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ひらめきオーダー6
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きちんと寝たのに寝た気がしない。
身体が重い。
朝の検温は問題なかった。
これは気持ちの問題だ。
昨日は1日圭介さんと一緒に過ごした。
デートをして、ご飯を作って食べた。
ふたりでお風呂にも入ったし、同じ布団で眠った。
だけど、エッチなことはなにもなかった。
僕、ちょっと期待してたんだけど!?
だって圭介さんも「今日の唯は俺だけのもの!」って玲司君に威嚇してたし。
そういう独占欲を向けられたら、夜も求められるのかなって思うじゃん。
もしかして、僕、魅力ない?
玲司君とも全然そういうのないし。
こういうときってどうしたらいいんだろう。
とりあえずいつもはメンズのスーツだけど今日はレディーススーツを着てみよう。
濃いネイビーのノーカラージャケット。
白いシルクのブラウス。
タイトな膝丈スカート。
キレイめOLモードの僕に雑務は全てお任せ。
「今日のサクちゃんは別嬪さんだなー」
朝食のときにお義父さんが褒めてくれた。
その褒め言葉は鈴村さんにも使われる。
とっても嬉しい。
食後、離れの洋館に出勤する靴を選ぶため玄関に向かう。
なぜか、お義父さんもついてきた。
一緒に選びたいのかな?
「このリボンが付いたやつ可愛いなー」
「可愛すぎません?」
今日の僕は気持ちだけでもキャリアウーマンなんです。
「それならこっちはどうだ?」
お義父さんが7センチヒールのポインテッドパンプスを指差す。
でも、なんか違う。
結局、ミドルヒールのプレーンなやつに決めた。
お仕事に過剰なお洒落は不要です。
離れにまでついてきたお義父さんは何をするでもなく僕の働く姿を見ていた。
時々、スマホで写真も撮っている。
なにが楽しいんだ?
「保さんはさっくんがいきいき働いてるのを見るのが楽しいんだよ」
僕の疑問に壁やんが答えてくれた。
「他に楽しみを見つけるべきだ」
「さっくんが保さんの生き甲斐みたいなものだから」
親子で重たい。
ずっと見られているのは気が散るから二上さんを呼んでお義父さんを屋敷に連れ帰ってもらおう。
うなだれる後ろ姿がいつもより小さく見える。
なんだか可哀想になってきた。
「今は仕事中だから無理ですが、今夜はお酌しましょうか?」
女の子な僕が好きなら、あとでいくらでも相手をするよ?
「そいつは楽しみだー」
お義父さんは夜まで体力を温存するとウキウキ帰っていった。
人生楽しそうでなによりだよ。
「本当にいいの?」
壁やんが心配そうにしてる。
「夏のひきこもり中もよくキャバクラごっこをやってたんだ。お義父さんが外に飲みに行けないのは辛いっていうから」
僕はキャストの女の子の代わり。
それもたくさんある仕事の1つだった。
「セクハラされたら相談してね。僕じゃなくても楓さんとか誰でも話しやすい人に」
「えー。セクハラとかされたことないし。壁やんは気にしいだなあ」
普段と変わらない勤務時間。
大量の紙の山。目が滑る数字の羅列。
壁やんの講義を聞いて整頓していく。
夕方5時、終業時間。
資料を片付けて屋敷に戻ると、玄関でお義父さんが出迎えてくれた。
「あのなー、儂、サクちゃんにコレ着て欲しくてなー」
仕事終わりの僕にお義父さんがおずおずと差し出したのはピンク色のマイクロミニ丈チャイナドレス。
夜のキャバクラごっこで着たら良いの?
