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真実のその先へ7
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母親といえば。
圭介さんのお母さんは僕が誘拐される前に亡くなっていると言っていたけど。
お葬式とかってどうなったんだ?
入院先の病院で亡くなったとして。
子供だけでそういったことを執り行うことはさすがに無理だろうし。
「僕の事はなんとなく分かってきましたが。亡くなられたお母さんのことはどうしたんですか? 圭介さんひとりじゃ葬儀の準備も難しいですよね?」
人が亡くなった直後って。
亡くなった人のことを思う時間はあんまりない。
葬儀の手配や役所の手続き。
福島の爺ちゃんの葬式はやることがたくさんで大変そうだなって思ったことを覚えている。
忙しそうにしている両親を見ながら僕は葬儀会場の隅っこで親戚の小さい子達と折り紙をしてじゃまにならないよう過ごしていた。
子供達が折り紙に飽きたら葬儀会場の探検に出かけて。
そこで出会った親戚のおじさんがお小遣いをくれたから、それを持って斎場近くのコンビニにお菓子を買いに行ったりもした。
小さな子達の相手をするのが両親の手伝いになるのだと、亡くなった爺ちゃんの手向けになるのだと僕は願っていた。
それがその時僕にできる唯一のことだったから。
何もしない時間は勿体ないと爺ちゃんは生前に言っていた。
亡くなる直前まで米農家として年中休みなく働き続けた爺ちゃんの生き様。
僕は葬式の最中、その言葉を守ることに精一杯だった。
圭介さんの亡くなったお母さんの話を聞いて。
僕も亡くなった祖父のことを思い出したりしていたから。
このあと圭介さんの言う“亡くなったあとの片付け”が意味する行動についての説明が理解できなかった。
「母親なら腐らないように冷蔵庫に突っ込んどいたよ。だから唯のこと相談するついでに多菊さんに母親の死体についてもお願いした。多菊さん仕事出来る人っぽかったし実際有能な人で助かったよ。うまいことやってくれた」
亡くなったお母さんを冷蔵庫に入れた?
遺体の扱い。大切な人だと思ってる?
荼毘に付す支度をする気はなかったの?
「おうちで看取られたなら亡くなった後に病院とかに連絡しなきゃいけないんじゃ」
「せっかく最期まで隠し通したんだから言うわけないだろ。だって母親が死んだの知られたら俺は養護施設に入れられちゃうじゃん。ちゃんと自活出来てたのに、わざわざ不自由な生活を選ばないでしょ?」
自分本位な考えを元に病気だったお母さんを病院に連れて行かなかったのだと言っているように聞こえた。
圭介さんが自由に自宅で過ごすために必要な母親という存在を維持していただけ。
「言ったじゃん。ガキの頃から俺が金の管理してたって。管理しすぎて母親の小遣い減らしたら、草欲しさにウリはじめて病気もらってきて結果死んじゃったけど。それは俺の管轄外だよね。いちおう最期まで面倒はみてやったし」
圭介さんとお母さんの間にあるのは情ではなく義務。それと世間体。
「お母さんの病気って」
「AIDSと梅毒のハイブリッド。たぶん先にAIDSもらって、その後に梅毒も持ち帰ってる。病院嫌いな人で連れていこうとすると暴れるから、俺が見立てた素人診断だけどね」
個人で売春を行い、気づけば命に関わる病気にかかってしまった。
この場合せめてそういうお店で管理されていたら。
病気にならないで済んだんじゃ。
もし病気にかかったとしてもすぐに病院にかかれたはず。
圭介さんも、圭介さんのお母さんも。
ひとりで判断した結果がいたましい。
「救急車呼べば救急隊が押さえつけて搬送しただろうけど。そこまでして連れていったところで俺に得はないし。それなら家で寝ててくれた方がいいかなって」
お母さんが入院になったら圭介さんは施設に入れられちゃうから。
それを避けたかった圭介さんは自宅でお母さんの看病をすることにした。
でもAIDSの治療って家で出来るものなのか?
専門の薬は医者にかからなければ手に入らない。
薬以外にも処置が必要になることもあるんじゃないの?
「世の中って便利に出来てて。母親の医療券渡したら薬を調達してくれるブローカーがいたんだ。そいつが薬や点滴とか各種詰め合わせセットをサブスクしてくれた。入院するのに比べたら粗悪な環境でも。途上国の劣悪な環境よりはマシってぐらいには整えたつもりだよ」
その詰め合わせの中には本来なら手に入らない大麻も入ってた。
そもそも生活保護受給者の医療券は本人でなければ使えないはずなのに。
それを他人に渡していいわけがない。
圭介さんの幼少期はあれこれと違法過ぎて。
たしかに混乱期の鞘間組にとってアキレス腱になっただろう。
そして聞かされた僕にもダメージが。
これ以上はいけない。耐えられない。
限界が来て心が悲鳴をあげる。
だから穏便に伝えることにしたんだ。
もういらないって。
「圭介さん、いろいろ話してくれてありがとうございます。でも、ちょっと、気持ちの整理がしたいです」
圭介さんのお母さんは僕が誘拐される前に亡くなっていると言っていたけど。
お葬式とかってどうなったんだ?
