恋愛サティスファクション

くらげ

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不動ベイシン

そうほうこうプレス5

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「それでは次の質問に移ります。まだ質問していない方でしたら、どなたでもどうぞご自由に」

渡辺先生は司会者に次の質問者を取り上げるよう伝える。
私の質問に答えろと騒ぐ記者は会場のスタッフからマイクを取り上げられた。
マイク無しでも叫ぶ記者を無視して、司会者は次の質問者はいないか、質問がある方は手を上げてほしいと言った。

このやり取りの直後に手を上げて質問をするのは勇気がいる。
さっきまで手を上げていた記者の人達も躊躇って手を上げるか迷ってる。
そんな中で堂々と手を上げる男性がいた。

「それでは後方にお座りの黒いジャケットの男性。質問をお願いします」

手を上げた男性にマイクが渡される。

「実録サックズの岩本です」

男性記者が名乗った瞬間、数人の笑い声が聞こえてくる。
なんで？別に変な名前じゃないよ？
チャット欄でも笑いを表すスラングが流れた。
みんなのコメントから実録サックズは週刊誌らしいっていうのは分かるけど。
別に週刊誌でも質問していいじゃん。

「僕からの質問というより。今配信している公式YouTubeのコメント欄から引用させていただきます。沢山のリスナーが知りたがっている疑問です。『少女AはLittle WOMAN以外を訴えないんですか？』新聞やテレビで園前寺氏の会見を報道したメディアも少女Aの名誉を毀損しているとのコメントが多く寄せられていますよ」

先程まで実録サックズをバカにしていたチャット欄が、手のひらを返したように岩本記者を持て囃す。
岩本神と呼んで崇め奉る人まで現れた。
神と呼ぶにはあまりにも軽い扱い。
自分達の意見を拾ってくれたという感謝や、これが聞きたかったという歓喜のコメントで溢れかえる。

「たしかに、報道内容にも事実と異なる情報が多数ありました。しかし、裁判にはお金がかかります。裁判は弁護士費用だけではなく、印紙代などの諸経費がかかります。弁護士費用に関して言うと、少女Aは私が無償で弁護を行うというのを断りました。仕事を頼むうえで、正規の値段を払いたい、それが私の名誉を回復する第一歩だと少女Aは言ってくれました。その気持ちを弁護士報酬という形で私は受け取ったうえで、彼女の代理人としてここにいます」

MOZUちゃんは誰かの善意に頼っているうちは、自分の名誉は回復しないと思っている。
僕が援助をすると言ったのを断ったのもそのためだ。
だから渡辺先生は報酬を受け取って弁護をする。
それがMOZUちゃんに対して大人ができること。

「つまり、何がいいたいかと言うと、訴えたくても無い袖は振れないということです」

そこまで言うなら裁判費用をカンパさせてよ！
実録サックズの岩本さんはルールを守って質問を1つだけしてマイクを返した。
自分の権利をYouTubeの配信を見ている僕達のために使ってくれた。
岩本さんは英雄だよ。
続く質問者も同じようにYouTubeから質問をひろった。

「同じくYouTubeのコメ欄から質問をします。『弁護士費用をカンパで集める予定ないですか？支援させてください』そういうコメントがたくさん来てますよ」

質問をした記者さんが手に持ったスマホを左右に振った。
その画面はYouTubeの配信画面のチャット欄。
今、この時のコメントを拾ってくれたんだ。
僕も勢いでカンパすると書き込んじゃったけど、同じ気持ちの人はたくさんいるよ。
それなのに渡辺先生は首を横に振った。

「裁判費用等のためにカンパを募集する予定は現在ありません」

せめてスパチャを投げさせてくれというチャットが大量に高速でながれていく。
本当だよ。
収益化してよ。

「金銭に絡む話になってきたので、一旦、私への質問を打ち切り、四葉出版から報告をさせていただいてもよろしいでしょうか？」

渡辺先生が確認を取るように会場全体をゆっくり見渡した。
抗議の声を上げるのは帝都新聞の記者だけだった。

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