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きげんコンチェルト5
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「ここ。鈴さんが唯のことを落ちてくる座布団から守るようにしてるよね」
圭介さんが新聞記事を指差した。
そこには観客席に座る僕達が写っている。
「あの時は危ないからそばにいなさいって」
僕は娘として、しっかりお母様に守ってもらった。
「今まで鈴さんがこんなふうに誰かを守るなんてなかったんだよ。自分の身は自分で守れってタイプだし」
昨日もそう言われた。
圭介さんに無理矢理押し倒された時。
自力で何とかしろって。頼ることすらさせてもらえなかった。
「それをこうやって守る相手が出てきたっていう衝撃。この娘は誰だ!? って大騒ぎになって、少しでも情報が欲しい人達がこうやって新聞に載るように仕向けたんだよ。どんな小さな情報でもいいから、この娘について知ってることを教えて欲しいって」
「そんなまさか」
もしそれが本当なら、マスコミに影響を与えられる鈴村さんのファンがいるってことで。
話を聞けば聞くほど鈴村さんが分からなくなる。
「そもそも。鈴さん愛好家ってどんな人達だと思う?」
「昔のお仕事のお客さんだった人?」
「そういう人もいるし、そういう人達のが熱狂的なファンになりがちだけど。大半は鈴さんの過去なんて興味なくて、今の鈴さんのコネクションが目当ての人達」
鈴村さん本人じゃなくて、まわりの人脈に興味がある人ってこと?
「仲良くしてたら得になるから擦り寄ってきてる人なんだよ。損得勘定の仲でもさ、お互いに利益を出し続けられるなら。まあ仲良くしてても損は無いし。マイナスな関係になったらその時に切ればいい」
金の切れ目が縁の切れ目。世知辛い。
かといって盲目的に好かれるのも。それはそれで重い。
鈴村さんの周りには普通の人はいないのかな。
「そういう大半の人達は鈴さんが産んだ子供か、産ませた子供かはそんなに気にしないんだ。誰との子かは少し気にするかもだけど。あと年齢的にイギリス留学してた時に作った子だとは思われるかな」
「失敬な。私の人生で最も真面目に生きていた時期だぞ。子供など作る暇はない」
圭介さんの予測に鈴村さんが抗議の声をあげる。
外国で学べなんてスパルタ。
それをやってのけた鈴村さんもすごい。
だから英語がすごく綺麗な発音だったんだ。
現地で学んでるんだね。
昨日の僕の見た目年齢から逆算するに、留学は上前津抗争のすぐ後ぐらい?
もしかして日本にいるより安全だからってイギリスに行くように言われたとか?
どうせ行くなら鈴村さんの学びになる経験をって学校に入学させたのは誰の判断?
そういう頑張った話も聞かせてくれたら良かったのに。
先日の説明は痛くて怖い話ばっかりだった。
「それは知ってるけど。そう思われそうだって言ってるだけだよ。ぶっちゃけ、実子でなくてもいいわけだし。大事なのは鈴さんの娘だと紹介されてること」
僕は鈴村さんの血縁者でもなんでもない赤の他人ですからね。
趣味で女装してたら、なぜだか娘として紹介されるまでになったけど。男だ。
「そろそろ代替わりがしたいんでしょ? 自分が表舞台からフェードアウトするために唯を新しいスケープゴートに据えようとしてるよね」
なんだそれ?
昨日みたいな社交を僕にやらせるつもり?
たしかに娘として挨拶してるし、次はこの子ですよっていうメッセージを送ったことになる。
けど、新しいスケープゴートって言い方。
まるで鈴村さんが現在生贄にささげられているように聞こえる。
そんな殊勝な人とは思えない。
「唯だけで回せる世界じゃないことは鈴さんも分かってるのに。人間、向き不向きってものがある」
「サクラにはサクラの良さがあると思って推薦しているのだけどね」
僕の良さってなんだ?
「それにサクラひとりに任せるのが難しいことでも圭君や玲司が支えてくれるだろう?」
「たしかに面倒ごとは俺の方で処理するけど」
ちょっと待って。
それって僕はただお飾りの神輿としてニコニコと笑っていればいいってこと?
馬鹿にするのも大概にしろよ。
娘を名乗ると決めた時から僕は腹をくくってるんだ。
「お母様。僕だって自分の仕事ぐらい自分で出来ます。引き継ぎ期間はきちんと取ってください」
「もちろん。私も今すぐ引退するつもりはないよ。まずは魔女見習いとして傍において、年単位での引き継ぎになるだろうね」
引き継ぎに必要な期間が年単位なことにちょっと怯みかけてるけど。
「やってみせます。魔女の後釜」
「さすが。私の見込んだ娘だね。心強い」
見込みがあるから任せられるのなら。
僕はその期待にこたえたい。
「さて。可愛い魔女見習いのサクラは母様の社会的地位を貶めるような告発はしないだろう?」
鈴村さんがにっこりと微笑んだ。
その論法は卑怯な!
昨日の写真のことを泰葉さんに相談しにくくされた。
鈴村さんの継子として親の不祥事は困る。
スムーズな跡目相続が理想だ。
「ほら。丸め込まれた」
玲司君が言わんこっちゃないって笑う。
むう。僕だって言われっぱなしにはならないぞ。
「泰葉さんには昨日の写真のことは言わないでおきます。でも! 次に何か僕が嫌がることしたら、どんな内容だったとしても親子の問題として泰葉さんに相談しますからね!」
二度はないぞ!
