恋愛サティスファクション

くらげ

文字の大きさ
上 下
235 / 469
初陣アプレンティス

フェーズいこう6

しおりを挟む
今回はちゃんと番号覚えてるから大丈夫。
9桁の個人情報と通話のボタンを押したら。聞こえてくるコール音。
鈴村さん。電話に出てくださーい。
仕事中かな。コール音はしてるけど。留守電に繋がるわけでもない。
あとでかけ直そうと諦めたとき。

「はい」

出てくれたー。

「もしもし佐倉です。携帯をお借りして電話してるんですけど」
「……」
「あれ? もしもし。鈴村さん?」

電波悪いのかな?もしもーし?

「君は今どこにいるのかな?」
「尾張大学病院の病室です。昨日あのあとに交通事故して入院しちゃいました。今日もこれから診察と検査があるんです」

でもそれが終わったら帰れるから。
そのために鈴村さん経由で安全なお迎えを用意して欲しいんです。

「それは大変だったね。ところで今はひとりなのかな?」
「違いますよ。病室にいて看護師さんが一緒についていてくれてます。この携帯も看護師のお兄さんが貸してくれて。検査が終わったあとの帰る支度をするために知り合いに連絡するようにって言われたんです。だから鈴村さんにこうして電話を」

最初に相談する相手に鈴村さんを選んだのは間違ってないよね?

「その看護師は身元のはっきり分かっている者かい? 誰かに紹介された?」

どういうこと?
看護師さんは看護師さんだよ?

「今の君と私を繋ぐ糸はとても細くてね。正直に言うとほぼ他人だよ。それを自ら親しげに電話をかけてくるとは阿呆かい?」
「他人だなんてひどい。僕、鈴村さんが一番頼りになるって思ったから電話したのに」

娘だと言ってくれたのは何だったの? 嘘なの?
ショックを受けている僕の耳元。
携帯電話の向こう側で鈴村さんが溜息をついたのが聞こえた。

「そこにいる看護師がもしもLittle WOMENの者だったらどうする?」

二上さんがLittle WOMENの関係者!?
そんなことあるの?
でもドラマみたいなカーチェイスをして車を炎上させてくる相手だ。
病院の中に仲間を紛れ込ませておくぐらい簡単なこと。

どうしよう。
僕、二上さんとたくさん話をしてしまった。
今だって鈴村さんとの通話を聞かれている。
パニックを起こしかけてる僕の手元から二上さんが携帯電話を取り上げた。

「佐倉さん。お電話返してもらいますね」
「えっ。駄目です。やだ。返してください。あっ痛っ」

返せっていう前に携帯電話取っちゃうのは反則だよ。
まだ鈴村さんと話したいことがあって腕を伸ばしたら、身体にビリって強い痛みが走って一瞬動きが止まる。
どうして?  二上さんは本当に悪い人なの?

「お電話変わりました、二上です。鈴さんのお願いだから仕方なしに世話しますが、お姫様が箱庭育ち過ぎて警戒心ゼロなんですけど」

二上さんがそう話しながら部屋に備え付けのテレビのリモコンを操作する。
テレビをつけてザッピング。情報番組を選んだ。
若い女の子達が夏の行楽を紹介するコーナー。
川下りの体験で黄色い声を上げる。
その甲高い悲鳴のような声で、電話の向こうで鈴村さんが何を言っているのか聞き取れなくなった。

「普通に朝食全部食べてますし。俺にも知り合いと名古屋観光に来たけど、その知り合いは仕事の都合で先に東京に帰ってるとか話してるし。危機管理がザルです」

えー。ご飯全部食べちゃダメだったの?
つい話し過ぎちゃったかなとは反省してたけど。

「今回は運良く俺が担当に付けましたが次はないですよ。……。運だけで生き延びれたら苦労しないんです。……。はい。病院内は俺が管理するんで、検査が終わる頃には染井さんも戻ってきますよね? お姫様の着替え持ってきてもらえるよう伝えてください」

運の良さだけで生き延びてるみたいな言われよう。
あと、さっきから僕のことをお姫様って呼ぶのはちょっとバカにした感じする。
微妙に手の届かない、電話相手の声が聞こえない所から見下ろされるの、不快。

最初は知的なカッコよさを感じた二上さんの視線も今では意地悪でトゲトゲしてる。
きっと二上さんは初めから変わってない。
僕の受け取り方が変化したんだ。

「はい。佐倉さん。鈴さんからお話があるそうですよ」

作り笑顔で携帯電話を返されても。
絶対に怒られるの分かるから受け取りたくない。
でも無視するわけにもいかないから、大人しく携帯電話を受け取った。

こんなことになるなら、変態でも僕に激甘な圭介さんに電話したら良かった。
選択ミスだ。

「先に増山先生と二上の両方から連絡をもらっていたから、あまり心配はしていなかったのだけど。底抜けに平和ボケしている君の緩んだ意識は何科に診てもらえば治るのかね?」
「ごめんなさい」

これでも気をつけてはいるんです。足りてないだけで。

「幸いなのは君の運が悪くないことだね。今、君のそばに付いていてくれている二上を私は尾壁と同等程度に信頼している。だから君も彼を頼りなさい。そして彼から離れないでいるのだよ」
「はい」
「君のはいは信用ならないので、私は二上を信じることにするよ」
「そうしてください。僕も僕が信じられないです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...