時計台で会いましょう

いちむら

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17·時計台で君と

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足が痛い。

入学式には赤い服を着ていくと言ったら。
母親がプラダで服と靴を買ってきた。
俺は赤いジャージで参加するつもりだったのに。

父親と姉もジャージは良くない、母の選んだ服を着ろと煩いので、仕方なくプラダを着ている。

その結果が、現在の靴擦れによる足の痛みだ。
おろしたての靴が痛い。

それもこれも、すべてエリスが悪いんだ。
時計台で会う約束をしたとき。
お互いの目印が必要だとなった。

◯☓オックスのアバターは赤い鎧だから赤い服を着てください。私は白い服にロザリオを付けていきます」

エリスがそう言ったから。
俺は入学式に赤い服を着ることになって。
足に合わない靴を履くはめになった。

「見てんじゃねえよ。チー牛」

先程から俺をチラチラと見ている気色悪いオタクに怒鳴る。
ナンパならさっさと声かけてこい。
3秒で切り捨ててやるよ。

「……◯☓オックス?」

チー牛が俺の名前を呼んだ。
もしかして……。

「エリスか?」

俺の名前を呼んだオタクの姿を観察する。
今どき、中学生でも着ないようなダサい英文字と十字架がプリントされた白いTシャツを着ていた。

「クソだせえな」
「すみません」

別に謝れとは言ってねえ。
ダサいことを受けいれろ。
そして二度とその服は着るな。

◯☓オックスはすごく綺麗です」
「母親が調子に乗って買ってきたんだよ」

質が悪いものではないけれど、入学式に着てくるものでもなかった。
人目は集めるし、テレビに取材されるし、最悪だ。

「とりあえず、ご飯に行きませんか?」

大学の近くに旨い焼肉屋があるとエリスは言った。

「すみません。チー牛と飯とか嫌ですよね」

俺が黙ったままでいたら、エリスは悲しそうな顔をした。
そんな顔をさせるつもりはないんだ。

「違う。足が痛い」
「足?」

エリスが僕の足元を見る。
真っ赤なピンヒールは立っているので限界だった。
もう一歩も歩けない。

「サンダル買ってくるから待ってて」
「そんなの売ってるのか?」
「前に生協で見ました」

それなら早く買ってきて。

息を切らせたエリスが帰ってきたのは10分後だった。遅い。

「なんでキティちゃんなんだよ」

エリスが買ってきたのは、今どきギャルでも履かないような、ピンク色のキティちゃん健康スリッパ。

「すみません。サイズ的にこれしかなかったです」

男女差別反対。

「まあ。いいや。肉の前に着替えたい」

ワンピースの裾がスースーして気持ち悪い。
母親が何を思ったのか、シルクのワンピースなんてふざけたものを用意したせいで、今日は散々だ。

「着替えちゃうんですか? 似合ってるのに」
「似合ってるかな?」
「すごく似合ってます」

エリスがそう言うなら。

「じゃあ、着替えなくてもいい」

ハイヒールさえなんとかなれば歩ける。

「遅くなったけど。◯☓オックス、入学おめでとうございます」
「ありがとう」

今夜は死ぬほど肉を奢らせてやる。
俺の京都大学入学と二十歳の誕生日を祝えることを誉れに思え。
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