それぐらいお安い御用だよ。
すぐに着替えてくるからお座敷で待っててね。
「今夜もご指名いただきありがとうございます。いっぱいお話し聞かせてください」
行ったことないキャバクラをイメージだけで演じる。
お義父さんは僕がチャイナドレスを着て隣に座るだけで満足してる。
圭介さんも着替えた時にセルフィー撮ってメールしたら、すごくテンション高い返事がきたし。
親子揃ってチョロいな。
そもそもキャバクラって多分ご飯を食べるところじゃない。
だけど僕はアツアツ小籠包を食べながら、お義父さんの話を聞いている。
ここはなんちゃってコスプレキャバクラ。
「100メーター道路は儂が作ったんだよー」
酔ったお義父さんの十八番。
名古屋の広い道路を戦後復興で作った話。
「墓石1つ1つに手ぇ合わせて運んだんだよー」
都市計画のなかにあった墓地の移転。
戦災孤児だったお義父さんは土木工事現場で毎日日雇いの仕事をしていた。
その中でとくに印象に残っているのが、リアカーに乗せた墓石を押して運んだこと。
僕は今の綺麗な名古屋の街だけを見て東京と同じだと思ってた。
でも、お義父さんから運んだ砂利を敷いて道を作った話を聞いてからは全然違う街だって分かった。
お義父さんの右手が僕の太ももを撫でる。
痴漢でしかないのに、僕は止めなかった。
たくさんの人を背負ってきたお義父さんの手のひら。
良いことばかりではない、悪いことにも手を出してきた。
本人同士が納得しているから僕がとやかく言うことではないと納得はしたけど。
僕は心のどこかで未成年の鈴村さんに売春をさせていたことを許せないでいる。
だけど言葉にはしない。
態度にも出さない。
今だって僕の足に触れるのが人生のご褒美だと嬉しそうにしているのを許している。
「お義父さんってズルい人ですよね」
調子に乗って膝枕でくつろぐ頭をそっと撫でる。
こんなに行儀の悪い人、嫌いになれたら楽なのに。
お金の流れの隠れた裏側も全て見れば僕でも気づく。
巧妙にいくつもの団体をすり抜けて、広域指定暴力団鞘間組にお金が渡されている。
圭介さんのお兄さん、樹さんが会長を務める小峠会だけじゃない。
組全体にまるで酸素のように行き渡る資金。
お義父さんや鈴村さんみたいな元ヤクザではない、現役のヤクザを養うためのお金も圭介さんは集めていた。
表向きには“正しい”会計資料。
その裏に隠れていた資金洗浄の方法。
僕は開けてしまったパンドラの箱から希望を見つけられるのだろうか。
胸の奥。燻る不安に蓋をした。
身体が重い。
朝の検温は問題なかった。
これは気持ちの問題だ。
昨日は1日圭介さんと一緒に過ごした。
デートをして、ご飯を作って食べた。
ふたりでお風呂にも入ったし、同じ布団で眠った。
だけど、エッチなことはなにもなかった。
僕、ちょっと期待してたんだけど!?
だって圭介さんも「今日の唯は俺だけのもの!」って玲司君に威嚇してたし。
そういう独占欲を向けられたら、夜も求められるのかなって思うじゃん。
もしかして、僕、魅力ない?
玲司君とも全然そういうのないし。
こういうときってどうしたらいいんだろう。
とりあえずいつもはメンズのスーツだけど今日はレディーススーツを着てみよう。
濃いネイビーのノーカラージャケット。
白いシルクのブラウス。
タイトな膝丈スカート。
キレイめOLモードの僕に雑務は全てお任せ。
「今日のサクちゃんは別嬪さんだなー」
朝食のときにお義父さんが褒めてくれた。
その褒め言葉は鈴村さんにも使われる。
とっても嬉しい。
食後、離れの洋館に出勤する靴を選ぶため玄関に向かう。
なぜか、お義父さんもついてきた。
一緒に選びたいのかな?
「このリボンが付いたやつ可愛いなー」
「可愛すぎません?」
今日の僕は気持ちだけでもキャリアウーマンなんです。
「それならこっちはどうだ?」
お義父さんが7センチヒールのポインテッドパンプスを指差す。
でも、なんか違う。
結局、ミドルヒールのプレーンなやつに決めた。
お仕事に過剰なお洒落は不要です。
離れにまでついてきたお義父さんは何をするでもなく僕の働く姿を見ていた。
時々、スマホで写真も撮っている。
なにが楽しいんだ?
