恋愛サティスファクション

初陣アプレンティス

魔女見習い始動2

花見会で行った山のことも書いてある。
なぜか全国の土地を買い漁っているのが危険視されているけど。理由ならあるよ。

あの山は太陽光パネルでの大規模発電の計画が立てられていた。
でも、そんなことをしたら禿山にされて土砂災害の危険が上がる。
その計画を阻止するためにお義父さんは山の権利を買い取った。

地元に住む人達では代々続くその地の名士には対抗できない。
SDGsだ、地域のためになると言われると、普通の市民では太刀打ちするのも難しい。
そういうときに元ヤクザの田中保の名前は役に立つ。

「お義父さんは地域に暮らす人達の生活を守るために山を買ったのに」
「儂はあの桜に一目惚れしただけだよー」
「結果として、自然破壊を防いでいるんだから。こんなふうに悪く言われるのはおかしいです」
「地元の奴らは分かってる。外野が吠えてるのは無視しとけ」
「簡単に無視できたら僕だってこんなに怒らないし。偏った報道は誰だろうと良くないです」

こんな内容のことが連日テレビや新聞で報道されている。
たしかにお義父さんは元ヤクザだ。
だけど今は心を入れ替えて福祉活動に務めている。
過去ばかりを書き立てて今を正しく評価してもらえないのはひどいよ。
僕はお義父さんの全てを知らない。

何千万円もデパートで買い物をした、そのお金が正確にはどこから来たのか分からない。
お義父さんは補助金や寄付金などで集めたお金に圭介さんの稼ぎを混ぜて右から左に流す係をしていることは教えてもらったけど。
それより詳しい説明は聞かなかった。
とりあえず顧問会計士のチームがあるっていうし。
お金のことは専門家にお任せしていれば大丈夫だよね。
プロを信じよう。

だってお金の不正は逮捕される危険が高い。
あの有名なアメリカのギャング、アル・カポネだって最後に足を掬われたのは税金についての問題だったはず。
彼の半生を描いた映画で見た記憶がある。
それぐらいお金の悪事は足がつきやすいんだ。
国からもらった補助金達は適当にぐるぐると人々の間を回っていると信じていよう。

「それよりも今はお義父さんの名誉毀損だよ。こんなの書かれて平気なんですか？ 圭介さんに頼んで事実無根だって訴えてやりましょう」

今こそ弁護士として活躍するときだよ。
お義父さんのために圭介さんの賢い頭脳を使うべきだ。

「儂の名誉なんて、とうの昔に地に落ちとる。訴えたとこで無駄だよ」

同じ部屋で詰将棋の問題を解いていたお義父さんは新聞にどれだけ酷いことを書かれても全然気にしてない。

「サクちゃんのお友達が泰葉に保護されて、振り上げた拳の下ろし先が見つからんだけだ。悪く言われるのは慣れとる」
「でも……」
「儂のために怒ってくれてありがとうな。サクちゃんは優しい子だ」

お義父さんにそう言われると、ひとりでプンプン怒ってるのも違う気がして。
怒りは原動力になるけど、直接何かを解決してくれるわけじゃない。

新聞や雑誌のめぼしい記事を読み終わって。
まだ夕食までには時間はある。

僕が出来ることはあんまりないけど。
何をしようかと考えていたら泰葉さんからメールが届いた。
iPhoneで確認したらPDFファイル付き。
書類のスキャン画像だけどなんだろう？
玲司君の部屋のプリンター借りて印刷させてもらおう。

「泰葉さんからのメールに添付書類あったんで印刷してきます」
「気をつけて行っといでー」

屋敷の中でなにを気をつけるの？
きっとお義父さんの口癖みたいなものだろう。