恋愛サティスファクション

くらげ

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不動ベイシン

魔女の呼び出し2

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「支度できたか?」

鏡に映る僕とにらめっこをして、うだうだとしていたら玲司君が迎えに来た。
コラボの仕事は終わったの?

「明日から盆休みだ。そういう日ぐらい残業しなくてもいいだろ」

明日は山の日。
白い塀の中は時間の流れが曖昧で日にちを忘れがち。
お盆休みはゆっくり過ごせそうで良かった。
玲司君も圭介さんほどではないけど、働きすぎな感じがしてたから。

「鈴村に呼び出されたんだって? 一緒に行くぜ。骨ぐらいは拾ってやるよ」

その冗談は笑えないよ。
玲司君に手を引かれて、すごすごと部屋を出た。
もう部屋の前に段ボールの名前札は出さない。
屋敷の部屋は全て覚えている。
だから、印は必要ない。

お互いにしっかりと手を握り、けれども黙ったまま廊下を歩く。
玲司君は誰かに言われて僕を迎えに来たのかな。
僕が着替えるのに時間をかけたから。

俯いて廊下を歩いていて、お義父さんと二上さんが玄関で待っていたことにすぐには気付けなかった。
人の気配に顔を上げると、優しく微笑むお義父さんと不機嫌そうな二上さんのふたりと目が合う。
ふたりは僕のお見送りをしてくれるの?

「二上を連れて行け。サクちゃんの尊厳を守る護符にしろ」

お義父さんがそう言って、二上さんも言われたことだからと僕達についてくる。
夕ご飯は成瀬さんと染井さんがなんとかしてくれるらしい。

そこまでする必要があるくらいに僕は危機なの?
えー。やだー。本当に行きたくない。
引きずられるように庭を歩いていたら、玲司君が僕を肩に担いだ。

「詫び入れる時はさっさと終わらせて水に流してもらうんだよ。時間かけても何も得しねぇぞ」

そんなの分かってるよ。
だけど怖いんだもん。
僕は今から松の木に吊るされて尊厳を侵されるかもしれないんだろ。
1回されたら玲司君みたいに堂々とできるのかな。

米俵のように運ばれるのも受け入れるよ。
子供のようにグズついた自分が悪いのだから。
もうどうにでもなれと、脱力して玲司君の肩の上で揺られる。

すると、離れの方から圭介さんが慌てた様子で駆けてきた。
あれ? 会議はどうしたの? 中座した?

「なにやってんだよ。唯が危ないだろ!」

圭介さんがそっと僕を玲司君の肩から下ろす。

「こんなひどいこと。唯は荷物じゃない」

いや、鈴村さん達からの呼び出しに行きたくないと駄々をこねた僕は荷物みたいな扱いでも仕方ないよ。

「やっぱり唯を呼ぶのは間違いだった。今からでも断ろう」
「ここまで来たんです。ちゃんと会議には出ますよ」

玲司君や二上さんも立ち会ってくれるし。
そこまでひどい“メッ”にはならないでしょ?
むしろ、長引かせたほうが危険だ。
罰に利子をつけられそう。
きちんと叱られるタイミングで叱られて反省しないと余計に危険だよ。

「玲司君、ここまで運んでくれてありがとう。ここからは自分の足で行くよ」

僕はもう大人だっていうのに、MOZUちゃん以下の甘ったれだ。
覚悟を決める時が来た。

木立の隙間から離れの外観が見えてきた。
さあ、腹をくくれ。へその下に気合を溜めて行くぞ。
敗戦処理の時間だ。

僕が魔女見習いに変身している間に。
圭介さんは離れのリビングにリモート会議用スペースを構築していた。

いつもながら仕事が早い。
カメラやマイク、照明。
すべてがソファの真ん中に座る僕が可愛く見えるようにセッティングされていた。
そして僕の両側に座るのは圭介さんと玲司君。

ふたりとも、僕が叱られるのに付き合ってくれてありがとう。
全てが終わったとき。僕の骨を拾ってね。
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