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ふれる

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「なんでコイツ自分を呪ってんの?」

再度呼び出されたアローネは眠るラナティンを見て怪訝な顔をした。

「それが分かれば君を呼んでいないよ」

憔悴しきったマリファはラナティンよりも重病に見えた。
智慧を与えてきたマリファは不可解な現状をひどく恐れた。
叡知を司るマリファは先が見えないということに怯えていた。

──直接呪うよりも効果的だな。

今にも死にそうなマリファの青白い顔を見て、アローネはこう思った。

「そもそもさー、なんで神様はちっぽけな人間の子供をこんなに大それた神にしちゃったの?」
「いつもなら適当なところで地上に帰してるんでしょ? なんでこの子は神の仲間に選ばれたの?」

呼んでもないのにアローネにくっついてきた双子が聞く。

「仲間として選んだわけではないよ。あの朝、大人になった彼を私は地上へと帰そうと思ったし。実際、晴れ晴れと送り出すつもりだった」
「じゃあなんで、コイツを神にしたんだ。眷属ならともかく神だぞ。気軽にやれるもんじゃない」

返答次第ではマリファとラナティン、両方の首をはねる覚悟でアローネは聞いた。

「理由だね。そう。理由か。僕にもよく分からないんだ」

アローネの内に業火の如く殺気が渦巻く。

「ごめんよ。ふざけているわけじゃなくてね」

智慧の神を名乗りながら分からないなどと開き直るマリファを如何様にしてやろうかと青筋をたてるアローネ。
それでもマリファの話を聞くために怒りを押し止めたのはアローネの両腕にぶら下がった双子の重みだった。

「順番に説明しよう。あの朝、彼は精通して大人になったから僕はおめでとうと祝ったんだ。けれども、彼はそれを喜ばしく思わなかったらしい。おかしいよね。目出度いことなのに」
「お前、それ本気で言ってるのか?」

少年がマリファに育ての親として以上の特別な情を抱いていたのはアローネでも知っていた。
少年は隠そうとしていたけれども、ちょっとした仕草や視線でその心の内が隠しきれていない。
色恋を司るアローネにとってはただ漏れに等しい状態だった。
それは共に過ごすマリファにとっても同じ。
知っていてはぐらかしているのだと思っていたが。
そんな少年にとって大人になることはマリファとの別れを意味する。全く目出度くない。

──鈍感にも程があるだろっ。

「鬼畜だねー。いたいけな子供の心を弄んで」
「心だけじゃなくて身体まで弄ぶだなんて趣味悪いよ」

双子はマリファを強く非難するつもりはなく、ふざけてわざと強い言葉で責め立てた。
本気にしたマリファは慌てて弁明する。

「私はそのようなつもりではなくて」
「じゃあ、どんな心積もりでコイツを抱いたんだ?」
「死んでしまったら聞けないだろう? 食を断った理由を。だから生かしたんだ。ちょっと、その、いろいろとあったけど、彼は生きてる。なのに眠っているのが不思議で堪らない」

途中、個人的に不都合な部分を言い淀みながらマリファは説明した。とても自分勝手な理由を。

「もしかしなくても今からコイツを目覚めさせる理由も……」
「教えて欲しいんだ。彼が何を思い行動しているのか」

マリファの輝く笑顔にアローネは目眩を覚えた。
この無邪気な神は知りたいという欲求だけで新たな神を誕生させたというのだ。
これでは巻き込まれた少年も可哀想だ。

──呪うなら自分じゃなくて、このど阿呆を呪えよ。

アローネは深くため息をついた。
けれどもアローネには、さてこれからどうするかと悩む暇も与えられない。
それよりも先にマリファが行動を起こした。

「呪いといえば、古今東西様々な伝承があるけれど。とりあえず口付けてみようか」

ふと、思い立ったという様子でマリファが眠るラナティンの頬に手を添える。

「えー。お姫様を起こすのは王子様のキスだよー。鬼のキスじゃないしー」
「より呪いが強くなるだけだからやめなよ。変態。自分がチューしたいだけでしょ」

双子のブーイングを無視してマリファはラナティンの唇に触れた。
はじめは軽く。すぐにそれだけでは物足りないと口付けは深くなっていく。
ねっとりと吸われてわずかに開いたラナティンの唇の隙間にマリファは己の舌を捩じ込んだ。

日の光が射し込む清潔な寝室に馴染まない、艶やかな水音。
見目麗しき神々の睦み合いに双子はキャーキャーとはしゃいだ。
アローネはもうどうにでもなれと天を仰いだ。
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