恋愛サティスファクション

くらげ

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ろうサルベージ4

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「きもちわるい」

言葉にしてしまえば、たった一言。
相手の全てを否定する言葉だから言わないでいた。
それを突き付けてしまうと何もかもが終わってしまうから。

どれだけ取り繕っても生理的嫌悪感が誤魔化せなくなる。
だから認めたくなかった。
言語化して認識する前に。
後戻り出来なくなるくらい嫌いになる前に。
他の痛みとまぜこぜにして切り捨ててしまおうとしたのに。

僕はこの期に及んで、あなたを嫌いにならない方法を探していたんだよ。
隠し事や盗撮も僕の身に危険が迫ってるとかの理由があって。
だから仕方のない事だったんだって。
僕なりの理屈を探して許そうとしたんだ。

そう。僕は許したかった。
全てが元通りにはならなくても、これまでに近い関係に戻りたかった。
だけど。もう無理だ。
僕の心が受け付けない。

「離してください」

丁寧に頼んでいるうちに離してくれないかな?
こっちも紳士的にいきたいんだ。
そう思って待ってみても変質者の腕はがっちりと僕を抱き込んだまま。
動く気配がない。

「離せよ! 本当に気持ち悪いんだよ!」

もう一度。今度は少し強めの言葉で。
普段僕が使わない声のトーンに怯んだのか、腕の力が緩んだところで突き飛ばすように相手の胸元を両手で押した。
容赦なく力を込めたからバランスを崩して後ろに倒れる。
大きな水しぶきが跳ねた。
お湯が顔にかかったけど気にしない。

気持ちの悪い拘束が取れて。
僕はようやく自由になったので、ゆっくりと立ち上がる。
浴槽の縁を跨ぎ、髪から滴る雫を零しながら自分の足で歩いていく。
浴室のドアを塞ぐように立っている似非ヒーローの横をすり抜けるようにして出ていこうとしたのに腕を掴まれた。

「待てって」

君達、人の肌に気安く触れすぎじゃない?
やめてよ。せっかくお風呂に入ったのに汚くなっちゃったじゃん。
僕は待てと言われて待てる素直な犬じゃないからさ。
命令するのやめてくれる?

きつく睨み返して。掴まれた腕を無言で振りほどく。
思ったよりも簡単に手がほどけて拍子抜け。
似非ヒーローはヒロインのことを傷付けないルールを今でも守っているのかな?
でもね、物理的に守れても精神的に傷付けていたら意味が無いんだよ。

この人達と同じ空気を吸っている事実が耐え難くて。
まとわりつくバラの香りが気に入らなくて。
そのままバスルームを抜けてリビングへと続く廊下に出た。

「とりあえず体拭けって」

似非ヒーローが後を追って来るのは無視。
大判のバスタオルを僕の肩にかけようとしてくるのは叩き落す。
僕に構うなって言わなきゃ分かんないのかな?
鬱陶しいんだよ。
僕は一人の時間が欲しくてお風呂に入ったのに。これ以上邪魔をしないで。

「佐倉が怒るのは分かるけど、圭がバグってる状況じゃ、ああするしかねえんだよ。オレなりにお前を守ろうとしてんだって。分かってくれよ」

どうやったって分かんない。
風呂覗きにまともな正義なんてあるわけない。
君達は僕の尊厳を軽んじている。

「サイアク踏まないようにってすると、こーするしかねぇんだよ」

最悪ってなに?
あの人、僕のこと殺すの?
僕死んじゃうの?
やれるもんならやってみろよ。

「まずは体拭け。髪濡れたままじゃ風邪引くぜ」

普段、僕が言わなきゃドライヤーをしない君に髪が濡れているとか言われたくない。
いまは夏だ。少々濡れたままでいたって平気だ。

廊下の終わり。リビングに繋がるドアを開けて。後ろ手に閉める。
ドアが閉まる音がする前に。大きな気配がついてきた。
どこまでも追いかけてきて。無駄に大きな存在が鬱陶しい。

「ガキみたいにダダこねてんじゃねえよ」

僕の怒りを駄々っ子のワガママのように言われた。
失礼な奴だな。僕は考え無しな子供じゃない。
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