入院先の病院で亡くなったとして。
子供だけでそういったことを執り行うことはさすがに無理だろうし。
「僕の事はなんとなく分かってきましたが。亡くなられたお母さんのことはどうしたんですか? 圭介さんひとりじゃ葬儀の準備も難しいですよね?」
人が亡くなった直後って。
亡くなった人のことを思う時間はあんまりない。
葬儀の手配や役所の手続き。
福島の爺ちゃんの葬式はやることがたくさんで大変そうだなって思ったことを覚えている。
忙しそうにしている両親を見ながら僕は葬儀会場の隅っこで親戚の小さい子達と折り紙をしてじゃまにならないよう過ごしていた。
子供達が折り紙に飽きたら葬儀会場の探検に出かけて。
そこで出会った親戚のおじさんがお小遣いをくれたから、それを持って斎場近くのコンビニにお菓子を買いに行ったりもした。
小さな子達の相手をするのが両親の手伝いになるのだと、亡くなった爺ちゃんの手向けになるのだと僕は願っていた。
それがその時僕にできる唯一のことだったから。
何もしない時間は勿体ないと爺ちゃんは生前に言っていた。
亡くなる直前まで米農家として年中休みなく働き続けた爺ちゃんの生き様。
僕は葬式の最中、その言葉を守ることに精一杯だった。
圭介さんの亡くなったお母さんの話を聞いて。
僕も亡くなった祖父のことを思い出したりしていたから。
このあと圭介さんの言う“亡くなったあとの片付け”が意味する行動についての説明が理解できなかった。
「母親なら腐らないように冷蔵庫に突っ込んどいたよ。だから唯のこと相談するついでに多菊さんに母親の死体についてもお願いした。多菊さん仕事出来る人っぽかったし実際有能な人で助かったよ。うまいことやってくれた」
亡くなったお母さんを冷蔵庫に入れた?
遺体の扱い。大切な人だと思ってる?
荼毘に付す支度をする気はなかったの?
「おうちで看取られたなら亡くなった後に病院とかに連絡しなきゃいけないんじゃ」
「せっかく最期まで隠し通したんだから言うわけないだろ。だって母親が死んだの知られたら俺は養護施設に入れられちゃうじゃん。ちゃんと自活出来てたのに、わざわざ不自由な生活を選ばないでしょ?」
自分本位な考えを元に病気だったお母さんを病院に連れて行かなかったのだと言っているように聞こえた。
圭介さんが自由に自宅で過ごすために必要な母親という存在を維持していただけ。
「言ったじゃん。ガキの頃から俺が金の管理してたって。管理しすぎて母親の小遣い減らしたら、草欲しさにウリはじめて病気もらってきて結果死んじゃったけど。それは俺の管轄外だよね。いちおう最期まで面倒はみてやったし」
圭介さんとお母さんの間にあるのは情ではなく義務。それと世間体。
「お母さんの病気って」
「AIDSと梅毒のハイブリッド。たぶん先にAIDSもらって、その後に梅毒も持ち帰ってる。病院嫌いな人で連れていこうとすると暴れるから、俺が見立てた素人診断だけどね」
個人で売春を行い、気づけば命に関わる病気にかかってしまった。
この場合せめてそういうお店で管理されていたら。
病気にならないで済んだんじゃ。
もし病気にかかったとしてもすぐに病院にかかれたはず。
圭介さんも、圭介さんのお母さんも。
ひとりで判断した結果がいたましい。
「救急車呼べば救急隊が押さえつけて搬送しただろうけど。そこまでして連れていったところで俺に得はないし。それなら家で寝ててくれた方がいいかなって」
お母さんが入院になったら圭介さんは施設に入れられちゃうから。
それを避けたかった圭介さんは自宅でお母さんの看病をすることにした。
でもAIDSの治療って家で出来るものなのか?
専門の薬は医者にかからなければ手に入らない。
薬以外にも処置が必要になることもあるんじゃないの?
「世の中って便利に出来てて。母親の医療券渡したら薬を調達してくれるブローカーがいたんだ。そいつが薬や点滴とか各種詰め合わせセットをサブスクしてくれた。入院するのに比べたら粗悪な環境でも。途上国の劣悪な環境よりはマシってぐらいには整えたつもりだよ」
その詰め合わせの中には本来なら手に入らない大麻も入ってた。
そもそも生活保護受給者の医療券は本人でなければ使えないはずなのに。
それを他人に渡していいわけがない。
圭介さんの幼少期はあれこれと違法過ぎて。
たしかに混乱期の鞘間組にとってアキレス腱になっただろう。
そして聞かされた僕にもダメージが。
これ以上はいけない。耐えられない。
限界が来て心が悲鳴をあげる。
だから穏便に伝えることにしたんだ。
もういらないって。
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