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初陣アプレンティス
おしえてディスクロージャー1
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二上さんが待つ廊下に出て静かに部屋の扉を閉めた。
迎えって二上さんのことでしょ?
屋敷に帰ろう。ここは僕がいたらいけない場所なんだ。
螺旋階段を降りたところで成瀬さんに呼び止められた。
「会議が終わるまでしばらくお待ちください。佐倉さんの好きなお菓子とお茶がありますよ」
リビングのテーブルに用意されたクッキーとアイスティー。
クッキーは個包装の物でガラスの器に盛られていた。
たしかに僕の好きな洋菓子店のバタークッキー。アソートでいろんな味が楽しめる。
いまは夏だから限定フレーバーのレモンもあって。
これを食べると夏だなぁって気分になれるから好きだけど。
『鈴村さんが二上さんと一緒に帰れって言うし。僕は帰ります。お茶のお誘いはまた今度』
「せっかくいらしたんです。圭さんに聞きたいことがあって来たんですよね? ミーティングも昼には終わる予定なんでランチしながら話すのはどうです?」
僕のこと引き留めようと必死じゃない?
成瀬さんが何度も二階を見上げてる。
圭介さんが気になるの?
僕が帰るってなったら部屋から飛び出してきそうではあるけど。
それを管理するのは僕じゃない。
僕に彼の行動の責任を負う義務はない。
だって僕には権利がないのだから。
義務と権利は対になるもの。片方だけを押し付けないでほしい。
『待ってる間、成瀬さんが僕の知りたいことを教えてくれるなら。ここに居ても良いですよ』
それぐらいのご褒美はあっても良くない?
成瀬さんはどう答えるべきか迷ってる。
僕よりたくさんのことを知っているのに、その情報をどう扱うかの権限は与えられていないんだね。
「鈴さんから。聞きたいことを何でもひとつだけ教えてあげなさい。だそうですよ」
僕と成瀬さんから少し離れたところに立つ二上さんが手の中のスマホを読み上げる。
魔女から情報開示の許可が出た。
僕に与えられた権利は成瀬さんに答えられる質問をひとつだけ。
でもそれで十分。
僕がいま聞きたいことは。
『あのときYouTubeのLIVE配信をしていた女の子について』
ずっと気になっていた。
だけど誰にも聞けないでいた。
屋敷に来てすぐの時に圭介さんと彼女のことについて言い争って。
半端な気持ちでいた僕は圭介さんの考えを変えることも認めることも出来ずに逃げた。
自分のことも満足に出来ない僕には人のことを助けることが出来ないのだと無力感だけが残った。
それでも忘れたわけじゃない。
とにかく体を動かして考えないようにして。
ちょっとした雑用でも良いから僕がやれることを探して。
そうして忙しくしていても彼女は僕の心のすみにずっといた。
何でもひとつ教えてもらえるのなら。
彼女の事を教えて欲しい。
僕はあの子の名前も知らない。
迎えって二上さんのことでしょ?
屋敷に帰ろう。ここは僕がいたらいけない場所なんだ。
螺旋階段を降りたところで成瀬さんに呼び止められた。
「会議が終わるまでしばらくお待ちください。佐倉さんの好きなお菓子とお茶がありますよ」
リビングのテーブルに用意されたクッキーとアイスティー。
クッキーは個包装の物でガラスの器に盛られていた。
たしかに僕の好きな洋菓子店のバタークッキー。アソートでいろんな味が楽しめる。
いまは夏だから限定フレーバーのレモンもあって。
これを食べると夏だなぁって気分になれるから好きだけど。
『鈴村さんが二上さんと一緒に帰れって言うし。僕は帰ります。お茶のお誘いはまた今度』
「せっかくいらしたんです。圭さんに聞きたいことがあって来たんですよね? ミーティングも昼には終わる予定なんでランチしながら話すのはどうです?」
僕のこと引き留めようと必死じゃない?
成瀬さんが何度も二階を見上げてる。
圭介さんが気になるの?
僕が帰るってなったら部屋から飛び出してきそうではあるけど。
それを管理するのは僕じゃない。
僕に彼の行動の責任を負う義務はない。
だって僕には権利がないのだから。
義務と権利は対になるもの。片方だけを押し付けないでほしい。
『待ってる間、成瀬さんが僕の知りたいことを教えてくれるなら。ここに居ても良いですよ』
それぐらいのご褒美はあっても良くない?
成瀬さんはどう答えるべきか迷ってる。
僕よりたくさんのことを知っているのに、その情報をどう扱うかの権限は与えられていないんだね。
「鈴さんから。聞きたいことを何でもひとつだけ教えてあげなさい。だそうですよ」
僕と成瀬さんから少し離れたところに立つ二上さんが手の中のスマホを読み上げる。
魔女から情報開示の許可が出た。
僕に与えられた権利は成瀬さんに答えられる質問をひとつだけ。
でもそれで十分。
僕がいま聞きたいことは。
『あのときYouTubeのLIVE配信をしていた女の子について』
ずっと気になっていた。
だけど誰にも聞けないでいた。
屋敷に来てすぐの時に圭介さんと彼女のことについて言い争って。
半端な気持ちでいた僕は圭介さんの考えを変えることも認めることも出来ずに逃げた。
自分のことも満足に出来ない僕には人のことを助けることが出来ないのだと無力感だけが残った。
それでも忘れたわけじゃない。
とにかく体を動かして考えないようにして。
ちょっとした雑用でも良いから僕がやれることを探して。
そうして忙しくしていても彼女は僕の心のすみにずっといた。
何でもひとつ教えてもらえるのなら。
彼女の事を教えて欲しい。
僕はあの子の名前も知らない。
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