恋愛サティスファクション

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召しませゴクドー5

「そろそろ着くぞ。佐倉はオレに引っ付いてればイイからな」
「逆に私達から離れてはいけないよ」
「サクラさんは可愛くて一人でいたらすぐに拐われちゃいますからね。これは防犯ブザーです。お守りに持っててください」

成瀬さんがくれたのはハートのチャームが付いた防犯ブザー。
鈴村さんに言われて帯の中にしまっておく。
使わないで済むように玲司君から離れないでおこう。

さっきまで山道を走っていたのに。急に開けたところに出た。
スーツ姿のお兄さん達がたくさんいる。
なんか、ヤクザの集会で会場を警備する人達みたい。

「みたいっていうか、コイツらホンモノだからな。楓の姐さんのときも思ったけど、佐倉はいまいち分かってねぇだろ」

分かってるよ。
自覚は足りてないかもだけど。
それより、僕の顔みて心の中を読むのやめてくれる？
話せないから頬っぺた膨らませて抗議する。むぅ。
ちょっと、頬っぺたつつかないで。爪のあとが付いちゃう。

「ほら。玲司とサクラはじゃれあっていないで車を降りる。後ろが詰まってしまうだろう」

鈴村さんがこの中では一番最年長だからかな。
あれこれと指示を出してくれる。
さっきまでと違う。ピリッとした感じ。

玲司君と成瀬さんは気にしてないけど、これはいつものことなの？
鈴村さんのヤクザの恋人さんモード？

「玲司、車の鍵はそのままに」

鈴村さんの指示に従って、エンジンを掛けたまま車から降りる。
これは高級ホテルでみられるバレーパーキングというやつだ。
慣れた雰囲気の鈴村さんカッコいい。

「人を顎で使うのに慣れた鈴さんを羨望の眼差しで見るのは微妙だと思いますよ」
「そうだぞ。佐倉は今のまま素直に育てよ」

いやいや。あれは大人の余裕ってやつ。
僕だったらワタワタしちゃうよ。
いつかは僕もスマートにああいう振る舞いが出来るようになりたいな。

「後ろに積んであるのは、あそこの愛らしいお嬢さんからの土産だよ。車を駐車場まで運んだら適当に分けてくれ」

鈴村さんが車に乗り込んだお兄さんにそう言うと、お兄さんは僕の方をじっと見てきた。
ひえっ。目付きが怖い。
やっぱりここにいるのはカタギの人じゃないんだ。
ようやく理解した。

すみません。部外者が差し出がましい真似をしました。
でも、良かったら皆さんで食べてください。
美味しそうなものを選んで買ってきました。

っていう気持ちを込めてお辞儀をする。
丁寧に深すぎず浅すぎず、ゆっくりと頭を下げて。また上げて。
最後に背筋を伸ばして、にっこり。スマイルはサービスです。

ん？ お兄さんの顔が赤い？
僕は振り袖が思ったより暖かくてそんなに寒くないけど、やっぱり山の上の方だし、そろそろ日も暮れる時間だから寒いのかな。
風邪の引き始めにはレモネードだよ。
柑橘系のスイーツも買ってあるから、それを食べてね。

「佐倉、無駄に色気を振り撒くな。変なもんが釣れる」

伝えたのは色気じゃなくて感謝の気持ちだってば。

「島村会派の方ですね。俺ちょっと行ってフォローしときます」
「ヨロシク」

成瀬さんにフォローされるってことは僕が変なことしちゃったのかな。
うぅ～ん。難しい。

「さて、面倒事は成瀬に任せて。玲司とサクラはついておいで。桜はこの石段の上に咲いているから」

山の斜面に人ひとり分ぐらいの細い石畳の階段。
これを上るのか。
玲司君が選んでくれたアウトドアウェアで良かった。
着替えたの失敗だったかも。

慣れない草履で上れるかな。
玲司君、腕貸してね。
ああっ。そんなずんずん早く上らないで。ついていけないよ。

「まどろっこしい。佐倉は大人しく抱かれてろ」

着物の歩調に合わせるのが嫌になった玲司君が僕のことを抱き上げた。
いやいや。この足場の悪い階段で抱っこは怖いよ。
玲司君の首にギュッと抱きつく。

「そうやって大人しくしとけよ」

落ちるの怖いから暴れたりしないよ。
だから早く階段上っちゃって。