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不動ベイシン
オペレーションらびっと1
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圭介さんと計画した“オペレーションらびっと”が発動して数日経った。
僕の日課は離れにこもる圭介さんに食事を届けることに変わった。
起きてすぐにやる菜園の水やりは変わらないけど。
これまで朝食後に屋敷や庭の雑用をしていた時間、僕は圭介さんの様子を見に行く。
「これが今日の分です。坊によろしく」
キッチンで吉野さんが用意してくれたバスケットを受け取る。
圭介さんの1日分の食事はずっしりと重い。
「たしかに預かりました。いつもありがとうございます」
バスケットの中身は吉野さんの手作り弁当が2つ。
これは僕と圭介さんがお昼に一緒に食べる分。
それと作りおきのお惣菜や、焼くだけで食べられるように下処理した肉や魚。
吉野さんには簡単に食べられる食事を用意してもらってる。
だって圭介さんは本当にひどいんだ。
僕が持っていかないとまともな食事を取ろうとしない。
カロリーや栄養素は考えていると言っていたけど。
考えただけ。数字しか見てない。
圭介さんはひとりの食事だと、自家製プロテインシェイクを飲んで終わらせていた。
プロテイン、塩、はちみつを牛乳でシェイクしたものを食事というのは、どうかと思う。
野菜がないと怒ったら、パッケージにマルチビタミン&ミネラル+食物繊維と書かれた袋を見せられて。
それは野菜じゃない!
何が駄目なのか、これまでも忙しい日の食事はこれなのにって首かしげてたの可愛いけど。僕はもう騙されないぞ。
しかも離れの洋館で監禁されてた成瀬さんにも同じような食事を提供していたと悪びれずに言う。
いくら仕事でミスをしたからってやり過ぎだよ。
これのどこが人道的な扱いなんだ!
思い出してぷんぷんしてたら、自由の身になって今は屋敷にいる成瀬さんからバインダーをひとつ渡される。
「圭さんのところに行くなら、これもお願いします」
仕事に使う書類かな?
これは重たいから人参型リュックに入れていこう。
他に持っていく物はある? 大丈夫?
それなら僕はもう行くね。いってきます。
日傘を差して歩き出してすぐ、圭介さんからメールが届く。
『不機嫌?』
僕の心の中を覗き見するスキルを身につけ始めた圭介さんは、こうして気になると言葉にして聞いてくるようになった。
「圭介さんのプロテインシェイクのこと思い出して、ちょっとイラッとしてただけです」
メールの返信は声に出して。
そしたら勝手に圭介さんに届く。
なぜなら、今の僕は小型カメラとマイクが内蔵されたペンダントを付けているから。
屋敷のみんなの監視用に圭介さんが貸してくれた。
屋敷の中にカメラを設置するのは僕が許せなくて。
妥協案の身につける移動カメラ。
便利だから僕から一方通行なメッセージを送るガジェットにもなってる。
『食事時間が短縮できて、値段も安定してて良いのに』
「ごはんにタイパを求めちゃ駄目です」
値段については圭介さんの幼少期の事があるから僕には何も言えない。
子供の頃の定番食が大人になっても習慣で続いていたのだと言われると、言葉に詰まってしまう。
圭介さんの子供の時の話を聞くたびに、普通ってなんだろうって考えさせられる。
僕が普通だと思っていた生活は、実はとても恵まれていた。
圭介さんみたいに明日食べるご飯の心配をしたことはない。
食べ物で困ったことといえば、甘いものを食べる時に妹の瑠歌ちゃんから少し嫌味を言われるぐらい。
それだって高校生にもなれば、お小遣いで買い食いするようになって家でお菓子を食べることは減った。
そもそも、部活帰りに買い食い出来るだけのお小遣いをもらえることが当たり前じゃない。
野球部の部費、ユニフォームやグローブ等の用具代、遠征費。他にもたくさん。
当然、学費や定期券代も両親が払ってくれた。
母さんに部費の入金に関するプリントを渡すと嫌な顔をされるのが苦手で、夜遅い時間まで父さんの帰りを待ってお願いしてたけど。
出してもらえるのが普通だという態度でいたら嫌な顔もされる。
当時は塾に通っていない分、僕は部活にお金を出してもらってるんだって思ってた。
瑠歌ちゃんは第一志望の中学に進学後も塾通いを続けていたし。
僕は塾の代わりに野球部なんだって勘違いしてた。
だから野球部を引退した3年の夏休みからは塾に通うのも自然なことで、当たり前だと思っていたんだ。
大学で仲良くなった子達もほとんどが小学校の頃から塾に通っていたから、僕は思い違いをしてしまった。
僕はしっかりお金をかけて育てられてる。
両親に金銭的負担をかけている。
これまでも感謝の気持ちは持ってたけど。
次に両親に会うときは感謝をきちんと言葉にして伝えよう。
お金のことだけじゃなくて、いっぱいありがとうって言おう。
そう心に誓ったところで、ちょうど離れの洋館についた。
チョコレート色した外観を見上げて、気持ちを落ち着ける。
瞳を閉じて深呼吸。
思い出は記憶の箱にしまって。心を現在に戻そう。
大丈夫。僕は今を生きている。
地に足つけて立っている。
かけてもらったコストに見合う働きができているか。
自分では分からないけど。
僕は学んだ正しさを信じて進むよ。
僕の日課は離れにこもる圭介さんに食事を届けることに変わった。
起きてすぐにやる菜園の水やりは変わらないけど。
これまで朝食後に屋敷や庭の雑用をしていた時間、僕は圭介さんの様子を見に行く。
「これが今日の分です。坊によろしく」
キッチンで吉野さんが用意してくれたバスケットを受け取る。
圭介さんの1日分の食事はずっしりと重い。
「たしかに預かりました。いつもありがとうございます」
バスケットの中身は吉野さんの手作り弁当が2つ。
これは僕と圭介さんがお昼に一緒に食べる分。
それと作りおきのお惣菜や、焼くだけで食べられるように下処理した肉や魚。
吉野さんには簡単に食べられる食事を用意してもらってる。
だって圭介さんは本当にひどいんだ。
僕が持っていかないとまともな食事を取ろうとしない。
カロリーや栄養素は考えていると言っていたけど。
考えただけ。数字しか見てない。
圭介さんはひとりの食事だと、自家製プロテインシェイクを飲んで終わらせていた。
プロテイン、塩、はちみつを牛乳でシェイクしたものを食事というのは、どうかと思う。
野菜がないと怒ったら、パッケージにマルチビタミン&ミネラル+食物繊維と書かれた袋を見せられて。
それは野菜じゃない!
