恋愛サティスファクション

くらげ

文字の大きさ
上 下
441 / 469
拡張フロント

ひらめきオーダー6

しおりを挟む
きちんと寝たのに寝た気がしない。
身体が重い。
朝の検温は問題なかった。
これは気持ちの問題だ。

昨日は1日圭介さんと一緒に過ごした。
デートをして、ご飯を作って食べた。
ふたりでお風呂にも入ったし、同じ布団で眠った。
だけど、エッチなことはなにもなかった。

僕、ちょっと期待してたんだけど!?
だって圭介さんも「今日の唯は俺だけのもの!」って玲司君に威嚇してたし。
そういう独占欲を向けられたら、夜も求められるのかなって思うじゃん。

もしかして、僕、魅力ない?
玲司君とも全然そういうのないし。

こういうときってどうしたらいいんだろう。
とりあえずいつもはメンズのスーツだけど今日はレディーススーツを着てみよう。
濃いネイビーのノーカラージャケット。
白いシルクのブラウス。
タイトな膝丈スカート。
キレイめOLモードの僕に雑務は全てお任せ。

「今日のサクちゃんは別嬪さんだなー」

朝食のときにお義父さんが褒めてくれた。
その褒め言葉は鈴村さんにも使われる。
とっても嬉しい。

食後、離れの洋館に出勤する靴を選ぶため玄関に向かう。
なぜか、お義父さんもついてきた。
一緒に選びたいのかな?

「このリボンが付いたやつ可愛いなー」
「可愛すぎません?」

今日の僕は気持ちだけでもキャリアウーマンなんです。

「それならこっちはどうだ?」

お義父さんが7センチヒールのポインテッドパンプスを指差す。
でも、なんか違う。

結局、ミドルヒールのプレーンなやつに決めた。
お仕事に過剰なお洒落は不要です。

離れにまでついてきたお義父さんは何をするでもなく僕の働く姿を見ていた。
時々、スマホで写真も撮っている。
なにが楽しいんだ?

「保さんはさっくんがいきいき働いてるのを見るのが楽しいんだよ」

僕の疑問に壁やんが答えてくれた。

「他に楽しみを見つけるべきだ」
「さっくんが保さんの生き甲斐みたいなものだから」

親子で重たい。

ずっと見られているのは気が散るから二上さんを呼んでお義父さんを屋敷に連れ帰ってもらおう。
うなだれる後ろ姿がいつもより小さく見える。
なんだか可哀想になってきた。

「今は仕事中だから無理ですが、今夜はお酌しましょうか?」

女の子な僕が好きなら、あとでいくらでも相手をするよ?

「そいつは楽しみだー」

お義父さんは夜まで体力を温存するとウキウキ帰っていった。
人生楽しそうでなによりだよ。

「本当にいいの?」

壁やんが心配そうにしてる。

「夏のひきこもり中もよくキャバクラごっこをやってたんだ。お義父さんが外に飲みに行けないのは辛いっていうから」

僕はキャストの女の子の代わり。
それもたくさんある仕事の1つだった。

「セクハラされたら相談してね。僕じゃなくても楓さんとか誰でも話しやすい人に」
「えー。セクハラとかされたことないし。壁やんは気にしいだなあ」

普段と変わらない勤務時間。
大量の紙の山。目が滑る数字の羅列。
壁やんの講義を聞いて整頓していく。

夕方5時、終業時間。
資料を片付けて屋敷に戻ると、玄関でお義父さんが出迎えてくれた。

「あのなー、儂、サクちゃんにコレ着て欲しくてなー」

仕事終わりの僕にお義父さんがおずおずと差し出したのはピンク色のマイクロミニ丈チャイナドレス。
夜のキャバクラごっこで着たら良いの?
それぐらいお安い御用だよ。
すぐに着替えてくるからお座敷で待っててね。

「今夜もご指名いただきありがとうございます。いっぱいお話し聞かせてください」

行ったことないキャバクラをイメージだけで演じる。
お義父さんは僕がチャイナドレスを着て隣に座るだけで満足してる。
圭介さんも着替えた時にセルフィー撮ってメールしたら、すごくテンション高い返事がきたし。
親子揃ってチョロいな。

そもそもキャバクラって多分ご飯を食べるところじゃない。
だけど僕はアツアツ小籠包を食べながら、お義父さんの話を聞いている。
ここはなんちゃってコスプレキャバクラ。

「100メーター道路は儂が作ったんだよー」

酔ったお義父さんの十八番。
名古屋の広い道路を戦後復興で作った話。

「墓石1つ1つに手ぇ合わせて運んだんだよー」

都市計画のなかにあった墓地の移転。
戦災孤児だったお義父さんは土木工事現場で毎日日雇いの仕事をしていた。
その中でとくに印象に残っているのが、リアカーに乗せた墓石を押して運んだこと。

僕は今の綺麗な名古屋の街だけを見て東京と同じだと思ってた。
でも、お義父さんから運んだ砂利を敷いて道を作った話を聞いてからは全然違う街だって分かった。

お義父さんの右手が僕の太ももを撫でる。
痴漢でしかないのに、僕は止めなかった。
たくさんの人を背負ってきたお義父さんの手のひら。
良いことばかりではない、悪いことにも手を出してきた。

本人同士が納得しているから僕がとやかく言うことではないと納得はしたけど。
僕は心のどこかで未成年の鈴村さんに売春をさせていたことを許せないでいる。

だけど言葉にはしない。
態度にも出さない。
今だって僕の足に触れるのが人生のご褒美だと嬉しそうにしているのを許している。

「お義父さんってズルい人ですよね」

調子に乗って膝枕でくつろぐ頭をそっと撫でる。
こんなに行儀の悪い人、嫌いになれたら楽なのに。

お金の流れの隠れた裏側も全て見れば僕でも気づく。
巧妙にいくつもの団体をすり抜けて、広域指定暴力団鞘間組にお金が渡されている。

圭介さんのお兄さん、樹さんが会長を務める小峠会だけじゃない。
組全体にまるで酸素のように行き渡る資金。
お義父さんや鈴村さんみたいな元ヤクザではない、現役のヤクザを養うためのお金も圭介さんは集めていた。

表向きには“正しい”会計資料。
その裏に隠れていた資金洗浄の方法。
僕は開けてしまったパンドラの箱から希望を見つけられるのだろうか。

胸の奥。燻る不安に蓋をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

処理中です...