俺は猫であり父である

佐倉さつき

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第4章 娘は大人の階段を上り中?

進路志望

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明莉の初恋は、失恋に終わった。
明莉に彼氏ができたら、絶対ヤキモキするのは目に見えているのに、初恋が実らなかったことを俺は一緒に悲しんでいた。
幸い、次の日には自分の部屋を出て学校に行き、日が経つにつれて笑顔が戻ってきた。
妻も、明莉の様子がおかしいことには気づいていたが、明莉には何も訊ねなかった。
その分、俺は話し相手をさせられることになったが。
その後、明莉の口から恋の話が出てくることはなかった。
だから、明莉に好きな人がいるのかどうか、わからない。



わからないままに月日は流れ、明莉は中学三年生になっていた。
六月の地区大会に敗れてバスケ部を引退した。
受験勉強に集中することになる夏休みを目前に控えたある日。
「進路志望調査票を家で相談して提出しないといけないんだけど・・・」
夕食後、妻と一緒に食器の片付けをしながら明莉が言った。
「明莉は、どの高校に行きたいの?」
妻が食器の汚れをざっと洗い流し、食器洗い機に入れながら訊ねた。
「それが悩んでるんだよね。A校に行けたらいいなと思うんだけど、私の成績だと無理だよね?」
「無理かどうかは、まだわからないわよ。受験までは、まだ半年はあるし・・・」
「うん、でも自信ないんだよね。それよりは、無難にB校の方がいいかな。友だちもたくさん行くって言ってるし、家から近いし・・・」
「そうね。悩むわね。大事なことだから、明莉、片付けが終わってから、座って話そう。」
「えっ、でもママ、締め切り前で仕事が忙しいって言ってたじゃない。」
「何言ってるの。明莉の進路の方が大事に決まってるでしょう。」
そして、妻と明莉は片付けをさっと終わらせた後、お菓子と飲み物を用意してダイニングチェアーに座った。

「さっきの話だけど、明莉はA校とB校で悩んでるの?」
カフェオレを飲みながら、妻が訊ねた。
「うん。あと、調査票には第三志望まで書かないといけないから、あと一つをどこにするか悩んでる。」
「そうか・・・。さっき、B校の方がいいと思う理由を言っていたけど、A校に行けたらいいなと思うのはなんで?」
「A校の方がレベルが高いでしょう。だから、いい大学に入りやすいかなと思って。」
「明莉は、大学に行きたいの?」
「うん。」
「フフ、明莉、変わったね。前は勉強が嫌いで、高校もどうでもいいって感じだったのに。」
「もう、昔のことは言わないで。ママは、本当に意地悪なんだから。」
明莉が拗ねた口調で言った。
その様子を見て、妻は楽しんでいるように見える。

「フフ、ママは嬉しいのよ。明莉が先のことまで考えてくれてるから。明莉は将来、なりたい職業があるの?」
「うーん。将来の夢は、決まってないんだ。だけど、大学を出ていないと、なれない職業もいっぱいあるでしょう。大学に行こうと思ったら行けるような力をつけておきたいんだ。」
「そうか・・・もし、明莉が外国で仕事をしたり、いろいろな国の人と一緒に仕事をしたりしたいと思うんだったら、国際交流に熱心なⅠ校もいいんじゃない?」
「Ⅰ校⁉めっちゃお金がかかるじゃん!」
「お金のことは心配しなくてもいいわよ。明莉が本当にしたいことなら、ママは応援するわよ。そのために頑張って働いてるし、節約もしてるから。」
「だけど、外国でっていうことは考えてないからいい。」
「そうか。じゃあ大学に行きたいということは、実業系の学校はなしでいいかな?」
「うん。」
「大学のことを考えたら、A校かしらね?」
「そうなんだけど、みんながB校に行くのに、一人だけA校って言いにくいよね・・・」
「だけど、みんなが高校卒業後も同じ進路に進むわけじゃないでしょう。B校でも、頑張れば大学に行けるし、それでもいいかもしれないけど、その時は一人だけ一生懸命勉強しないといけない可能性が高いわ。今、人と違うことをするか、高校に入ってから違うことをするかという問題だと思うけど。」
「そうだよね・・・。」
明莉の悩みは、すぐには結論が出そうにない。
「まだ提出期限までは日にちがあるから、じっくり考えたらいいんじゃない?明莉が本当に行きたい学校を第一志望にしてほしいから、本当に行きたい学校はどこか自分の心と相談してごらん。ママも、いつでも相談にのるから。」
「そうする。ママ、ありがとう。」
そう言うと、明莉はゆっくりマグカップの中の紅茶を飲み干し、席をたった。
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