何が駄目なのか、これまでも忙しい日の食事はこれなのにって首かしげてたの可愛いけど。僕はもう騙されないぞ。
しかも離れの洋館で監禁されてた成瀬さんにも同じような食事を提供していたと悪びれずに言う。
いくら仕事でミスをしたからってやり過ぎだよ。
これのどこが人道的な扱いなんだ!
思い出してぷんぷんしてたら、自由の身になって今は屋敷にいる成瀬さんからバインダーをひとつ渡される。
「圭さんのところに行くなら、これもお願いします」
仕事に使う書類かな?
これは重たいから人参型リュックに入れていこう。
他に持っていく物はある? 大丈夫?
それなら僕はもう行くね。いってきます。
日傘を差して歩き出してすぐ、圭介さんからメールが届く。
『不機嫌?』
僕の心の中を覗き見するスキルを身につけ始めた圭介さんは、こうして気になると言葉にして聞いてくるようになった。
「圭介さんのプロテインシェイクのこと思い出して、ちょっとイラッとしてただけです」
メールの返信は声に出して。
そしたら勝手に圭介さんに届く。
なぜなら、今の僕は小型カメラとマイクが内蔵されたペンダントを付けているから。
屋敷のみんなの監視用に圭介さんが貸してくれた。
屋敷の中にカメラを設置するのは僕が許せなくて。
妥協案の身につける移動カメラ。
便利だから僕から一方通行なメッセージを送るガジェットにもなってる。
『食事時間が短縮できて、値段も安定してて良いのに』
「ごはんにタイパを求めちゃ駄目です」
値段については圭介さんの幼少期の事があるから僕には何も言えない。
子供の頃の定番食が大人になっても習慣で続いていたのだと言われると、言葉に詰まってしまう。
圭介さんの子供の時の話を聞くたびに、普通ってなんだろうって考えさせられる。
僕が普通だと思っていた生活は、実はとても恵まれていた。
圭介さんみたいに明日食べるご飯の心配をしたことはない。
食べ物で困ったことといえば、甘いものを食べる時に妹の瑠歌ちゃんから少し嫌味を言われるぐらい。
それだって高校生にもなれば、お小遣いで買い食いするようになって家でお菓子を食べることは減った。
そもそも、部活帰りに買い食い出来るだけのお小遣いをもらえることが当たり前じゃない。
野球部の部費、ユニフォームやグローブ等の用具代、遠征費。他にもたくさん。
当然、学費や定期券代も両親が払ってくれた。
母さんに部費の入金に関するプリントを渡すと嫌な顔をされるのが苦手で、夜遅い時間まで父さんの帰りを待ってお願いしてたけど。
出してもらえるのが普通だという態度でいたら嫌な顔もされる。
当時は塾に通っていない分、僕は部活にお金を出してもらってるんだって思ってた。
瑠歌ちゃんは第一志望の中学に進学後も塾通いを続けていたし。
僕は塾の代わりに野球部なんだって勘違いしてた。
だから野球部を引退した3年の夏休みからは塾に通うのも自然なことで、当たり前だと思っていたんだ。
大学で仲良くなった子達もほとんどが小学校の頃から塾に通っていたから、僕は思い違いをしてしまった。
僕はしっかりお金をかけて育てられてる。
両親に金銭的負担をかけている。
これまでも感謝の気持ちは持ってたけど。
次に両親に会うときは感謝をきちんと言葉にして伝えよう。
お金のことだけじゃなくて、いっぱいありがとうって言おう。
そう心に誓ったところで、ちょうど離れの洋館についた。
チョコレート色した外観を見上げて、気持ちを落ち着ける。
瞳を閉じて深呼吸。
思い出は記憶の箱にしまって。心を現在に戻そう。
大丈夫。僕は今を生きている。
地に足つけて立っている。
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自分では分からないけど。
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