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めいめいオリジナル2
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「唯の名前も素敵な名前だよ」
「僕の名前はそんなに良いものじゃないです。唯一無二の子供って意味で両親は名付けたというけれど」
名付けの時の状況は僕が育っていく中で変化してしまった。
「生まれた時は唯一の子供だったかもしれません。だけど妹の瑠歌ちゃんが産まれてからは唯一の男の子になって。弟の雄大君が産まれたら唯の子供」
そう。僕は字が表すとおりの子供になった。
取り立てて目立つことの無い。何もない子供。
それどころか不良債権みたいな。
「僕、コスパが悪い子供なんです。産まれる前から不妊治療が必要で、産まれてからも風邪こじらせて入院したり、小さいうちは体が弱くて。小学校に上がる頃には風邪ひいても薬飲んで家で寝てれば治るくらいになったけど」
僕が学校で風邪とかの病気もらってくる度に瑠歌ちゃんや雄大君にも移しちゃうのが申し訳なくて。
インフルエンザにかかったときは近所に住むお祖父ちゃんの家に泊めてもらったりもした。
その夜はお父さんも泊まりに来て一緒に寝てくれたから。家でひとりで寝てるよりも安心できたけど。
今思うとお祖父ちゃんにインフルエンザ移しちゃわなくて良かったよ。
「挙句に年頃になっても彼女が出来ない僕に対して母は“女の子みたいな名前を付けちゃったせいだ”なんて言うんです」
なんでこんな名前付けちゃったんだろう、なんて僕に言われても。
僕だってもっと男だって分かりやすい名前にして欲しかったよ。雄大君みたいに。
「名前なんて関係ない。僕は彼女が欲しいんじゃない。彼氏が欲しいんだって何度も言いそうになって。何度も飲み込んでました。だってうちの家族は同性愛に否定的だったから」
とくに母さんと瑠歌ちゃんははっきりと拒絶の言葉を口にしていた。
それが僕に向けられた言葉ではないと分かっていても苦しかった。
「言えるわけないです。だって、言ったら僕は唯の子供ですらなくなっちゃう」
大学は家から通っていたけど一緒に暮らしていくのがいよいよ限界で。
一人暮らしが出来るなら就職先なんて何でも良かったんだ。
母さんは大学まで出ておいて高卒でもなれるような仕事に就くことをコスパが悪いと言ったけど。
就活に失敗した兄だと瑠歌ちゃんに馬鹿にされたけど。
家を出て、あの人達の声を聞かないで済むだけで、こんなにも平穏に過ごせるんだって驚いた。
そうして心に余裕が出来たから、出会いを求めて歌舞伎町にも行くようになって。
だけど、そうして一歩踏み出してみてもうまくいかなくて。
「僕はずっと誰かの唯一になりたくて、でもなれないんだって思ってました」
たったひとりでいいから。
偽らないそのままの僕のことを受け入れてくれる人が欲しかった。
でも、そんな人がどこにいるのか。
願っても叶わない夢物語だと期待するのもやめた頃。
圭介さんに出会ったんだ。
「僕は自分の名前があんまり好きじゃなかったんです。改名手続きについて調べたこともあるぐらい。でも、圭介さんに唯って呼んでもらえるようになって。そこまで嫌いじゃないっていうか。圭介さんが呼んでくれるなら悪くないなって思えるようになったんです」
大好きな人が呼んでくれるなら。どんな名前だって嬉しいよね。
「じゃあオレも佐倉じゃなくて唯って呼ぶか?」
玲司君が拗ねた子猫のように僕の肩に鼻先を押し付けながら言った。
「えー。玲司君に佐倉って呼ばれるのも好きだから佐倉のままがいい」
「でも鈴村も呼び方一緒じゃん。オレも特別な呼び方がいい」
「玲司君の“佐倉”と鈴村さんの“サクラ”は全然違うよ?」
違いが分からないの?
