恋愛サティスファクション

くらげ

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初陣アプレンティス

ようこそ保邸へ1

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病院を出る時に茜色だった空から赤みが消えて仄暗くなる。
ぼんやりと窓の外を眺めて。
こうして住宅街を走っているのを車内から見ていると名古屋の街は東京とそんなに変わらない。

そんなことを考えていたら目の前にはどこまでも続く白い塀。
何かのお店? って思っていたら急に現れた門の中に入っていく。
待って。もしかして。ここが?

二上さんの運転する車は迷いなく敷地内を進む。
門を潜った先に建物が見えないのが謎。
白い塀の内側はどれだけ広いんだ?
驚いて窓の外をじっと見ていたら染井さんに頭をポンポンと叩かれた。

「もう安心だでね」

そういう問題ではなくて。でもここがお義父さんの家だっていうのは理解したよ。
だって道の向こうから白い割烹着を着た圭介さんが走ってくるんだもん。
すごく似合っていて可愛い。

「おかえりー」

二上さんは気を利かせて車を停めなくていいよ。
染井さんも助手席に移動しなくて良かったのに。
空いたスペース。当たり前に乗り込んでくるし。距離が近い。

「軽度の打ち身って聞いてるけど。今は平気?」

僕の頬を撫でる指先。
服の下に貼られた湿布の位置を確認する視線。
僕のことを気遣う言葉を並べる声。
その全てが気持ち悪くて鳥肌が立った。

「寒い? エアコン止めてもらおうね」

車内の温度が問題なんじゃない。
あなたの言動が受け付けないんだ。
車内のエアコンを止めるよりも前に車が止まった。

そこにあったのは木造の純日本家屋。
開け放った引き戸の玄関の前には浴衣姿のお義父さん。
ここが話に聞いていたお義父さんの家。
ある意味期待を裏切らない豪邸だ。

圭介さんが先に車をおりてドアを開けてくれるのは紳士な仕草だけど。
差し伸べられた手には気付かないふりをした。
僕はひとりで降りられるし歩けるから。

「大変だったなあ。可愛い顔に怪我まで。酷い奴らだ。ほれ、早く中に入ってゆっくりするんだよー」

お義父さんに迎えられて、玄関で靴を脱ぎ、スリッパを借りた。
お義父さんの背中を追いかけて廊下を進む。
僕の横にぴたりと張り付くように付いてくる人は空気だと思って。

「軽くつまめるもん先に用意しといたぞー。あとは何が食べたい? 今お勝手におる吉野はこの前の寿司屋の大将だから寿司でも握ってもらうか?」

鮨よし野の吉野さん?
今日もイカはあるかなってウキウキしたのに。

「俺もいろいろ用意したー。唯の大好きなポテトサラダとか。オムライスも作れるよ」

誇らしげに自分も食事の支度をしたのだと言われて、浮足立つ気持ちをどん底に叩き落とされた。

「いりません。僕もう何も食べない」

期待してた分、裏切られた感が余計に辛い。

「なんで?お腹すいてるでしょ?」

食卓に座るように手を握って引っ張られるけど座らないよ。

「お腹はすいてるけど。でも食べられませんよ」
「なんで?」
「だってあなたが作った食事なんて何が混ぜられてるか分かんないし」

圭介さんが何を考えているのか僕には分かんないもん。
分からないものは食べられないよ。
万が一、変な薬物とか盛られても僕は気付けない。
だから怪しいものは食べちゃ駄目。

「愛情がいっぱい込められてるだけだよー」
「それが一番怖いんですよ」

愛情って本当に気持ちだけ?
見えないなにかだけじゃなくて物理的な添加物はない?

「でも食べなきゃ。昼飯も残してるんでしょ? 俺の作った食事が嫌なら吉野さんが作ったものだけでも」
「誰が作ったとしても、それはあなたが触ったキッチンで調理するんですよね? その時点で何が混入してるか分かんないじゃないですか」

もうこの家自体の信頼が地に落ちてる。
割烹着を着ていた時点で気付いておくべきだったんだ。
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