「保さんはさっくんがいきいき働いてるのを見るのが楽しいんだよ」
僕の疑問に壁やんが答えてくれた。
「他に楽しみを見つけるべきだ」
「さっくんが保さんの生き甲斐みたいなものだから」
親子で重たい。
ずっと見られているのは気が散るから二上さんを呼んでお義父さんを屋敷に連れ帰ってもらおう。
うなだれる後ろ姿がいつもより小さく見える。
なんだか可哀想になってきた。
「今は仕事中だから無理ですが、今夜はお酌しましょうか?」
女の子な僕が好きなら、あとでいくらでも相手をするよ?
「そいつは楽しみだー」
お義父さんは夜まで体力を温存するとウキウキ帰っていった。
人生楽しそうでなによりだよ。
「本当にいいの?」
壁やんが心配そうにしてる。
「夏のひきこもり中もよくキャバクラごっこをやってたんだ。お義父さんが外に飲みに行けないのは辛いっていうから」
僕はキャストの女の子の代わり。
それもたくさんある仕事の1つだった。
「セクハラされたら相談してね。僕じゃなくても楓さんとか誰でも話しやすい人に」
「えー。セクハラとかされたことないし。壁やんは気にしいだなあ」
普段と変わらない勤務時間。
大量の紙の山。目が滑る数字の羅列。
壁やんの講義を聞いて整頓していく。
夕方5時、終業時間。
資料を片付けて屋敷に戻ると、玄関でお義父さんが出迎えてくれた。
「あのなー、儂、サクちゃんにコレ着て欲しくてなー」
仕事終わりの僕にお義父さんがおずおずと差し出したのはピンク色のマイクロミニ丈チャイナドレス。
夜のキャバクラごっこで着たら良いの?
それぐらいお安い御用だよ。
すぐに着替えてくるからお座敷で待っててね。
「今夜もご指名いただきありがとうございます。いっぱいお話し聞かせてください」
行ったことないキャバクラをイメージだけで演じる。
お義父さんは僕がチャイナドレスを着て隣に座るだけで満足してる。
圭介さんも着替えた時にセルフィー撮ってメールしたら、すごくテンション高い返事がきたし。
親子揃ってチョロいな。
そもそもキャバクラって多分ご飯を食べるところじゃない。
だけど僕はアツアツ小籠包を食べながら、お義父さんの話を聞いている。
ここはなんちゃってコスプレキャバクラ。
「100メーター道路は儂が作ったんだよー」
酔ったお義父さんの十八番。
名古屋の広い道路を戦後復興で作った話。
「墓石1つ1つに手ぇ合わせて運んだんだよー」
都市計画のなかにあった墓地の移転。
戦災孤児だったお義父さんは土木工事現場で毎日日雇いの仕事をしていた。
その中でとくに印象に残っているのが、リアカーに乗せた墓石を押して運んだこと。
僕は今の綺麗な名古屋の街だけを見て東京と同じだと思ってた。
でも、お義父さんから運んだ砂利を敷いて道を作った話を聞いてからは全然違う街だって分かった。
お義父さんの右手が僕の太ももを撫でる。
痴漢でしかないのに、僕は止めなかった。
たくさんの人を背負ってきたお義父さんの手のひら。
良いことばかりではない、悪いことにも手を出してきた。
本人同士が納得しているから僕がとやかく言うことではないと納得はしたけど。
僕は心のどこかで未成年の鈴村さんに売春をさせていたことを許せないでいる。
だけど言葉にはしない。
態度にも出さない。
今だって僕の足に触れるのが人生のご褒美だと嬉しそうにしているのを許している。
「お義父さんってズルい人ですよね」
調子に乗って膝枕でくつろぐ頭をそっと撫でる。
こんなに行儀の悪い人、嫌いになれたら楽なのに。
お金の流れの隠れた裏側も全て見れば僕でも気づく。
巧妙にいくつもの団体をすり抜けて、広域指定暴力団鞘間組にお金が渡されている。
圭介さんのお兄さん、樹さんが会長を務める小峠会だけじゃない。
組全体にまるで酸素のように行き渡る資金。
お義父さんや鈴村さんみたいな元ヤクザではない、現役のヤクザを養うためのお金も圭介さんは集めていた。
表向きには“正しい”会計資料。
その裏に隠れていた資金洗浄の方法。
僕は開けてしまったパンドラの箱から希望を見つけられるのだろうか。
胸の奥。燻る不安に蓋をした。
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