僕的には全然違うんだけどな。
僕の感覚は人に伝わらないみたい。
「唯のことを唯って呼べるのは俺だけー」
圭介さんは嬉しそうに何度も僕の名前を呼んだ。
呼びすぎだよ。何回呼ばれても僕はひとりだけだよ。
「僕の名前はそんなに良いものじゃないです。唯一無二の子供って意味で両親は名付けたというけれど」
名付けの時の状況は僕が育っていく中で変化してしまった。
「生まれた時は唯一の子供だったかもしれません。だけど妹の瑠歌ちゃんが産まれてからは唯一の男の子になって。弟の雄大君が産まれたら唯の子供」
そう。僕は字が表すとおりの子供になった。
取り立てて目立つことの無い。何もない子供。
それどころか不良債権みたいな。
「僕、コスパが悪い子供なんです。産まれる前から不妊治療が必要で、産まれてからも風邪こじらせて入院したり、小さいうちは体が弱くて。小学校に上がる頃には風邪ひいても薬飲んで家で寝てれば治るくらいになったけど」
僕が学校で風邪とかの病気もらってくる度に瑠歌ちゃんや雄大君にも移しちゃうのが申し訳なくて。
インフルエンザにかかったときは近所に住むお祖父ちゃんの家に泊めてもらったりもした。
その夜はお父さんも泊まりに来て一緒に寝てくれたから。家でひとりで寝てるよりも安心できたけど。
今思うとお祖父ちゃんにインフルエンザ移しちゃわなくて良かったよ。
「挙句に年頃になっても彼女が出来ない僕に対して母は“女の子みたいな名前を付けちゃったせいだ”なんて言うんです」
なんでこんな名前付けちゃったんだろう、なんて僕に言われても。
僕だってもっと男だって分かりやすい名前にして欲しかったよ。雄大君みたいに。
「名前なんて関係ない。僕は彼女が欲しいんじゃない。彼氏が欲しいんだって何度も言いそうになって。何度も飲み込んでました。だってうちの家族は同性愛に否定的だったから」
とくに母さんと瑠歌ちゃんははっきりと拒絶の言葉を口にしていた。
それが僕に向けられた言葉ではないと分かっていても苦しかった。
「言えるわけないです。だって、言ったら僕は唯の子供ですらなくなっちゃう」
大学は家から通っていたけど一緒に暮らしていくのがいよいよ限界で。
一人暮らしが出来るなら就職先なんて何でも良かったんだ。
母さんは大学まで出ておいて高卒でもなれるような仕事に就くことをコスパが悪いと言ったけど。
就活に失敗した兄だと瑠歌ちゃんに馬鹿にされたけど。
家を出て、あの人達の声を聞かないで済むだけで、こんなにも平穏に過ごせるんだって驚いた。
そうして心に余裕が出来たから、出会いを求めて歌舞伎町にも行くようになって。
だけど、そうして一歩踏み出してみてもうまくいかなくて。
「僕はずっと誰かの唯一になりたくて、でもなれないんだって思ってました」
たったひとりでいいから。
偽らないそのままの僕のことを受け入れてくれる人が欲しかった。
でも、そんな人がどこにいるのか。
願っても叶わない夢物語だと期待するのもやめた頃。
圭介さんに出会ったんだ。
「僕は自分の名前があんまり好きじゃなかったんです。改名手続きについて調べたこともあるぐらい。でも、圭介さんに唯って呼んでもらえるようになって。そこまで嫌いじゃないっていうか。圭介さんが呼んでくれるなら悪くないなって思えるようになったんです」
大好きな人が呼んでくれるなら。どんな名前だって嬉しいよね。
「じゃあオレも佐倉じゃなくて唯って呼ぶか?」
玲司君が拗ねた子猫のように僕の肩に鼻先を押し付けながら言った。
「えー。玲司君に佐倉って呼ばれるのも好きだから佐倉のままがいい」
「でも鈴村も呼び方一緒じゃん。オレも特別な呼び方がいい」
「玲司君の“佐倉”と鈴村さんの“サクラ”は全然違うよ?」
違いが分からないの?
僕的には全然違うんだけどな。
僕の感覚は人に伝わらないみたい。
「唯のことを唯って呼べるのは俺だけー」
圭介さんは嬉しそうに何度も僕の名前を呼んだ。
呼びすぎだよ。何回呼ばれても僕はひとりだけだよ。
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