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くらげ

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おいたちラプソディ10

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「それで栞奈ちゃんは今どこにいるんですか?」

安奈さんと一緒にいるんでしょ?
その安奈さんは今どこにいるのかな? 元気にしてる?
圭介さんが高校生の時の子なら、栞奈ちゃんは中学生になってるよね。お年頃じゃん。

「俺には分からない。生まれてすぐに養子に出したから」
「養子って。安奈さんが育ててるんじゃないんですか?」

家族が欲しくて、大変な思いをしてまで産みたいって決めたんじゃないの?

「安奈がそうするって決めたんだ。自分の顔はLittle WOMENにバレている。見つかったら子供にまで危害を加えられるかもしれないって心配して。たしかに、あそこまで安奈のことを探してるLittle WOMENが、産まれたからって諦めてくれるとは思えなかった」

それじゃあ。安奈さんはLittle WOMENのせいで子供と離れ離れになってしまったんじゃないか。
本当、徹底的にエネミー。

「安奈は家族が欲しくて子供を産みたがったのに、子供を守るために親子の縁を切るって決めたんだ。どこから栞奈の存在がバレるか分からなかったから。安奈はやれること全部やったよ。身バレしている親とは戸籍を別にして、最後の繋がりになる氏名すら捨てて」

本来、親子の戸籍をそれぞれに分けて分籍したとしても、親子関係が変わる訳では無い。
けれども、児童保護の観点から弁護士等を利用して家庭裁判所に申請すると親から子を探すことを出来なくすることが可能。
そういった親から虐待を受けている子供を守るための制度を活用したそうだ。
杏奈さんは両親からネグレクトを受けていたと申し立てて家族の縁を切った。
あながち嘘ではないのが悲しい。

さらに養子縁組と改名手続きをすれば安奈さんが安奈さんだった痕跡が消える。
家族の繋がりを表す苗字も親から貰った名前も捨てる決意をさせるぐらいにLittle WOMENが執拗に彼女を探していた。
こんな悲しい決断ってないよ。

「俺は何とか安奈が子供を育てられないかってしたんだけど。ガキに何ができる訳でもない。とにかく無力だって思い知らされたね」

高校生じゃ何も出来なくて普通なんだよ。
無力感を味わう必要なんてないはずなのに。
有能過ぎるせいでしなくてもよい苦しみを背負い過ぎている。

「それともうひとつ理由があって。俺、金だけは持ってたじゃん。それが怖かったんだって」

お金が怖い?

「安奈がひとりで育てるとしても俺は栞奈を認知する。そうしたら事ある毎に俺から金をせびる自分が想像出来て嫌だって。娘を金蔓として育てたくないって」

子供を育てるための養育費は父親なら払うものだよ。
それを金蔓だなんて。

「安奈自身が両親の離婚時に養育費や児童手当貰うための金蔓として母親に引き取られたあと。母親のストレスの捌け口に使われていたから。小学校に入学した頃、母親が再婚して半分血の繋がらない妹が産まれると小間使いとして扱われた。そんな家庭環境だったから子育てのビジョンが見えなかったんだと思う」

小間使い。ヤングケアラーのような生活だったんだろうか。
まだ親を頼りたい年頃なのに、家族として数えてもらえていないような言い方。

「俺もろくな環境で育ってないから家族のなり方なんて分かんないし。父親としての役割なんて言われても金渡すぐらいしか思いつかなくて。それで俺達じゃ栞奈を育てられないってなったんだ」

圭介さんだけじゃなくて、安奈さんもとても賢い人なんだと思う。
だからふたりで未来を予想して、その結果を憂いて、栞奈ちゃんを人に託す事に決めた。
これが目の前の欲求に素直な子だったら栞奈ちゃんを自分の手元から離さなかっただろう。
その結果がどうなろうとも。

「親父がツテを使って、これ以上ないってくらい良い縁を持ってきてくれたよ。夫婦それぞれに病気が理由で子供が持てない。けれども子供が大好きだっていう人達。母親は小児心理を専攻として学んでいて幼稚園の教師の資格も所持。家庭的な面もあり、子育ての為に家庭に入ることは可能。そして子煩悩で経済力のある父親。親族も特別養子縁組に対して偏見のないクレバーな祖父母や叔父叔母。養親としてこれ以上ない完璧な家族」

お義父さんは栞奈ちゃんのために本気出したんだろうな。
それもまた祖父の愛。

「これだけしっかりした家庭を用意されたら、自分が育てるよりも安心だって、安奈は泣いてたよ。それが安堵なのか、別れに対する悲しみなのか、俺には分からなかったけど。腹の中の子がたくさんの人に歓迎されて産まれてくることを、ふたりで喜んだ」

産まれてくることをたくさんの人達から待ち望まれていた栞奈ちゃん。
みんなに愛されて産まれてきたんだ。

「養親は優しい人達で、子供の名前を俺達で決めていいって言ってくれたから。俺と安奈で相談して、栞奈って名前に決めた。名付けのプロってぐらい子供に名前つけまくってる親父にも相談して、変じゃないか聞いた」

お義父さんは自分の子供だけじゃなくて、頼まれて人の子供にも名付けてそうだもんね。

「カンナの花は大きくて華やかだから儂は好きだなーって。全然役に立たないふざけた答えだったけど」

お義父さんらしい。

「産まれてくる栞奈は、退院と同時に養親に引き取られることになっていたから。俺達は産まれてから退院までの6日間だけ親子だったけど。病室で羽みたいに軽い栞奈を抱いた時、俺の母親もこんな気持ちだったのかなって思って。親父に会ってすぐの頃に、怒りに任せてアルバム捨てたのを、少し後悔したんだ」

それがいまここにある写真。
捨てたはずのものをお義父さんは大事に残しておいてくれたんだ。

「親父が残しておいてくれたことは、まあ感謝しとくかな。隠しておかないで、もっと早くに渡せよとは思うけど」
「きっと、渡すタイミングが掴めなかっただけで。これからは僕が大切に保管します」

だからもう間違って捨てることもないよ。
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