。
「訓練、いえ、特訓開始ですね!?」
「それは良い案です、中尉。少尉の二人に頑張ってもらう事にしましょう」
ちょっとした悪だくみに笑い合って、訓練部隊の下へと合流した。
明日は折り返し地点の中都市に向かう事になっている。中都市では士官にも完全休養日があるので、楽しみにしている。
部屋で視察の報告書を書き上げてから、明日の移動に備えて眠りについた。
午前九時に出発をして、昼過ぎには目的地まで残り半分の地点まで到着した。黒幻との戦闘も少なく、予定よりも順調に進む事が出来たのだ。
警戒しながら交代で昼食を取り、士官が集って残り半分のルートを確認する。残りのルート上に崖などの難所は無く、順調そのものであった。
ルートの確認も終了して、出発となった所で通信兵が弥生に緊急無線が入っている事を告げた。
「こちら、皇都北部魔導師団行軍訓練部隊、部隊長の片倉です。状況は?」
「こちらは新崎魔導師団本部です。当都市は現在黒幻の襲撃を受けています。規模は中規模程度ですが、中型が多数確認されています。至急援軍願います。繰り返します。当都市は・・・」
目的地の中都市、新崎からの援軍要請であった。
黒幻の襲撃は都市の規模によって三つに分類される。魔導師団員の人数の十倍までが小規模襲撃、五十倍までが中規模襲撃、それ以上は百倍までが大規模襲撃となっている。
中都市であれば、人口は約十万人、魔導師団員の定員は五百となっている。中規模襲撃となると、約二万五千の黒幻に襲撃を受けている事になる。
各都市の防衛戦力は、魔導師団員の人数×魔弾師の平均保有魔力÷小型黒幻の耐久力で表す。魔弾師の平均保有魔力は三百、小型の耐久力は三と定められている。中規模までなら余裕があり、大規模襲撃まで何とか対応可能と言う数値になるが、これは最高効率での数値であり、小型に対してのみの数値である。中型以降になると障壁の強度が格段に上がるため、魔弾でその障壁を撃ち破る事は出来ない。収束魔弾で障壁を撃ち破らなければ、ダメージを与える事すら出来ないのだ。収束魔弾を使えば消費魔力は跳ね上がり、そして使い過ぎれば余裕が無くなってしまう。その為、中規模襲撃であっても中型の数次第で援軍要請が出される事になっている。
「道中の戦闘が少なかったのはこれが原因でしたか・・・」
部隊長である弥生の指示を全員が待つ。数秒の待ち時間だったが、何故か長く感じてしまった。
「私と中尉が先行します。少尉二人には隊を率いてもらい後詰めを任せます」
「了解」
弥生の号令で全員がすぐに動き始めた。
新崎まではジープを飛ばして急いでも、まだ二時間半は掛かってしまう。
「中尉、今回は本当に頼りにさせてもらいます」
「出来る限り頑張ってみます」
弥生が後詰めとして部隊を率いる少尉に指示を出し終わるとすぐに出発をした。
「多いですね・・・」
「はい、結構残ってますね、中型も・・・」
先行した二人が、新崎を視認出来る場所まで到着した時、新崎は凡そ一万程の小型と三百程の中型の黒幻に襲撃を受けていた。
「小型は防壁で防げます。先ずは中型を仕留めて下さい」
「了解」
弥生の運転するジープから収束魔弾で中型を狙って仕留めていく。
二十の魔弾を収束した収束魔弾の二連射を受けた中型は次々に倒れ消えていった。
「おっ、おいっ、ジープだ。援軍が来た!」
「本当か?双眼鏡を貸せっ」
「ジープ、一台だけ?他は?・・・」
予定していたよりも早い援軍の到着に新崎の魔導師団に歓声が沸く。防壁から身を乗り出してその援軍がジープ一台、二人だけである事を知り、すぐに歓声は掻き消えてしまった。
「なっ、中型が・・・」
「すげぇ・・・」
一度は完全に沈黙した歓声が、再び徐々に大きくなる。
「収束魔弾だよな?」
「中型の障壁を破ってるんだから収束魔弾だろ。何言ってんだよ?」
「いや、そうじゃなくて、一体何発撃てるんだよ!?」
「は?」
百を超える中型が消え去り、柾斗が撃った収束魔弾は、すでに二百を超えていた。
「中型、最低でも十は収束しなきゃいけないんだよな?」
「だな・・・」
まだ撃ち続けられている状況から、最低でも保有魔力量は二千以上である事は誰の目にも明らかであった。
「無線では片倉少佐だと報告があったが、師団長補佐の少佐だけじゃなくて、師団長の結城少将も来ているのか?」
「団長!?」
「いえ、確かに部隊長は片倉少佐であると報告を受けています。少佐と同乗しているのは男である事は確認出来ていますが、詳細は不明です」
柾斗の撃ち放つ収束魔弾によって、中型は今も次々と姿を消していく。弥生の撃ち放つ魔弾も、既に小型を二百以上消し去っていた。
最大の懸念事項であった中型の三分の二が消えた所で新崎魔導師団長の後藤は決断を下した。
「ここが勝負時だ!総員に通達、魔導師団総攻撃!」
後藤の命令が通信兵によって全士官に通達され、都市側から雨の様に魔弾が降り注いだ。
「流石ですね、少佐」
「何がです?」
「位置取りに、運転しながら邪魔な小型の排除と、すべてを同時にこなしている事です」
「ありがとうございます。結構疲れますので、終わったら存分に労ってくれて構いませんよ?」
「紅茶とケーキを用意しますね」
二百を超える中型を仕留めた辺りで、二人には雑談をする余裕が持てるようになっていた。新崎の魔導師団が攻勢に出たからだ。都市側からの圧力が増した事で、二人に集まっていた黒幻のターゲットが分散されて動きやすくなり、殲滅速度は加速した。
「お疲れ様です。中型は今ので最後ですね。残りの小型ですけど、任せても問題なさそうですけど、どうしましょうか?」
「いえ、指揮官は少佐ですよ?何故自分に聞くんです?」
「流石に少し疲れてしまいましたし」
そこまで言うと、弥生は視線をある方向に向けた。弥生の視線を追うように見てみると、後詰めとして向かって来ていた訓練部隊の姿があった。
「訓練、いえ、特訓開始ですね!?」
「それは良い案です、中尉。少尉の二人に頑張ってもらう事にしましょう」
ちょっとした悪だくみに笑い合って、訓練部隊の下へと合流した。
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