俺は猫であり父である

佐倉さつき

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第3章 娘は難しいお年頃?

卒業式

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「卒業証書 西本明莉 小学校の全過程を修了したことを証する・・・」

仏壇の前で、明莉がもらったばかりの卒業証書を読み上げている。
今日は、明莉の卒業式。
俺が猫として、この家に帰ってきてから四年半が経った。
俺は人間でいうと、三十四歳くらいになった。
猫として生まれて四年半しか経っていないのに、人間として生きていた時の年齢を超えているのは不思議な感じがする。

「あなた、明莉が小学校を卒業しました。大きくなったでしょう。四月からは中学生になるのよ。」
「パパ、いつも見守ってくれて、ありがとう。これからも、よろしくね。」
妻と明莉が俺の遺影に話しかけている。
それを猫の姿になった俺が、近くで聞いているのも変な感じだ。

「俺の方こそ、ありがとう。明莉が成長していく様子を見ることができて、嬉しかったよ。ママ、明莉を一人で立派に育ててくれて、ありがとう。」
二人に伝えたいことがあるのに、今の俺は猫で、「ニャー」と鳴くことしかできない。
こんなにも近くにいるのに、自分の思いを伝えることができないなんて、もどかしい。

だけど、猫として戻ってこれたから、明莉の成長を間近で見ることができた。
仕事人間だった俺は、生きていたら朝早く出勤して夜遅くに帰宅する生活を続けていただろう。
明莉の些細な変化や成長の様子に気づかなかったかもしれない。
妻と娘の話を聞くこともなかっただろう。
きっと「パパには内緒。」とか「パパはあっちに行ってて。」とか言われて、追い払われていただろうな・・・

俺は複雑な気持ちで、ペットの猫として一緒に過ごした四年半のことを思い出していた。
明莉が六の段と七の段に苦戦しながらも、妻と一緒に繰り返し練習して九九を唱えられるようになったこと・・・
クラスの男の子に「おばあさん」とからかわれるのが嫌で、発表会の劇の練習を嫌がっていたけど、立派に演じきったこと・・・本物のおばあさんのように上手だったな・・・
林間学校の時には、妻と二人で明莉のことを心配していたのに、明莉は元気に帰ってきたこと・・・明莉は親離れできていたのに、俺と妻が子離れできていなかったんだろうな・・・
バレンタインデーには、毎年のようにドキドキさせられたな・・・結局、まだ明莉には好きな男の子はいないらしく、六年生のバレンタインデーも平和に過ぎていったけど・・・



「明莉は、中学生になったら、何を頑張りたいの?」
妻が訊ねた。
「えっとねー、好きな人を見つけたい!」
えー⁉そこは、部活を頑張りたいとか、友だちをたくさん作りたいとか、将来の夢に向かって勉強を頑張るとか言ってくれ。
「ははは、いい人が見つかるといいね。」
「もう、ママ、笑いごとじゃないよ。小学校では好きな人がいなくて、『お子ちゃま』扱いされたんだもん。いい人がいなかっただけなのに・・・だから、別の小学校から来る人をチェックして、いい人を見つけて『お子ちゃま』を卒業するの!」
「ははは、頑張ってね。」
妻の乾いた笑い声がダイニングに響いていた。

はあ、これからも明莉のことでドキドキさせられる日々が続きそうだ・・・
でも、ひとまず・・・

明莉、小学校卒業おめでとう!
中学校に行っても、頑張ってね!
(部活とか、勉強とか・・・)
これからも、ずっと応援しているよ!
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