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真実のその先へ5

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「親父の屋敷は外から中に入る警備は厳重だったけど。中から外に出るのはそこまで厳しくはなかった。だから警備の目を盗んで逃げ出す計画を立てはじめたところで俺が兄貴の子供じゃなくて兄弟、つまり親父の落し子だって分かって。とりあえず俺は殺されないことになった」

まずは圭介さんの身の安全が保証されたのは良かった。
じゃないと自分自身を捨て石に使いそうな危うさがある。

「俺の意見もようやく聞いてもらえるようになって。それまでは発言権ないガキだったのが急にチヤホヤされて、俺の父親はどんだけ権力持ってたんだって驚いたね」

お義父さんの威を借る圭介さん。
ちょっと危険。

「唯を生きたまま家に帰すために。俺が使えるカードは俺自身に流れる血だけで。DNAの情報を交渉に使ったんだ」

田中保の実の息子って事実はそこまで重要なのか。

「唯を殺したら俺は自分を一番嫌な形で有効利用する。鞘間の内ゲバに便乗しようとしてる第三勢力に俺の事売り込んでやるって鈴さんに啖呵切ったね」

やっぱり。圭介さんの計画って自分のことは大事にしてない。
そうまでして僕を助けようとしてくれたのはなんで?
だって僕は運悪く攫われただけの、ただの子供だよ。
特別な血縁もなければ才能もない。普通の子供。

「ヤクザの世界なんて欠片も分かってないハッタリだったんだけど。それまで俺が過ごしてきた生育環境もコミで。その時の鞘間にはこれ以上ない脅しになった」

お母さんとふたりで過ごしていた日々すらも交渉の材料に使ったんだ。
そういえば圭介さんのお母さんは?
一緒に屋敷に来ていないみたいだけど。
病気をしていたと言っていたし、もしかして入院していたのだろうか。

「唯を家に帰すと決めたのが9日の夜。その時点でメディアの報道がかなり熱を帯びていた。これ以上長引かせるのは良くないと判断して、準備が済み次第、唯を解放することにした」

それが話し合いの翌日。8月10日。
昼のワイドショーが放送している時間帯に僕は自由の身になった。

「唯には変質者に攫われた偽装をいくつかした。見つかった時に着ていたワンピースもそのひとつ。背中にファスナーあるデザインの服だった。ひとりじゃ着られないからって唯の着替え手伝ったの俺だよ」

誘拐した男の子に女の子用の服を着せるのは、たしかにヤバめの趣味の人。
あれ? 僕の着替えを圭介さんが手伝ってくれたのなら。
圭介さんが男にロリータファッションを着せるのが好きになるきっかけって。
この事件だったんじゃ。

架空の歪んだ性癖の犯人像が原因で圭介さんに悪い影響を与えてしまっていないか。
それは健全なる児童育成に良くない。

「着替えも済んで車に乗せるって時に唯が俺から離れたくないって泣いちゃって。仕方がないから俺も一緒に荒川まで行くことになった」

圭介さんに懐き過ぎてる。
ずっとそばにいて守ってくれていたとはいえ、離れるのを嫌がって泣くとか。

「車で1時間ぐらい走って。河川カメラの有無や人通りを何度も確認して。安全が確保出来たところで唯を降ろしてた。もう夢から覚める時間だよ。パパとママが待ってるから。走って。って川沿いの歩道を真っ直ぐ走るように伝えて。唯は素直な良い子だから、ちゃんと俺の言う事聞いてくれたよね。だからすぐに保護された」

夢の終わり。そう言われて僕は走ったんだ。
そして、言われた通りに両親の元に戻れた。
現実に返された僕は日常を過ごして。
いつの間にか長い夢を忘れてしまった。

「これで説明は一通り終わりかな。ちゃんと2500文字以内だよ」

文字数は聞いてるだけでカウントしてないから正確には分からない。
でも、話してくれた時間的に多分2500文字くらいだったんじゃないかな。知らないけど。
圭介さんが上手に話せたよ。褒めて。って顔してるし、腕を伸ばして頭を撫でてあげる。
他にどう反応したらいいのか分からなかったから。

だって聞かされたところで、やっぱり何も思い出せなくて。
映画のワンシーンを聞かされている気分になっただけ。
本当に僕の身に起きたことなのか誰も証明できない。20年前の出来事。

「よし。次は質疑応答だ。圭は佐倉の質問に答えてやれ。佐倉、聞きたいことはなんでも聞けよ。今ならNGなしで答えてもらえるぞ」

嬉しそうにしてる圭介さんをなでなでしてたら玲司君から次の指示が出された。
今度は僕にも。

だけど急に質問を募集されても。
こんな重大な問題。事前に用意をさせてくれなきゃ。
聞きたいこともまとまらないよ。
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