恋愛サティスファクション

不動ベイシン

そうほうこうプレス1

大きなニュースは続く。
MOZUちゃんがLittle WOMANと園前寺さんを訴えた。

早朝、速報を伝える泰葉さんからの定期メールが届く。
その午後には第一報が報道され、夕方からは報道陣を集めた会見が開かれると告知された。

MOZUちゃんはまたカメラの前に立たなきゃいけないの？
焦って泰葉さんに連絡したら、MOZUちゃんは会見には出ないと言う。
話すのは代理人の弁護士さん。
圭介さんの弁護団にもいた渡辺先生がMOZUちゃんの代わりに会見をしてくれるそうだ。

渡辺先生は頼れるお姉さんっていう雰囲気の女の弁護士さん。
ウェブ会議のあと詳しく経歴を調べてみたら、圭介さんと同じ東京大学出身の才女でした。
年齢は圭介さんの3歳年上。
圭介さんは渡辺先生を今回の弁護団結成時まで知らなかったけど。
渡辺先生は圭介さんのことを知っていた。
入学前に司法修習を済ませた後輩がいたら、学内で噂にもなる。

そんな優秀な大学の後輩で弁護士の先輩が無実の罪で不名誉な報道をされていることを本当に怒ってくれた良い人。
義憤にかられてという表現がぴったりの女傑が渡辺先生だ。
圭介さんも信頼してる弁護士の先生だから、きっとMOZUちゃんの悩みにも真摯に相談に乗ってくれているだろう。

訴えた内容などの詳しい話は会見で聞けるらしい。
ネットでリアルタイム配信されるのを見よう。
圭介さんも一緒に見たいと言うので、夕食の支度をふたりで早めに終わらせて。
僕の部屋のノートパソコンで一緒に会見を見ることにした。

会見は4時から。
だけどYouTubeのLIVE配信はその15分前から始まった。
会見前のカメラとマイクの確認だと説明する配信スタッフさんが会場内の様子を映す。
大きな会場にはたくさんの記者さん達が椅子に座り、その後ろには数え切れないカメラが並ぶ。
甲子園のインタビューでもこんなにたくさんのカメラはなかった。
それだけ世間はMOZUちゃんのことを注目している。

だからこそ、報道機関の信用が落ちている今。
MOZUちゃんは新しく“MOZUちゃんねる”というYouTubeチャンネルを用意して、会見内容を隠すことなく全てLIVE配信することにしたんだ。
今日が初めての配信で、まだ収益化されてないからスパチャは投げられない。
裁判費用とかに使ってほしくて用意した魔女見習いの予算はMOZUちゃんから甘えられないって断られちゃったから。
せめて投げ銭をさせて。バニラから赤スパを贈らせて。

「時間になりましたので提訴記者会見を始めさせていただきます」

司会の男の人の声で、ざわついていた会場内がしんと静まり返った。
会見が始まるんだ。
渡辺先生が会場に入ってきて、一斉にカメラのフラッシュがたかれた。
画面がほぼ白くなる。
これ、渡辺先生は大丈夫なのかな？
目が痛くなったりしてない？
見てるだけの僕も目がチカチカしてきた。

会見の席には渡辺先生ともう一人、女の人が座った。
泰葉さんと同じくらいの年の、気の強そうな目をしたバリバリのキャリアウーマンという雰囲気の、この人は誰？

「渡辺先生の隣に座ってる人、圭介さんは知ってる人ですか？ この人も弁護士さんなのかな？」
「俺も初めて見る人。渡辺先生の事務所のスタッフとも違うし、泰葉さんの部下？」

泰葉さんからはこころのやどり木のスタッフさんが会見に出るなんて聞いてないよ。