俺は猫であり父である

佐倉さつき

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第4章 娘は大人の階段を上り中?

勉強する理由

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夏休みの補習で懲りたのか、二学期の明莉は一学期よりも勉強時間が増えた。
時々、テスト期間中に漫画を読むことはあったが、一学期のようにずっと読み続けるこということはなくなった。

妻は、テスト期間中は家に早く帰ってくるようになった。
明莉のお手伝いをなくし、勉強に集中させてあげたいと考えたのだろう。
といっても、妻の仕事量が減ったわけではないので、夕食後に持ち帰った仕事をダイニングテーブルでしていた。
そこに明莉がやってきて、わからないことを聞くこともあった。

俺はというと・・・
明莉がイライラしている時や、気分転換をしている時に、捕まえられてソファーに一緒にダイブさせられたり、お腹をわしゃわしゃとくすぐられたりしていた。
言わば、ストレス発散要因といったところだろうか・・・。

そして、今日は冬休み初日。
個人懇談があり、二学期の成績を妻がもらってきた。
「明莉、成績を渡すわね。」
家に帰ってきた妻が、リビングのソファーで待っていた明莉に成績表を渡した。
「もう、なかなか帰ってきてくれないんだから。ドキドキしすぎて疲れちゃった。」
「フフフ、でも二学期はドキドキすることないんじゃない?中間テストの点も、期末テストの点も、一学期に比べたら上がったでしょう?」
「そうだけど・・・ドキドキするものは、ドキドキするの!」
明莉はそう言うと、膝の上に成績表を置き、手を合わせて神様に祈る。
そして、恐る恐る成績表を開いた。

「よかったー。全部上がってたー。」
成績表を持ったまま両手を上に上げて、明莉が喜ぶ。
「よかったわね。先生もよく頑張ってるって仰ってたわよ。パパにも見せてあげたら。」
「うん。」
明莉は、もう一度じっくりと成績表を見た後、仏壇に成績表を置いた。
「パパ、二学期は頑張ったからね。一学期のところは見ないで、二学期のところだけ見てね。」
そう言えば、一学期は成績表を見終わった後、自分の部屋に持っていってそのままだったっけ。
やっぱり一学期の成績は自分でも恥ずかしいと思っていたんだろう。



その日の夕食は、明莉の好きなオムライスだった。
食後には、ケーキも用意されていた。
「二学期の成績を見た感想は?」
モンブランを食べながら妻が訊ねた。
「嬉しいし、ホッとしたかな。」
チョコレートケーキを食べながら明莉が答えた。
「心配だったの?」
「うん。頑張ったのに、上がらなかったらどうしようって思ってた。」
「そう。世の中には、頑張ったのにどうしてって思うこともあるけど、頑張ったことは決して無駄にならないと思うわ。」
「うん。だけど、正直、テスト勉強してる時は、数学なんて勉強して何になるんだろうって思いながらやってた。」
「そうね。私も学生の頃は、こんなこと勉強して将来、何の役に立つのって思ってたかも。」
「ママも?」
「そうよ。大人になったら、落ち着いて考えることもできるけどね。例えば、料理のレシピが三人分で書かれていたとするね。それを二人分や四人分、五人分作るためには、材料がどれだけ必要になるか計算するのに、関数や方程式の考え方は使ってる気がするわ。ふだん意識していないし、そんなに難しいことしなくても算数の計算でできるかもしれないけどね。」
「そうか。意識しないで使ってることってあるかもね。」
明莉も納得した様子で頷いている。
「それに明莉、一学期には高校なんてって感じだったけど・・・」
「えっ、そんなこと言ってない。」
妻の話の途中で明莉が慌てて否定する。
「まあまあ、落ち着いて。新聞の広告に求人情報があるから、応募資格がどうなってるか見てごらん。」
妻に言われて、明莉は新聞の広告を見る。
「あっ、高卒や大卒、短大卒ばっかりだ。」
「そうでしょう。中卒でいいっていう募集は、目にすることがないわ。探したらあるのかもしれないけどね。だから、頑張っても報われないこともあるかもしれないし、無駄に思えるかもしれないけど、勉強するって大事なことなのよ。」
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