恋愛サティスファクション

くらげ

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不動ベイシン

世界は勝手に回ってる2

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「ポークビッツが逃げたー!」

つい叫んでしまったけど許されるよね。
僕の叫び声に驚いたのか、玲司君がコーヒーを吹き出した。
大丈夫? とりあえずウェットティッシュで口拭く?

「ポークビッツなんて言うな!」

汚い言葉を使ってはいけないと叱られる。
玲司君の普段の言葉遣いも、あんまりきれいとは言えないよ?

「じゃあビッツパパ」

これならいい?

「アレンジするな。普通に井出って呼んでやれよ」
「なんか音が良くて。ほら、声に出して読みたくなる日本語ってあるじゃん」
「口に出してほしくない日本語だ」

玲司君は可愛い僕から下品な言葉が出てくることが生理的に耐えられないと唸る。
デザイナーの美意識というやつだろうか。

それなら昨日の夜のウェブ会議のときに、衣笠大臣の名前を出して僕を黙らせようとしたのは良くないよ。
自分が嫌だから話さないでと言わなきゃ駄目。
とばっちりで衣笠大臣にセクハラしちゃったじゃん。

僕は玲司君を傷つけたいわけではないので、使う言葉には気をつけるね。
これまで通りに話す分には問題はない。
さて。問題なのは井出総理だ。

「本日未明。首相公邸で休んでいた井出総理は腹痛を訴え、救急車で聖フランシスコ国際病院へと搬送されました。病名はまだ伝えられていませんが、議員辞職届けを急遽提出するほどの病状。今後の経過が心配されます。これから緊急の閣議が開かれるということで、官邸内は騒然としています」

カメラは杖をついて歩く衣笠大臣を映し出す。
これは先日のアニアの事故で怪我をした演技。
本当は怪我をしていないけど、仮病で入院までしたから、今も杖をついて歩いている。
これから閣僚級の人達が集まって井出総理の議員辞職届けの対応を話し合うのだろう。

ここにいる誰もがきっと思ってる。
腹痛なんて仮病だ。
昨日リークされた親子3Pが原因で逃げたのだと。
バラされて逃げるくらいなら、はじめからしなきゃよかったのに。

総理を辞任するだけでも一大事なのに、議員まで辞めると言っている。
議員の立場はともかく、総理辞任の手続きは始まっていて、後任の総理は誰が務めるのか。
だけど誰もやりたがらないよね。
前政権のSEXスキャンダルに、NPOの巨額脱税。
問題がそれだけで終わるはずがないLittle WOMANの後始末。

今朝、Little WOMANが管理するシェルターには警察と保健所の職員が捜索に入った。
シェルターに監禁されていた女の子達は保護され、病院へと搬送された。
つまり覚醒剤依存にさせて強要していた売春について、これから明るみになるだろう。
そうすれば、園前寺さん達が推し進めていた“支援が必要な女性への支援に関する法律”についても本当に必要な法律なのか、改めて議論が必要になる。

それらの面倒事を指揮するなんて。
どれだけ出世欲があったとしてもお断りしたい役職だ。

夕方、新政権発足の速報が届いた。
新しい総理大臣は衣笠大臣。
もう大臣って呼べないな。
衣笠総理だ。

僕は何も変わっていないのに。
僕の周りはどんどんと変わっていく。
世界は僕を置き去りにして回る。

それは圭介さんも同じ。
夏休みはもう終わりだと言う。

「衣笠さんは俺の暴走を止められなかった責任を取らされたんだろうねー。せめて総理の仕事がしやすいように俺も手伝うかな」

圭介さんは年上の友達のピンチを手助けする。
それはとても素敵なことだけど。

「圭介さんは何もしてないですよ? 暴走したのは園前寺さんです」

暴露スペースをしたのは園前寺さんであって、圭介さんはそれを聞いていただけ。

「何もしないっていうドミノ倒しを始めたのは俺だから。とくに反省はしないけど責任は感じてみようかなって」

圭介さんは僕が引き抜いたコードを元に戻していく。
離れの一室がまたパソコンのファンがうるさい部屋に戻るんだ。
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