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くらげ

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魔女の子のこった2

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「柏崎は鈴ちゃんを飲酒を伴う接待の場に呼んでお酒を飲ませた罪で有罪になっとるの。お酒を無理矢理に飲ませた強要罪。罪を償うために収容されてる加害者に被害者が直接会うことは許されない」
「鈴村さんが柏崎さんを訴えたんですか?」

昨日のあの様子からはそんなふうには見えなかった。

「強要罪は親告罪じゃないから鈴ちゃんの気持ちは関係ないの。裁判で判決が下ったら、その時から2人の関係は被害者と加害者」

好きな人が自分のせいで犯罪者になるなんて。
たしかに未成年者は適切な判断が下せないこともあるから、その分周りの大人達が正しく導く必要があるんだけど。
お酒を飲んだくらいで。
それよりも罪に問うべき事柄があるだろう。

「お酒を飲ませた罪ってことですが、鈴村さんはそれ以上のことをしてましたよね?」

そうだよ。男娼として客を取っていたとはっきり言っていた。
あっちの方がヤバい。
お酒より売春で捕まりましたのが理解出来る。

「男の子が春を売っても罪にはならんよ。売春はあくまでも女の人が売っているものに関する法律だから。だからね、鈴ちゃんの当時のお仕事に関してはとっても扱いが難しくて」

また男だから犯罪じゃないって言われた。
なんで性別の違いで被害も罪も認められないものになるんだ?
鈴村さんは法律の網目からこぼれ落ちてしまった存在みたいだ。

「やろうと思えば児童福祉法で裁ける。鈴ちゃんは当時まだ未成年だったし。でもね、鈴ちゃんのお客様は身分のある方もいたから」

その偉い人に火の粉が飛ばないよう、鈴村さんの売春に関する罪はなかったことにされたんだ。

「それで納得しない人達もいて、柏崎は管理売春と同等の刑期にあたる飲酒の強要で裁かれた」
「刑務所に入る期間が同じだからって、それぞれ別の犯罪ですよ。それに柏崎さんはそれで良かったとしても鈴村さんは? 未成年だから直接罪には問えなくても、反省して更生する為のステップが必要ですよね。それなのに罪をなかったことにされたら次に進めないじゃないですか」

大学時代、気まぐれに受講した少年犯罪についての講義。
そこで学んだのは少年法の理念と運用について。
少年法で一番大切なのは処罰ではなく更生なんだって話が心に残っている。

グループワークでは被害者感情や殺人などの凶悪犯罪の取り扱いについて広く議論を交わしたっけ。
僕は聞き役に徹したけどね。
法学部の法律ガチ勢な人達にうっかり紛れ込んだ僕には意見を言うほどの知識もない。
題材として選ばれた実在の犯罪に対して、こんなにも多様な考え方があるのかと驚かされた。
教授には僕がオブザーバーに徹した班は議論が活発化して良いと褒められたんだ。
僕という異物があることで皆の視野が広がるらしい。

それと、彼らは法律のプロを目指していたけれど社会に出て相手をするのは法律のことなど全く知らない素人の場合もあって。
そういう相手にどう説明して納得してもらうかの良い練習台だったようだ。
教授のおじ様イケボに釣られて取った講義だったけど、とても興味深い経験になった。

「そうやね。全部大人の都合。当時は誰も鈴ちゃんを第一に考えてあげられなかった。私も含めてね。それはとても反省しとる。その歪みが時間をかけて手の付けられない魔女に成長させちゃったんやけど」

今でも表舞台で活躍しているという元顧客の方々。
幸いにも脅しているわけではなく友好的な関係を築けているようだけど。
かなり諸刃の剣のように感じる。
現役ヤクザさん達をアゴで使うだけではない。
鈴村さんに集中する権力。

それって軽く指を振るだけでどれだけの影響を与えられるのか。
そんなものを与えられて鈴村さんは怖くないのかな。
好きで振るっているのかな。

「まあ、柏崎の刑期的には強要はおまけでトラック炎上がほとんどなんやけど。あれも鈴ちゃんが撃たれた報復やし。……あの人ももうちょっと考えて行動できんのかしらね。置いてけぼりになる人の気持ちも考えてほしいわ」

昨日の夜、鈴村さんは塀の中に行かせたくない人と言っていた。
あれは自分のせいで罪を重ねた柏崎さんへの自責の念なのか。

「まあ可哀想やったよ。柏崎が逮捕されてすぐの頃の鈴ちゃん。ジャックナイフみたいに荒れる鈴ちゃんをシャンとしなさいって引っ叩いたんは私やけど」

楓さんが人を叩くなんて想像できない。
自暴自棄になっていたとしても優しく抱きしめてくれそうなのに。
鈴村さんも玲司君のことを殴って躾けたみたいに言ってたし。
ヤクザに関わる生活をしてると拳で語りやすくなるのか。
僕はそうならないように気をつけよう。

「そういうことで今日はテレビの中からのご挨拶になるけど。いっぱい可愛いサクラちゃんを写してもらえるようにおめかししましょ」

はいっ。きれいな着物を着てカメラに映してもらえるよう頑張ります。
そうしたら一緒にいる鈴村さんもたくさんテレビに映って柏崎さんに見てもらえる。

この20年間の鈴村さんの気持ちを考えたら胸がすごく痛いけど。
でも僕がそれで泣くのはなんか違う。
だって僕は話を聞いただけ。それも表面をさらりと触れただけ。
鈴村さんの痛みを知ったようで、まだ何も分かってない。
きっと一生かかっても分からない。
だって僕が同じ痛みを覚えなくていいように守ってくれているのが鈴村さんだから。
どうやって恩返しをしたらいいんだろう。

新しく知るたびに、知りたいことが増える。
答えが教科書に載ってる学校の勉強の方がずっと簡単だ。

新しい悩みを抱える僕に楓さんは努めて明るく接してくれる。
その優しさがかえって辛い。
それでも、僕は無理して笑った。
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