恋愛サティスファクション

くらげ

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可視化ライブラリ

おいたちラプソディ2

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いつの間にか圭介さんがリビングに来ていて。
ソファの後ろから覗き込まれていた。
視線は僕の膝の上。広げたアルバムに向けられている。

本当に圭介さんは写真を捨てていたの?
それなら圭介さんの捨てたかった過去を僕が勝手に見てしまうのは駄目な気がする。

「唯には俺の格好良いとこだけ見せたかったのになー」

小さな圭介さんはカッコいいというよりカワイイ感じだけど。
これはこれで眼福だよ。
キラキラしてるよ。

「せめて見るとしてもこの辺からじゃない?」

そう言って圭介さんが後ろから腕を伸ばしアルバムをめくる。
そこには僕のイメージする通りの、小綺麗な格好をした小学生の圭介さんがいた。

「母親が死んでからいろいろあって。生活激変しちゃったー」
「お母さん、亡くなってるんですか?」
「うん。長患いの末にね。もともと丈夫な人ではなかったから」

小学校の入学式の写真がお母さんと写ってる最後の写真。
その後一緒に写っている写真がないのは療養していたから?

「母親のことは良いんだ。俺、まだ子供であんまり覚えてないから」

覚えてないのと懐かしむのは両立するよ。
話したくない雰囲気だから聞かないけど。
お母さんの病気のことをあんまり思い出したくないのなら触れない。
大切な人が苦しんでた記憶なんて好んで思い出すものでもない。

「それで俺は小3の2学期に転校して。これはその登校初日」

転校初日の校舎前で撮られた記念写真。
ブレザースタイルの制服とキャメル色した横型ランドセル。
そして背後に写る校舎に記された『考功小学校』の文字。

「圭介さん、考功学園の初等部に転入したの!?」

僕は中等部のことしか知らないけど考功って偏差値高めだよね。
それの初等部に編入って。編入試験も難しそう。
それに入学金や制服とかの費用は?

「編入にかかる諸費用は浮きこぼれ支援プロジェクトが出してくれて。俺はその1期生なんだー」
「浮きこぼれ?」
「勉強出来ない奴のこと落ちこぼれって言うじゃん。その逆で頭良くて学校の勉強が簡単すぎる奴のこと言うらしいよ」

めっちゃ賢い子ってこと。納得。

「そういう奴で家族も賢かったり金があれば私立に入れるとかも出来るけど、まあ一般的な家庭で小受は難しい。せっかくの頭脳が公立小学校の画一的な指導で埋もれるのは勿体ないって思う偉い人達が作った、通称つばさプロジェクト」

それはとても素敵なプロジェクト。
僕は中学受験をする時、中学校の先生をしていたお祖父ちゃんが相談に乗ってくれたけど。
そういう相談も家族に出来なければ勉強の仕方すら手探りになってしまう。

「立ち上げたばっかりで実績ないから受け入れてくれる学校がないのは分かるけど。考功に入れるのは最悪だよね」
「考功学園って自由な校風で有名ですよね? 中受のときに調べて生徒の自主性を育むカリキュラムがいいなって思ったけど」

初等部は違うのかな?

「自由っていうのは無法とは違うと俺は思うんだ。中にいた経験から言わせてもらうと、あそこは檻の中にクソガキ放り込んで放ったらかしてる無法地帯だよ」

無法地帯? 私立のしっかりした学校じゃないの?

「俺、初日から虐められたしねー。貧乏人が紛れ込んでるせいで臭くて授業になりませんって言われても。酷くない?」

そんなことを言う子供がいるなんて信じられない。
だって小さな頃から受験勉強をするぐらい賢い子達が通う学校でしょ?
そんな子がなぜ人を傷つけるようなことを言うのか。

「帰ってから虐められたって訴えても。殴り返せってヤクザみたいな対応策しか教えてもらえなくて。まあヤクザだから当たり前なんだけど」

いじめ問題ももちろん大事なんだけど。
ヤクザさんが家にいた?
つばさプロジェクトはヤクザ主導なプロジェクトなの?

「仕方がないから自分で考えるよね。どうしたら過ごしやすくなるかなー。面倒なのはやだなーって」

そこで学校の先生や、浮きこぼれ支援をしてくれている大人達を頼れなかったのは辛かったはずなのに。
なんでそんなふうに淡々と話せるのだろう。
自分で何とかすることに慣れすぎている。
小学3年生なんてまだまだ子供で親の手をかけてもらう時期だ。
甘えられるはずのお母さんを亡くしたばかりの子供に対して、周りの大人達のその対応は褒められたものではない。
それなのに浮きこぼれるほど賢いと8歳の子供がひとりでなんでも出来ちゃうの?
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