恋愛サティスファクション

くらげ

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魔女の子のこった6

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時間になったのでお出かけです。
楓さんはここでお別れ。着物や帯はそのまま僕が貰って良いものらしい。
クリーニングの仕方はあとで鈴村さんに相談しよう。

さて今日も車で移動か。
昨日のゴツい四駆はお義父さんの車みたいで、今日は普通の黒いセダン。
初めましてな運転手さん付き。
夏目さんみたいに紹介してもらえない。
僕は話すことも出来ないし、よろしくお願いしますの気持ちを込めて丁寧に頭を下げておいた。

最近歩いてないから、そろそろ運動不足解消も考えないと。散歩でもする?
って涼しい車内でならいくらでも言えるよね。
車を降りて体育館まで向かう道。
夏の入道雲が空に広がる炎天下。レースの日傘はあっても気休めにすらならない。
ひんやりビーズ半衿も熱がこもって意味をなさない。
着物も帯も暑い。草履は痛い。苦行でしかない。

なのに着物って目立つのか他のお客さんからすっごく見られるんだ。
外国からの観光客さんは勝手に写真を撮ろうとしてくるし。
せめて撮るって言って。そしたらスマイルサービスするからさ。僕は可愛く撮られたい。

鈴村さんが僕らにカメラを向ける観光客さんにとても流暢な英語で対応してくれて。
せっかくだからって一緒に記念撮影をすることになった。
僕はモデルとかではないんだけど。
まあ、日本に来た記念に着物を着た人と写真を撮りたい気持ちは分からなくない。
僕だって海外旅行先で民族衣装を着てる人がいたら写真を撮りたい。

フランクに肩を抱いてくる観光客さん達とおもてなしの精神で写真を撮って。
関取の名前がプリントされたカラフルな旗が並ぶ通りを進む。
正面に見える建物が相撲をやっている体育館なんだろう。
ここまで遠かった。もっと中まで車を入れられるようにしてほしい。

「そろそろ保さんと待ち合わせしている場所だ。サクラ笑って。保さんを驚かせてやろう」

イエス、マム。任せてお母様。
暇を持て余したニート生活で無駄に鍛えた表情筋が役立つ時だ。
口角はほんの少しだけ上げて、逆に目尻はしっかり下がるように。
あくまでも自然に。わざとらしくない程度に。仕上がりはささやかな微笑み。

あれ? お義父さんもその後ろにいる人達もめっちゃびっくりしてる。
会場のスタッフさんまで慌ててどうしたの?
ザワつく皆さんに鈴村さんは涼しい顔。

「お待たせしてすみません。娘の支度に時間がかかってしまって」

違うよ。鈴村さんがいつまでたっても服を着なかったからじゃん。
遅れたのを僕のせいにしないで。

「いや。いいんだよ。儂も今来たところだ」

お義父さん、全身に汗をすごくかいているし、今来たところじゃないよね?
紳士がつく優しい嘘だ。
待ち合わせ場所で待っていたのに待ってないよって言うやつだ。

ところでお義父さん。鈴村さんとお話してるのに僕の方を見すぎじゃない?
そんなに変かな? 楓さんプレゼンツの和装コーデ。

「サクラも保さんにご挨拶しなさい」

鈴村さんが僕の日傘を代わりに持ってくれる。
ありがとう。両手があかないと話せないって不便だよね。

『お義父さん、こんにちは。今日は柏崎さんにもテレビ越しに挨拶できるって聞いて僕とっても嬉しくて。楓さんに着物を着せてもらいました。どうですか? 似合ってますか?』

ちゃんと可愛いかな?
テレビにいっぱい映してもらえそうかな?
お義父さんが褒めてくれたら自信になるんだけど。

「似合っておるぞー。可愛くて儂びっくりしてしまった。しかし本当にサクちゃんなのか?」
『僕は僕だよ? サクラだよ? ねえ、外は暑いんです。まだ中に入れない?』

もう限界だ。真夏の日差しから逃げたい。
挨拶なんて簡単でいいでしょ?
話ならいくらでも館内でしよう。
慣れない着物で熱中症になっちゃうよ。
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