それを許したら三度、四度と繰り返される。
きちんと悪の芽を摘んでおかないと。
親子問題としての相談ならいいだろ。
鈴村さんはもっと社会の目を意識してください。
圭介さんが新聞記事を指差した。
そこには観客席に座る僕達が写っている。
「あの時は危ないからそばにいなさいって」
僕は娘として、しっかりお母様に守ってもらった。
「今まで鈴さんがこんなふうに誰かを守るなんてなかったんだよ。自分の身は自分で守れってタイプだし」
昨日もそう言われた。
圭介さんに無理矢理押し倒された時。
自力で何とかしろって。頼ることすらさせてもらえなかった。
「それをこうやって守る相手が出てきたっていう衝撃。この娘は誰だ!? って大騒ぎになって、少しでも情報が欲しい人達がこうやって新聞に載るように仕向けたんだよ。どんな小さな情報でもいいから、この娘について知ってることを教えて欲しいって」
「そんなまさか」
もしそれが本当なら、マスコミに影響を与えられる鈴村さんのファンがいるってことで。
話を聞けば聞くほど鈴村さんが分からなくなる。
「そもそも。鈴さん愛好家ってどんな人達だと思う?」
「昔のお仕事のお客さんだった人?」
「そういう人もいるし、そういう人達のが熱狂的なファンになりがちだけど。大半は鈴さんの過去なんて興味なくて、今の鈴さんのコネクションが目当ての人達」
鈴村さん本人じゃなくて、まわりの人脈に興味がある人ってこと?
「仲良くしてたら得になるから擦り寄ってきてる人なんだよ。損得勘定の仲でもさ、お互いに利益を出し続けられるなら。まあ仲良くしてても損は無いし。マイナスな関係になったらその時に切ればいい」
金の切れ目が縁の切れ目。世知辛い。
かといって盲目的に好かれるのも。それはそれで重い。
鈴村さんの周りには普通の人はいないのかな。
「そういう大半の人達は鈴さんが産んだ子供か、産ませた子供かはそんなに気にしないんだ。誰との子かは少し気にするかもだけど。あと年齢的にイギリス留学してた時に作った子だとは思われるかな」
「失敬な。私の人生で最も真面目に生きていた時期だぞ。子供など作る暇はない」
圭介さんの予測に鈴村さんが抗議の声をあげる。
外国で学べなんてスパルタ。
それをやってのけた鈴村さんもすごい。
だから英語がすごく綺麗な発音だったんだ。
現地で学んでるんだね。
昨日の僕の見た目年齢から逆算するに、留学は上前津抗争のすぐ後ぐらい?
もしかして日本にいるより安全だからってイギリスに行くように言われたとか?
どうせ行くなら鈴村さんの学びになる経験をって学校に入学させたのは誰の判断?
そういう頑張った話も聞かせてくれたら良かったのに。
先日の説明は痛くて怖い話ばっかりだった。
「それは知ってるけど。そう思われそうだって言ってるだけだよ。ぶっちゃけ、実子でなくてもいいわけだし。大事なのは鈴さんの娘だと紹介されてること」
僕は鈴村さんの血縁者でもなんでもない赤の他人ですからね。
趣味で女装してたら、なぜだか娘として紹介されるまでになったけど。男だ。
「そろそろ代替わりがしたいんでしょ? 自分が表舞台からフェードアウトするために唯を新しいスケープゴートに据えようとしてるよね」
なんだそれ?
昨日みたいな社交を僕にやらせるつもり?
たしかに娘として挨拶してるし、次はこの子ですよっていうメッセージを送ったことになる。
けど、新しいスケープゴートって言い方。
まるで鈴村さんが現在生贄にささげられているように聞こえる。
そんな殊勝な人とは思えない。
「唯だけで回せる世界じゃないことは鈴さんも分かってるのに。人間、向き不向きってものがある」
「サクラにはサクラの良さがあると思って推薦しているのだけどね」
僕の良さってなんだ?
「それにサクラひとりに任せるのが難しいことでも圭君や玲司が支えてくれるだろう?」
「たしかに面倒ごとは俺の方で処理するけど」
ちょっと待って。
それって僕はただお飾りの神輿としてニコニコと笑っていればいいってこと?
馬鹿にするのも大概にしろよ。
娘を名乗ると決めた時から僕は腹をくくってるんだ。
「お母様。僕だって自分の仕事ぐらい自分で出来ます。引き継ぎ期間はきちんと取ってください」
「もちろん。私も今すぐ引退するつもりはないよ。まずは魔女見習いとして傍において、年単位での引き継ぎになるだろうね」
引き継ぎに必要な期間が年単位なことにちょっと怯みかけてるけど。
「やってみせます。魔女の後釜」
「さすが。私の見込んだ娘だね。心強い」
見込みがあるから任せられるのなら。
僕はその期待にこたえたい。
「さて。可愛い魔女見習いのサクラは母様の社会的地位を貶めるような告発はしないだろう?」
鈴村さんがにっこりと微笑んだ。
その論法は卑怯な!
昨日の写真のことを泰葉さんに相談しにくくされた。
鈴村さんの継子として親の不祥事は困る。
スムーズな跡目相続が理想だ。
「ほら。丸め込まれた」
玲司君が言わんこっちゃないって笑う。
むう。僕だって言われっぱなしにはならないぞ。
「泰葉さんには昨日の写真のことは言わないでおきます。でも! 次に何か僕が嫌がることしたら、どんな内容だったとしても親子の問題として泰葉さんに相談しますからね!」
二度はないぞ!
それを許したら三度、四度と繰り返される。
きちんと悪の芽を摘んでおかないと。
親子問題としての相談ならいいだろ。
鈴村さんはもっと社会の目を意識してください。
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